2025.11.07
経営層やリーダーたちが参加し、体感したアートの力とは。企業価値向上とアートの関係を考えた「SETOUCHI企業フォーラム」
活況のうちに閉幕した大阪万博の後も、この秋に国内外から多くの人が目的地として訪れる場所があります。瀬戸内海の直島やその周辺の島々では、3年に1度行われる瀬戸内国際芸術祭の秋会期が開催され、日々大変なにぎわいを見せています。2025年10月、芸術祭の最中で盛り上がりを見せる瀬戸内で、企業の経営層やリーダーの方々が参加する「SETOUCHI企業フォーラム」が行われました。
アートは企業や地域社会にどんな影響をもたらすのか。そして、企業はアートを活用しながらいかにして企業としての持続性を高め、その先に地域社会へと貢献ができるのか。体験プログラムの後に行われたクロージングセッションのフォーラムにはベネッセコーポレーション代表取締役会長兼社長の岩瀬大輔も登壇。ベネッセアートサイト直島の活動の特長やアートの力を活用したこれからの挑戦について語りました。
島々を巡る体験と対話や交流を通じてアートの力を紐解き、今後の企業活動・経営に向けた様々なヒントと示唆が生まれたイベントについてお伝えします。
企業経営とアートをつなげ、持続可能な地域社会を目指す体験と対話の場
豊かな自然、歴史や文化によって育まれてきた瀬戸内の島々を舞台に行われ、国内外からの注目を集め続ける「瀬戸内国際芸術祭」。2010年に始まった芸術祭は今年で6回目を迎え、アートを活用した日本における地域型芸術祭の代表的なモデルであり、地域とつながりながら社会課題の解決や未来を考えるコミュニティ形成のプラットフォームともなっています。
その芸術祭と共に行われる「SETOUCHI企業フォーラム」(主催/瀬戸内国際芸術祭実行委員会、共催/株式会社ベネッセコーポレーション)は、企業経営とアートをいかにして戦略的につなげ、その先に持続可能な地域や社会をいかに実現していくか。多様な視点から考える機会となることを目指して開催されてきました。
Benesse House Museum Outdoor Works, Shinro Ohtake, Shipyard Works: Stern with Hole, 1990
島々を巡って体験し、対話することで見えてきたアートの力
2025年10月17日から19日に開催された今回の「SETOUCHI企業フォーラム」には、多くの企業の経営者やリーダーの方々が参加。期間中、島々とそこにある現代アートにふれ対話を重ねる中で、アートが企業活動や地域社会にもたらすものと、企業ができることは何かを考え・議論を深めていきました。
1日目 『企業とアート』
オープニングレクチャーとして行われたのは福武總一郎(瀬戸内国際芸術祭総合プロデューサー)による基調講演。「現代アートによる地域再生」をテーマに、高度成長期の負の遺産を抱えることとなった歴史から建築やアートによってもたらされた地域の変化。さらに、島の人々との活動をきっかけとして幸せや本質的な豊かさとは何かを問う中で、ついには福武書店からベネッセへと社名変更に至った経緯が語られました。
その後は、正解のない問いに向き合うアート思考を培う「ベネッセアートサイト直島」独自の対話型鑑賞の体験をはさんで、島民の記憶を地域の人々と共に継承する家プロジェクト、「よく生きる」を地域やアジア、グローバルの視点で考察する場所として新たに今年5月に公開された直島新美術館を鑑賞。過去から未来へと向けられる強いメッセージを感じた初日となりました。
2日目 『社会課題とアート』
一連のアート活動や芸術祭の背景にあった地域課題を知るため、ハンセン病患者が長く強制隔離されてきた療養所のある大島、“豊島事件”として知られる産業廃棄物の不法投棄事件が起こった豊島を訪れます。
大島では島全体が療養所として機能していた足跡をたどりながら、入所者の記憶や思いを元にした作品を鑑賞。豊島では今も残る事件の跡地や資料館で、深刻な環境問題に対する住民の葛藤や島本来の姿を取り戻すための苦闘を当事者から伺います。その後、美しい瀬戸内海を望みながらも長く休耕田となっていた棚田を住民とともに再生し、その一角に造られた豊島美術館を鑑賞。深刻な社会課題を抱えた島々がアートと共に成し遂げた変化や、深く記憶へと刻まれる体験を振り返り、これらを原体験に企業として取り組むことは何か。熱い議論と対話の時間は夜まで続きました。
3日目 『地域とアート/フォーラム』
最終日を迎えたこの日の午前は男木島へ。一時期は深刻な過疎化で島唯一の学校が休校になり、にぎやかな子どもたちや人々の姿が消えた島が、瀬戸内国際芸術祭の舞台の一つに。その大きな転機から、近年は移住者が増えて小中学校が復活するなどアートと共に目覚ましい再生を遂げたその道筋をたどりながら、作品を鑑賞します。
未来へと向かう力強い空気感を味わいながら、体験と対話を重ねたプログラムは終了。参加者達はそれぞれに余韻をもち寄りながら、クロージングセッションとして行われた企業フォーラムの会場へと向かいました。
アートがもつ特有な力を企業価値の向上へとつなぐ挑戦を
3日にわたる体験を振り返り、これからの企業活動や経営の未来を考えたフォーラム。会場となったリーガゼストホテル高松には、芸術祭の協賛企業などを中心におよそ100名の方々が参加しました。
はじめに香川県知事の池田豊人氏より挨拶が述べられた後、瀬戸内国際芸術祭の総合ディレクターである北川フラム氏は「海からつながる世界」として芸術祭の根底にあった課題やその本質について講演。続いて登壇した、サステナビリティや環境保全に取り組む企業をESG投資等で支援する渋澤健氏(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役)は、「新しい時代の企業価値」として企業の価値は株価や収益など目に見える部分だけではなく、企業文化や人など目に見えない部分こそが重要であり、アートはそうした目に見えない価値を可視化しながら本質的な問いを投げかける力がある、といったお話をされました。
その後、「企業とアート」をテーマとする企業事例の発表で、「直島から「よく生きる」を問う」と題して、ベネッセコーポレーション代表取締役会長兼社長の岩瀬大輔が登壇。ベネッセアートサイト直島の活動の特長や、アートのもつ力、そしてベネッセが今後目指していきたいことを次のように語りました。
「ベネッセは、ラテン語を元とする「Benesse=よく生きる」という社名でもあり企業理念をもつ会社で、会社としての競争力や求心力の源泉ともなるほど、社員たちはこの言葉を大切にしています。そしてこの「よく生きる」をまさに体現しているのがベネッセアートサイト直島による一連の活動だと捉えています。長年の活動を通じ、今では年間70万人を超える方々がこの地に訪れるようになるほど地域に大きなインパクトをもたらしたこの活動の特長は3つあると考えています。一つは自然とアート、建築の三つが一体となることで豊かな鑑賞体験を創出していること。そして、地域の方々が時には作品づくりに参加し、ガイドをされるなど主体的に活動に参加されていること。さらに、この場所に来ることで、特別な感覚と共にいろんなことを考えさせられる点。深い内省を私たちに迫る魅力がベネッセアートサイト直島の活動にはあると感じています」
「改めてアートのもつ力って何なんだろうと考えると、物事の見方を変えること。社会的な対話を促すこと。深い考えを引き出す問いを創出すること。そして、アートという形式をとってコミュニケーションされることによって非常に豊かに伝わること。一昨日や昨日と島を回る中で、大島ではハンセン病の療養者だった方の一生を元にしたアート作品など、史料館で記録を見るのとはまた違う形で一生記憶に残るような強烈なパワーを感じることができました。豊島美術館は座っているだけで色々なことを考えさせられる場ですし、ベネッセハウスミュージアムに展示されているブルース・ナウマンの「100 Live and Die」という、どう生きて死ぬのか―様々な言葉を投げかける作品などは見ているうちに、全力で生き抜くということの意味は何なんだろうと。まさに「よく生きる」というお題を与えられたように感じ、これこそアートがもつ独特の力だと思います」
「そして、この我々にとって唯一無二の資産であり、さまざまな力をもつアート活動をどう企業としての価値にしていくのか。それは、この後の大きなポイントだと感じています。まずは社員が直島の活動への意識をもって、出会うお客様に私たちのアイデンティティとして伝えていくこと。そして、私たちがお届けしている教育サービスがどんな理念や思いをもったものなのか。理念を体現する直島や瀬戸内での活動と共に知っていただけるような取り組みができればと思います。また、大切な社員の一体感を強めるためにも、この場所に来る機会をつくりながらアート特有の力をもって新しいプロダクトを誘発する、そんな循環が生まれる挑戦をしていきたいと考えています」
この後、日本の文化と共にアートがもつポジティブな影響をいかにして世界へと情報発信しながら、ビジネスや地域、そして社会の向上へと結んでいくかの多角的な議論が続き「SETOUCHI企業フォーラム」は閉幕しました。
本質的な問いを生みながら深く記憶へと刻む伝達力をもつアートの力。その力を活用して企業はいかにして企業価値の向上を果たし、その先に持続可能な地域社会へと貢献ができるのか。多くの示唆とともにアートの力を実感することができたフォーラムとなりました。
ベネッセは、今後もベネッセアートサイト直島の活動を通じアートによる地域再生に取り組みながら、今後はその活動を事業とも融合し、「よく生きる」をひろげる活動へと取り組んでまいります。
「SETOUCHI企業フォーラム2025」にご参加いただいた皆様に、心より御礼申し上げます。
参加企業・団体一覧※50音順
- アイル・パートナーズ株式会社
- 株式会社アミューズ
- EQTパートナーズジャパン株式会社
- 株式会社イトーキ
- 宇沢国際学館
- 株式会社カカクコム
- 鹿島建設株式会社
- カトーレック株式会社
- シブサワ・アンド・カンパニー株式会社
- 株式会社Zebras and Company
- ソニーグループ株式会社
- 株式会社 大広
- 日本外国人特派員協会(FCCJ)
- 日本たばこ産業株式会社
- 野村證券株式会社
- 阪急阪神ホールディングス株式会社
- ビジョナル株式会社
- 株式会社三井住友銀行
- 三井不動産株式会社
- 三菱地所株式会社
- 六甲山観光株式会社
情報協力
- ベネッセアートサイト直島(BASN)https://benesse-artsite.jp/
- 「ベネッセアートサイト直島」は、瀬戸内海の直島、豊島、犬島を舞台に株式会社ベネッセホールディングス(岡山県岡山市)、公益財団法人 福武財団(香川県香川郡直島町)が展開しているアート活動の総称。アートを媒介とした地域づくりに30年以上取り組みながら、地域に暮らす人々と共に新しい価値を生み出し、「Benesse(よく生きる)」を世界へ発信しています。