プログラミング教育は次期学習指導要領では小学校段階で必修化、中学校・高校でも重視され、いかに実践するかが課題です。その先進事例を、2017年12月~翌3月にベネッセが支援した東京学芸大学附属国際中等教育学校インフォマティクス授業から、担当・後藤がレポートします。

自分たちの「身近な課題の解決」を、チームで取り組む

今回の授業は、プログラミングを知識として学ぶだけではなく、自分や身近な人に役立つアプリを開発することを通して、問題解決力とチームで仕事をすすめる力を身につけることを目標としました。2時間ずつ計9回に渡り、前の学期に学んだプログラミング言語の1つである「JavaScript」を用いたプログラミングの知識を活用します。

同校のインフォマティクス授業では、2学期は個人活動でJavaScriptを学び、3学期はチームで問題解決のためのアプリづくりを行います。同じ課題認識の生徒がチームになって、企画を立て、役割を分担しながら進めます。コーディングが得意な人、キャラクターデザインや音楽が得意な人、プレゼンが得意な人など、チームメンバーそれぞれの強みを生かしてチーム全体として作業を効率的に進めます。そうすれば、同じ目的の達成に向け、メンバー同士がアイデアを出し合うことができ、取り組みがより充実すると考えたからです。

授業を始めるにあたっては、生徒が取り組みやすくなるよう配慮しました。例えば、新しいアプリをゼロから作りきるのはあまりにも大変です。開発の素材として、LINEのチャットボットや天気予報APIといった、JavaScriptでコーディングできるサンプルアプリを用意し、解決したい課題に応じて、それらを組み合わせられる開発環境を準備しました。

互いの進捗を確認しながら活動を進める生徒たち

チームで協働するためには、情報共有が欠かせません。そこで、各チームにオンライン上のタスク管理ツール「Trello」を導入。企業の業務の場でも利用されているツールです。メンバーそれぞれが作業内容や進捗状況をこまめに記録することで見える化し、互いに参照し合います。
先生方も、メンバー同士のやりとりを随時確認できるようにし、各グループへのアドバイスや評価に生かしてもらいました。

とあるチームのTrelloの画面の例

一方、ベネッセからのサポートメンバーも各チームの「Trello」に参加。生徒からの質問に答えたり、要望があれば作業を手伝ったりしました。目的に向けて、外部の大人の協力を得ながら効果的に進める「プロジェクトマネジメント」の経験になったのではないでしょうか。
また、生徒の主体性を的確に評価できるよう、話し合いの「質」を分析できるツール「Hylableの議論評価サービス」を用い、各チームの会話を記録・分析。誰がどのように議論をリードしているのか、どのような発言をきっかけに議論が進展したのかといったデータの把握に努めました。

机の真ん中にHylableのマイクを設置してディスカッションしている様子

これは結果的に有意義な試みで、一見目立たない生徒も、実は議論では中心になってチームを引っ張っていることが分かるなど、チームでの取り組みを評価するためのデータとして活用できました。

Hylableの分析結果の例

思い描いたアプリが完成。大変だけどやる気のきっかけに

では、全9回の授業を通して、生徒のアイデアはどのように具体化したでしょうか。授業の最終回に行ったプレゼンテーションから一部をご紹介します。

1つは、「雨が降る日なのにカサを忘れてしまう → 家を出る時にカサが必要か否かを通知するLINEのチャットボット」です。雨に濡れたくないけれど、無駄に傘を持って行くのは避けたいという自分たちの思いに対し、指定時刻にアプリを起動させたり、定期的に天候情報を取得したりする機能を装備。シンプルですが、課題解決のための工夫が見られます。

もう1つは、「学校に来たくない→学校を楽しめるRPG」です。ゲーム好きの男子のグループが開発しました。高校生には学習や行事などにやる気が出にくい日もあるようで、そうした日でも学校生活を楽しめるようにしたいという思いを込め、学校七不思議をテーマにしたり、シナリオを工夫したりして楽しめる要素を入れこんでいます。
マップの設計、キャラクターや音楽のデザイン、全体のシナリオなどチーム内で役割分担して進めており、最終的に壮大なRPGができていました。

今回は7つのチームに分かれて取り組み、どこも工夫しながら、思い描くアプリを作り切ることができました。「アプリ開発はこんなに大変なのかと、これまで何も考えず使ってきたアプリに、少し尊敬の念を覚えるようになった」という意見もあり、プログラミングの知識を活用し、身近な課題の解決に挑むという難しさと楽しさを十分に体感できたようです。

プログラミング教育の目的は、知識・技能の習得だけではありません。論理的思考力や創造性を始めとする、課題の解決に欠かせない資質・能力を育てることも重要です。今回の授業を通して、この取り組みの積み重ねが、子どもたちの生きる力の向上につながるはず、という手ごたえを感じています。

後藤 義雄(ごとう・よしお)
ベネッセコーポレーション プログラミング教育PJリーダー。ベネッセでは幼児〜高校生向けのオンライン学習サービスの開発を担当。2011年に米シリコンバレーに会社を立ち上げ、STEM・プログラミング教育のサービスを開発。日本では2015年から小中高生向けプログラミング教育サービスを展開。2007年IPA未踏ソフトウェア創造事業採択プログラマー。

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