教育領域では今、これまでのあり方にとらわれず、芸術や科学技術などさまざまな領域と結びつき、新しい教育プログラムを生み出すための活動が全国で始まっています。ベネッセが東京藝術大学COIと実験的に取り組む「ロボットを使ったコミュニケーション教育」をご紹介します。

ロボット「コミュー」との会話をつくろう

劇作家・演出家の平田オリザさん(東京藝術大学社会連携センター特任教授、劇団「青年団」主宰)による「ロボットを使ったコミュニケーション教育」のモデル授業が、3月13日、兵庫県・豊岡市立五荘(ごのしょう)小学校で行われました。
今回、授業を行ったのは4年生のクラス。コミュニケーションをテーマに、「演劇」を活用して子どもたちに能動的な学びを生み出していく試みの授業でした。
あらかじめ決められた台本に従って、いくつかの台詞を、一定のトーンで、かつ異なる間を空けて発するようにプログラムされたロボット「CommU」(以下、コミュー)が登場。これに対して自然な会話が成立するように、子どもたちはグループで協力して自分たちの台詞を創作し、最後にクラスみんなの前で両者の会話を発表するという内容です。

CommU(コミュー):コミュニケーションロボット。ヴイストン株式会社が開発

コミューが発する台詞は全部で17。一部をご紹介すると……。

コミュー:え、じゃあ、あなたの趣味はなんですか?
コミュー:へー、すごーい。
コミュー:僕は、まだ、生で見たことがないです。

内容は日常的な会話を想定したものですが、コミューの台詞に対して子どもたちがどんな言葉を投げかけるかによって会話の内容は全く変わってきます。
また、コミューの台詞と台詞のあいだに設定されている「間(ま)」の長さも一律ではないため、子どもたちは不自然な間を生まないように自分たちの台詞の長さを工夫しなければなりません。

「自然な会話」を探究する子どもたち

平田さんとコミューの会話を見つめる子どもたち

授業では、最初に平田さんと五荘小学校の先生がコミューとの会話にチャレンジしました。
それを見たところで、いよいよ子どもたちが台詞を考えます。4、5人のグループに分かれ、まずコミューの台詞だけが書かれたプリントを通読します。その後、自然な会話になるように自分たちが発する言葉を考え、コミューの台詞と台詞の間の空欄に書き込むと、彼らとコミューとの会話の台本が完成します。

子どもたちが台詞を書き込むために配られた台本用紙

「コミューに話すときは、私たちは敬語がいいのかなあ?」
「生で見たことがあるかないかが答えられるような趣味にしないといけないね! じゃあ、趣味はミュージカルを見ることにしようよ!」
「最後の台詞は『一緒にミュージカルを見に行く?』ってコミューへの質問にする? それとも『一緒にミュージカルを見に行こう!』ってコミューへのお誘いの言葉にする?」

台本は子どもたちの話し合いで空欄が埋まっていく

子どもたちは、「ロボットとの会話」という初めての体験に気持ちが高ぶり、およそ20分間の話し合いにのめり込んでいきます。台詞を書いたり消したりするうちに会話の大きな流れが決まっていきますが、すると今度は細かな部分に違和感を感じ始めます。
中でも、子どもたちが悩んだのがコミューとのお出かけのときの「持ち物」です。
台本ではコミューと趣味を楽しむために出かける際に「持っていくもの」をいくつか決めるのですが、あるグループは、自分たちが設定した趣味の「ミュージカル鑑賞」では、当初想定していたカメラやお弁当は持ち物として不自然であることに気づき、さらに話し合いを続けます。

「ミュージカルにカメラを持って行っちゃだめでしょ!」
「お弁当? ダメダメ、劇場は飲食禁止だもん!」
「平田先生は、劇だから創作してもいいよって言ってたよね。趣味はミュージカルじゃなくて、山登りにしてみない?」

台本の違和感をグループでチェック

台詞が完成したグループはコミューを相手に練習をし、平田さんからアドバイスをもらいます。
実際に演じてみると会話として不自然な部分がさらに明らかになってきたので、さらに話し合います。

平田さんのアドバイスを受ける子どもたち

「このままだとコミューの台詞まで変な間が空いちゃうから、『楽しそうだね!』『そうだねー』とか言葉を足そうよ」
「最後にみんなでコミューに『また明日ね!』って言ったほうが自然だよね!」

話し合いを重ねて台本のリアリティが増していく

ロボットに向き合い、仲間とつながる

授業のクライマックスは、みんなの前でコミューとの会話の発表です。プロ野球観戦や東京オリンピック、山登りなど、各グループで設定した「趣味」を話題の中心にして、コミューとのおしゃべりが次々と披露されます。

グループで話し合って作った台本でコミューと対話する子どもたち

コミューは、決められた台詞を決められたペースとトーンで話すのみですが、相手となるグループが変わるたびに、子どもたちとの関係性が違って見えます。

ロボットを相手に会話を成立させるという授業から、子どもたちは、コミュニケーションを成立させるためには意味のつながり、そして言葉と言葉の間が大切であることを体験的に学びました。しかし、コミューに対するそれよりも濃密なコミュニケーションが生まれていたのがグループの中での子ども同士でした。
こうした授業に取り組む意図に対して、終了後に平田さん、鳥居校長先生にお聞きしました。

今回の授業の価値について

平田オリザさん

「ロボットという、ある意味で不自由な存在との間にコミュニケーションを成立させるために、今日の授業では仲間と力を合わせることが子どもたちに求められました。協働する過程では当然意見が衝突しますから、お互いに折り合いをつける必要も生じます。子どもたちは、ロボットとの関係において、さらに友だち同士のつながりにおいても、コミュニケーションの成立のさせ方を考えていったはずです」

豊岡市立五荘小学校校長・鳥居保先生

「コミュニケーションはすべての教科の土台であり、よき市民としての素養でもあります。今日の授業では、子どもたちは共通の目的に向かってとことん話し合い、折り合いをつけようとしていました。子どもたちの対話する力をふだんの授業でももっと引き出すよう工夫していきたいと思います」

今回の授業は、ロボットを教具として、これからの社会でますます重要になるコミュニケーション力を育もうとするものでした。
授業に参加したベネッセコーポレーション商品開発推進部の星千枝は語ります。

「ベネッセではこのような教育現場の新たな取り組みに協力し、その知見を広く社会と共有できるようにしていきたいと考えています。
今日の平田先生の授業も、相手に配慮したコミュニケーション力はもちろん、チームの中で他者と協働する力が発揮されます。また、コミューの台詞に合うように自分たちの台詞を作るときには、『すごーい』と言わせるもの、生で見るもの、連れて行くもの、などの必要な条件を読み取り、その条件に合った要素を選んで組み合わせる力、すなわちプログラミング的思考の条件制御の考えも必要です。このように、この授業は現代社会で子ども達に必要とされる多様な力を育む可能性を秘めています。さまざまな研究機関と連携しながら、日々の学校の授業をよりよいものにするヒントを模索していきたいです」


文部科学省と科学技術振興機構が2013年度から開始したCOI(「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」)は、既存の分野や組織の壁を取り払い、革新的イノベーションの実現を産学官連携でめざす取り組みです。その一つである東京藝術大学COIは、芸術と科学技術が融合したコンテンツを教育・介護等の分野で活かすことを主眼に研究開発を進めており、ベネッセホールディングスは2015年度から参画しています。今回ご紹介した「ロボットを使ったコミュニケーション教育」のモデル授業も、東京藝術大学COIのプロジェクトの一つです。ベネッセホールディングスは、こうした実験的なプログラムを試行しながら、これからの未来を生きる子どもたちに心の豊かさをもたらす、新しい学びのあり方を追究し、その成果を社会へ広く還元していきます。

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プロフィール

平田オリザさん

1962年 東京都生まれ。劇作家、演出家。こまばアゴラ劇場総監督、劇団「青年団」主宰。城崎国際アートセンター芸術監督/東京藝術大学社会連携センター特任教授/大阪大学COデザインセンター特任教授。
平田さんの戯曲はフランスを中心に世界各国語に翻訳・出版されています。2020年度以降中学校の国語教科書にも平田さんのワークショップの方法論に基づいた教材が採用され、多くの子どもたちが教室で演劇を捜索する体験を行っています。