障害者雇用促進法により、民間企業における障がい者雇用が増えている一方で、障がいの度合いや加齢などによって、実際は働くことができない障がい者がたくさんいます。ベネッセソシアスは、意欲あるすべての障がい者が、働くことで社会や人とつながる喜びを実感できる社会をめざし、継続した就労支援と共に、生活と心の“拠り所”となる場所の創出に取り組んでいます。お互いの違いや個性を認め合い、たくさんの「ありがとう」があふれる、ベネッセソシアスの福祉サービスセンターの現場で設立の背景や思いを聞きました。

採用の受け皿がない障がい者がいる。長く働き続けることができる場所をつくるためにはどうしたら?

ベネッセソシアスは、障がい者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための福祉サービス事業を展開するベネッセグループの会社です。

その設立の背景には、障がい者雇用の現場で見えたある課題がありました。ベネッセグループには、事業を支える業務のサポート等を担う障がい者を雇用する特例子会社、ベネッセビジネスメイトがありますが、ベネッセソシアスを立ち上げた山口(ベネッセソシアス/代表取締役社長)は、当時そこで障がい者の採用の場に立ちあう中で、
「一般企業に就職するにはもう少しトレーニングが必要なかた、ストレスの少ない労働環境が必要なかたが大勢いらっしゃることに気づきました」と、設立にいたるきっかけについて話しました。

「よく生きる」を企業理念にもつベネッセとして、何かできることがあるのではないか――その1つの思いから、新たな事業の検討が始まりました。障がいの重い層も含めた、多様な障がい者が働ける職場創出のため、「難度の低い職域の開発」を鍵として計画を練るなか、浮上したのが<就労継続支援A型事業所>(以降「A型事業」)の可能性でした。

■就労継続支援A型事業所
企業等での就労は難しいが、雇用契約に基づいて継続的に就労することが可能な方々に対して、生産活動等の機会の提供、および就労に必要な知識や能力の向上のためのトレーニング、そのほかの必要な支援を行う事業所。

A型事業を視野にしたさまざまな検討を経て、山口は介護ホームを運営するグループ会社と提携した大型洗濯センターの事業化と会社設立の企画を策定。その後、社内の説得と理解を得て、2016年に誕生したのがA型事業の指定を受けた、ベネッセソシアスの稲城センターです。

“ソシアス”は、ラテン語で「仲間」という意味。当初、稲城から始まった洗濯センターを、2019年には板橋にも開設。稲城センター開始時は、4つの介護ホームからの洗濯業務をメンバー4名で行っていたが、現在、2つのセンターへの受託ホーム数は80を超え、74名のメンバーが働いている。

「そんなことができるようになったんだ」毎日に、小さな奇跡と「ありがとう」があふれる現場

稲城センターを訪れると、ベネッセソシアスの従業員でありながら、同時に一般就労に向けた支援・トレーニングを受ける、福祉サービスの「利用者」でもあるメンバーたちがいきいきと働く現場がありました。

グループのベネッセスタイルケアが運営する介護ホームの入居者の洗濯物やタオルが次々と届く。メンバーたちは洗濯物のポケットに何か入っていないか、丁寧にチェック。衣類の種類に応じて、乾燥にかけていいもの、そうでないものなどをより分け、洗濯・乾燥したら個人別に衣類を畳み、タオルとあわせてホームごとのランドリー袋に入れていく。記憶力・暗記力が優れている人、タオルをきっちり畳むことが得意な人、畳んだたくさんの洋服を袋に詰めることが得意な人、それぞれの特性が垣間見える。お互いの顔が見えるよう対面式となっている作業場で、一連の業務がてきぱきと行われていた。

山口と、内藤(ベネッセソシアス取締役/事業部長)に「毎日に小さな奇跡が起きている」というメンバーたちの成長について、聞いてみました。

「入社したとき、挨拶することができなかった人が、今はみんなのリーダー的な存在になっていて働いています。また、障がいの特性もあり、とてもゆっくりしか動けなかった人が(働くうちに周りの人の動きを見て)早歩きするようになり、幼少時代から彼女を支援していた支援員のかたが「早く歩くのを初めて見た!」という話もありました」(内藤)

「ここでは、一日の終わりに支援員たちとミーティングを行います。稲城センターには40名の利用者のかたがいて、それだけの人がいると毎日のように「そんなことができるようになったんだ」ということの連続です」(山口)

稲城センターの現場からは、頻繁に「ありがとう」いう言葉が聞こえてきます。

「お客様から「ありがとう」と言われる仕事をしよう、がソシアスの約束です。ただ、介護ホームの入居者の方から、直接その声が届くわけではありません。だから、ここでは私も、支援員たちも、積極的に「ありがとう」を何度も伝えるようにしています。「ありがとう」は魔法の言葉。そう言うと、顔がぱっと明るくなり、輝くのがわかります。そうした積み重ねが働きがいになり、最終的にはお客様の満足にもつながる、そう考えています」(内藤)

(写真左)介護ホームの洗濯物を届けてくれる配達員の方からソシアスのメンバーに送られた、感謝状。ミーティングや休憩の場に使われる多目的ルームのホワイトボードに大切に張られている。(写真右)お客様の顔を思い浮かべ、「ありがとう」と言われる仕事をしよう、掲出されている「ベネッセソシアスの約束」。

働くことは特別なこと。社会と、人とつながる“拠り所”であり続けたい

働く人たちのいきいきとした様子が印象的な現場でしたが、コロナ禍での、緊急事態宣言を受けて、洗濯業務の大幅な縮小と共に、メンバーたちは1か月半もの間、自宅待機になりました。内藤は、宣言が解除されたのちの業務再開の時が「忘れられない」といいます。

「稲城センターに洗濯を委託してくださっている介護ホームのご担当者に、業務の再開をご連絡したところ、「待っていました!」「ありがとうございます」という声が届いて、「すごく必要とされていたんだ」ということを改めて感じました。コロナ禍でもメンバーとは毎日電話をしながら洗濯物を畳む練習をしてもらっていましたが、復帰に際し全員にテストをしたとき、とても緊張していて、でも合格した時にははればれとした表情で…。再開してから、まさにいきいきと働く、そんなみんなの姿を見て胸が熱くなりました」(内藤)

「「働くこと」は特別なことです。障がい者のかたは、障害年金などをもらうことで「生きていく」ことはできるかもしれません。ただ、彼らが本当に求めているものは、働くことによって、人や社会と“つながる”ことではないか――そう考えています。ソシアスに来てくれる人にとって、ここは“拠り所”。彼らが無理なく、そして長く勤められる場所であり続けたい、と思います」(山口)


稲城センターで。ベネッセソシアスを設立した山口 元(写真右)、ベネッセスタイルケアで介護ホーム長などを勤めたのち、志願して異動したという内藤 進(写真左)。

この夏には、ソーシャルファーム(東京都が認証する、障がい者やひとり親、ひきこもりを経験された方など、就労に困難を抱える方を雇用する社会的企業)の事業所開設も都内に予定しており、また一つ、ベネッセソシアスの新たな挑戦が始まります。


ベネッセグループは2021年3月、障がい者の社会進出を推進する国際的な活動である「The Valuable 500(※1)」に賛同、署名を行いました。多様な人材を受け入れ、障がいの有無にかかわらずそれぞれが能力を発揮できる環境づくりを目指し、積極的な障がい者雇用を進めるほか、未来を担う子どもたちのために、障がいに配慮した教材開発の取り組みなどを行っています。

※1:The Valuable 500とは:2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて発足した国際的なネットワーク。インクルーシブな社会を実現することを目的とし、障がい者のインクルージョンに取り組む企業500社の賛同を得ることをめざして活動しています。

情報協力

株式会社ベネッセソシアス

https://www.benesse-socius.co.jp/
2016年設立。障がい者一人ひとりに対して、個人の持つ特性や能力に合わせた就労支援を実施。たくさんの「ありがとう」と言われる体験を通して、仕事のやりがいや互いに助け合う大切さを学び、社会や地域に貢献できる人材の輩出をめざしている。