ベネッセグループで介護事業を担うベネッセスタイルケアの研究機関「ベネッセ シニア・介護研究所」では、介護や認知症ケアにおける独自の取り組みを行っています。「第1回 日英認知症会議」での発表も行った同研究所に、話を聞きました。

ベネッセでは、「年をとればとるほど幸せになる社会」の実現に向けて、1995年に介護事業をスタート。グループで介護事業を担う株式会社ベネッセスタイルケアでは、「その方らしさに、深く寄りそう。」という理念(※1)のもと、事業を展開しています。その研究機関として、2015年11月11日(介護の日)に設立されたのが、「ベネッセ シニア・介護研究所」です。

高齢者人口は、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には3,677万人(※2)に達すると見込まれている日本。超高齢社会を目前にして、働き盛りの世代に重くのしかかるのが、介護問題です。特に、介護が必要となる主な原因として挙げられる認知症は、国や公共機関、民間企業が連携して取り組むべき社会課題とも言えます。
この時代環境のなか、介護、認知症ケアにおける独自の取り組みを行い、「第1回 日英認知症会議」での発表も行った同研究所に、話を聞きました。

高齢者・介護の未解決テーマに取り組む「ベネッセ シニア・介護研究所」

ベネッセ シニア・介護研究所が取り組むテーマについて、事務局長・奥村太作氏はこう語ります。
「研究所では三つのテーマを掲げています。一つめが、『高齢者・介護に関する未解決のテーマに取り組む』。二つめが、『現場の実態やご利用者、ご家族・介護スタッフの声を発信する』。三つめが、『介護人材の成長とキャリアにフォーカスした研究を行う』です。これらのテーマに関する情報を随時、研究所のWEBサイトなどを通して発信しています。」

奥村太作氏(ベネッセ シニア・介護研究所 事務局長)

その中で今、研究所が重点的に取り組んでいるのが認知症ケアプロジェクト。
主任研究員・福田亮子氏によると、
「老人ホームにおける認知症への対応策は、個々のホームで閉じられがちで、全体で共有することは、あまりありませんでした。しかし、他のホームでも参考になる事例は色々あるのではないかと思ったのです。
そこで各ホームに足を運び、スタッフのミーティングなどに参加したり、ホームを担当している事業部のスタッフにも話を聞きながら、認知症ケアの好事例を収集しました。
そして、集めた事例の分析・体系化を進め、29個を抽出して形にしたのが、“認知症ケアメソッド”です。

“認知症ケアメソッド”の冊子とカード

『今、すぐにやる』、『思うがまま、やる』、『活動に自然参加』……といった計29のメソッドを、現場で使いやすいようにカード化し、スタッフやご入居者がどういう行動をすると、どういう効果が期待できるか、イラスト付きでまとめています。
メソッドが実際の場面でどういった効果を出すかを見るために、現在ベネッセスタイルケアの一部の老人ホームにテスト導入し、検証を続けています。」

福田亮子氏(ベネッセ シニア・介護研究所 主任研究員)

「第1回 日英認知症会議」に参加し、認知症ケアへの取り組みを発表

ベネッセスタイルケアは、認知症対策において国際連携による取り組みの重要性の認識を高めるために開催された「第1回 日英認知症会議」で、この取り組みを発表しています。

Social&Care分科会では福田氏がモデレーター兼スピーカーとして、また、メソッドをテスト導入している同社「くらら宮前平」ホーム長の志村氏が事例スピーカーとして登壇。「その方らしさに深く寄りそう認知症ケア」をテーマに、日英の参加者に向けスピーチを行いました。

2018年3月15日、東京・六本木で開催された「第1回 日英認知症会議」より

“認知症ケアメソッド”の実践が、入居者・スタッフを笑顔に変える

メソッドをテスト導入している「くらら宮前平」ホーム長の志村氏は、具体的な実践事例を次のように話し、参加者の関心を集めました。

「私たちのホームでは、“認知症ケアメソッド”の『五感を刺激するものをちりばめる』をもとに、料理や編み物、浴衣の着付けなど、ご入居者が興味をお持ちのものを配置し、自発的に活動したくなる環境をつくっていきました。
ある日、ホームの玄関先で育てていたナスを収穫し、リビングに置いてみました。すると、あるご入居者が興味深そうに手に取って、美味しく食べるには・・・と、料理の話をし始めたのです。この方は、いつもご自分の部屋で生活している方でしたが、これをきっかけに、リビングに出ることが増えていきました。

そういった活動を誰かが始めると、それを見ていた他の方も興味を持ち、いつの間にか一緒に参加するようになります。これは、『活動に自然参加』というメソッドにあたります。さらに、何かができたことを周りの人が『一緒に喜ぶ』ことで満足感が得られ、できた自信と、次のことをやりたいという気持ちに繋がっていきます。こうして、メソッドを一つずつ実践していくと自発的な活動のサイクルがどんどん回るようになるのです。
昔は当たり前にやっていたのに、家ではできなくなったこと、一人だったらしないことも、ホームならできる。周りに誰かがいるからできる、誰かのためにやる。これがホームの役割だと思っています。」

ご入居者お一人おひとりが、それまでにどう暮らしてこられたか。何に興味があり、何をやりたいか。「その方らしさに、深く寄りそう。」というベネッセスタイルケアの事業理念のように、これまでの人生を受け止め、尊重してこそ実践できる活動です。

さらに、志村氏は、
「以前は、ホームのスタッフは、認知症ケアに困惑し疲弊していました。しかし先入観を捨ててメソッドを使うことで、ご入居者がその方らしい生活を取り戻していくと、スタッフも一緒に楽しくやっていけるようになり、今では活気に満ちています。同時に、離職も減ってきました。
ご入居者の活動が増えることで、要介護度の改善、ホームとしての入居率向上にもつながりつつあります」と、実践の効果を語りました。

「くらら宮前平」ホーム長の志村隆弘氏

同会議では、認知症は病気ではなく誰もが当事者となり得ること、その人らしさを失わずに暮らすための認知症ケアは、世界共通の社会課題として取り組む必要があることが、日本と英国の事例を通して語られました。
「人生100年時代」とも言われる今、取り組みを可視化し、メソッドといったかたちにする新たな挑戦は、組織や国の枠を超えた課題解決につながっていくのかもしれません。

関連サイト


(※1)ベネッセスタイルケアの事業理念
https://www.benesse-style-care.co.jp/company/idea

(※2)出典:「平成29年版高齢社会白書(全体版)」(内閣府)より
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_1_1.html