近年、「多様性」や「インクルーシブ」という言葉がよく聞かれるようになりました。
「多様性」とは、人種や国籍、性別や年齢、障がいの有無などの様々な違いを個性や特徴としてとらえること。そして、包括的なさまを意味する「インクルーシブ」は、多様な個性を受け入れながら、違いを認めお互いを尊重しあうという姿勢です。多様な人たちが共生できるよりよい社会づくり、インクルーシブな社会をめざす動きが広がっています。
今回、ベネッセの英語教室 ビースタジオで英語を学ぶ子どもたちが訪れた「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、体験の中で「多様性」や「インクルーシブ」の気づきを得られる場です。真っ暗闇の中を、視覚障がい者のアテンドと呼ばれるスタッフが案内します。暗闇の中では自分の感覚を頼りに進み、様々なシーンを体験します。
初めての体験の中、子どもたちはどのようなことに気づいたのでしょうか。企画担当者の思いとともにご紹介します。

対話を通して、多様性を実感する。
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは?

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、DID)」は、暗闇での体験を通して、人と人とのかかわりや対話の大切さ、五感の豊かさを感じる「ソーシャルエンターテイメント」です。ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案から生まれたこの活動は、これまでに世界47カ国以上で開催され、900万人を超える人が体験しています。日本では1999年の初開催以降、短期開催を繰り返したのちに、現在では常設されています。
DIDでは、視覚障がい者が特別なトレーニングを積み重ねて案内役となり、漆黒の暗闇の中へ参加者を導きます。体験には複数名がチームとなって参加し、ともに暗闇の体験を分かち合い、対話をしながら協力してミッションに挑み、さまざまなシーンを体験します。

完全に光を閉ざした空間で、視覚以外の感覚を広げ新しい感性を磨きながら対話を楽しむことができる

今回の企画はDIDを運営する一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティとベネッセのダイバーシティ推進部門、そしてビースタジオとの連携により行われました。
企画担当の一人で、普段は事業戦略推進に携わりながら、ベネッセグループのダイバーシティ推進に関わっている川田は、今回の企画の主旨について、「これからのインクルーシブな社会を担っていく次世代の子どもたちに、多様な価値観に触れる機会を提供したいと思い企画しました。感受性のやわらかな時期に、自分の体験を通して多様性を感じ考えることは、とても貴重な機会になると思います。」と語ります。またビースタジオの担当者である加藤は、DIDとビースタジオとのコラボレーションについて「ビースタジオには、ふだんから英語を学び、いずれはグローバルな世界へと羽ばたいていく子どもたちが多くいます。様々な人種、価値観をもつ人たちがいる世界、そして今後の日本においても、多様性を理解することやインクルーシブを当たり前のこととして捉えながら未来を切りひらいていくことが大切です。DIDのような普段体験できないような世界の中で、多様な価値観に出合い、対話を通して互いを知り、コミュニケーションすることの大切さを感じてほしいです。」と話します。


子どもたちが、暗闇の世界を体験。
手触りと声を頼りに進む先で、気づいたこととは?

今回企画では、7~19歳のお子さまのいる親子22組と、いつも子どもたちに英語を教えている講師の先生9名が参加しました。
体験の際は8名ずつに分かれて、それぞれのチームをアテンドが案内します。

まず、暗闇への入り口に続くドアの前に集まり、アテンドから部屋の中は完全な暗闇であること、お互いに声を掛け合い、周囲を触って確認しながら進むことといった説明を受けると、参加者は緊張した面持ちになりました。

2023年12月のクリスマスバージョンの特別編を体験

部屋に入る前に、視覚障がい者が周りの環境を確認するために使う白杖(はくじょう)の説明を受け、それぞれが自分の身長に合った長さの杖を選び、準備を整えます。白い大きな扉がゆっくりと開き、おそるおそる部屋の中へ。そして扉がしまると漆黒の暗闇に包まれます。

暗闇の中は、手触りや音の感覚を頼りにした、普段とまったく異なる感覚の世界です。アテンドの声に導かれながら参加者同士が協力して移動します。触れたものの輪郭や質感を感じながら歩く、声のする方へ手を伸ばし何かを受け取る、お菓子や飲み物を味わう。ふだんの生活では意識しない新たな感覚や、何気なくしていることができない不自由さなど、気づきにあふれる体験が続きます。

真っ暗闇の体験は約90分間。触覚や声をたぐりよせながら暗闇を進み、再び光のある世界へのドアがあくと同時に光が勢いよく差し込んでくると、ふだんの日常にハッとさせられるような不思議な感覚があります。
子どもたちの口からは「最初は暗くてこわかったけど、アテンドの声で安心できた」「お母さんが怖がっていたから、私が先に進んだ。役に立ててうれしかった」「途中から暗いのに慣れてきておもしろかった」など、次々と感想があふれます。

また、イベント終了後、体験した親子と講師のかたにアンケートに答えてもらいました。

今回親子でイベントに参加したおうちのかたからは、子どもの普段感じない一面が感じられたという声が多数あがりました。

DIDを体験された方向けアンケートより(回答数:親子22組、講師9名)

あるおうちのかたは「最初は声が小さく、自分の名前もちゃんと伝えられなかった子が、暗闇を歩きだしたら、たくさん大きな声を出して、いろいろなことを周りに伝えていて驚きました」と、お子さんのいつもと違う様子をとらえていました。暗闇の中でお互いが対等になり、自分らしさを発揮することにつながっています。

そのほかにも、お子さんがこわがらずに暗闇の中を進んだり、ふだんは口数が少ないのにハキハキと周囲に状況を伝えたりする姿に、驚きや喜び、そしてお子さんを頼もしく感じたという声が上がりました。


障がいがある人への意識変化に加えて、
日常の行動変化も

あるお子さんは「最初は、目が見えない人のことを、見える人が“助ける人” だと思っていたけれど、暗闇では目の見えない人がとても頼りになりました」と、暗闇の中で、視覚障がい者に対してイメージが変わったことを言葉にしています。
また、あるおうちのかたからは「体験後、杖をついて階段をのぼっている人を見かけました。娘と私は『手を貸しますよ』と言い、娘は腕を差し出しました。普段は物静かな娘ですが、(DIDでのふれあいを機に)積極的な行動を起こせたことを誇らしく思いました。」と日々の行動の中でも起こった変化を教えてくれました。

ある講師のかたからは「ただ“伝えたい”だけだと一方的になってしまう。今回の体験で、相手にも“聞きたい”と思ってもらえるような、言葉のキャッチボールの大切さを考えさせられました」と、対話の大切さについての声をもらいました。

このような変化は、体験の事前と事後の参加者の気持ちを伺ったデータにも表れています。暗闇の中で、誰かの役に立つという実感が「自分自身に満足している」という自己肯定感につながったり、声をかけ合い協力し合うことで「相手が喜んでいると自分もうれしくなる」という他者との気持ちを分かち合う喜びが高まったりしています。

※ダイアログ・イン・ザ・ダークによる効果測定アンケートより

また、視覚障がい者と直接接する体験から「できる・楽しめる」「手伝う」などのポジティブなイメージのスコアが上がっていたことも印象的でした。

日頃、「多様性を大切にしよう」「障がいがある人が困っていたら手助けをしよう」と口ではいっても、実際にはどのようにすればよいかを迷うかたが多いのではないでしょうか。
子どもたちの声やデータからは、DIDでの体験を通し、多様性を感じ、障がい者を理解するきっかけを得たことが感じ取れる結果となりました。


誰もが自分らしく、
お互いに助け合うあたたかな社会を目指して

イベントを終え、ビースタジオで企画の告知や実施に携わった担当の加藤は「ふだんのレッスンで、英語を楽しく身につけることはできても、多様性を感じながら考えることまではなかなか難しいのが現状です。昨今はコロナ禍の影響もあってキャンプなどの以前は行っていた体験の機会も少なくなっていました。今回のDIDでは、複数の教室の生徒さん同士をつなぐこともでき、あらためてビースタジオの『世界の人たちと手と手を取り合う』という経営理念を心に刻むとともに、その大切さを実感することができました。多様性について知り、理解を深めたこの体験が、参加した生徒のみなさんにとって今後の未来や世界に羽ばたく一助となることを願っています」と語ります。

また、同じビースタジオの担当である角田は「ビースタジオは『BE YOURSELF(あなたらしくあれ)』というメッセージを掲げています。多様性の根本には、まず自分が自分らしくあることも大切です。他者とのふれあいや新しい経験の中で気づいた自分らしさを大切にしながら、さまざまな人と対話し、新しい未来をつくっていってほしいと思います」と語りました。

川田は、イベントを振り返り、このような広い学びの機会を多くの子どもたちに届けていきたいと話します。「これからも、多様性のあるインクルーシブな社会を実現するための取り組みを積極的に行っていきたいです。他者への想像力をもって、対話や助け合いの行動ができる人が少しずつでも増えていくことが、あたたかい社会につながっていくと思います。」

「暗闇での体験」によって、ふだんのビースタジオでの英語の学びから、多様性の理解やインクルーシブの考え方という広く深い学びの機会を提供することができました。
今後も、ベネッセグループでは様々な違いや価値観に気づき、個性や違いを認め合いながら自分らしく生きるための機会提供や取り組みを行っていきます。

情報協力

川田夏子

株式会社ベネッセコーポレーション
校外学習カンパニー戦略推進部
自身のがん当事者体験を周囲・社会に還元したいという思いから、ベネッセホールディングス ダイバーシティ推進部を兼務


角田大介

株式会社ベネッセビースタジオ
経営推進部 コーポ推進課 課長
経営企画部 人事企画担当
経理財務の責任者を経て、コーポレート全体を管理する


加藤初美

株式会社ベネッセビースタジオ
経営推進部 コーポ推進課
経営企画部 人事企画担当
社員の衛生管理と健康経営を推進する