東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所は「子どもの生活と学び」に関する共同研究を行っています。そこで実施する初等中等教育段階の親子の大型パネル調査は、国内では類を見ないものです。同調査から、子どもの「勉強の好き嫌い」に注目したベネッセ教育総合研究所のレポートをご紹介します。

ベネッセ教育総合研究所は2014年に、従来の調査に加え、東京大学社会科学研究所と共同で「子どもの生活と学び」研究プロジェクトを立ち上げました。

このプロジェクトでは、小学1年生~高校3年生の、同一の親子約20,000組(小学1~3年生は保護者のみ)を対象に、子どもの生活・学習・人間関係や価値観に関する意識と実態の変化を明らかにすることを目的に、2015年より毎年継続的に調査を実施。得られた知見は子どもの学びに役立つよう、社会に発信しています。

ここでは、子どもの「勉強の好き嫌い」(学習意欲)に注目し、勉強が「嫌い」から「好き」になった子どもの特徴を分析した結果をご紹介します。勉強好きな子・自ら学ぶ子が育つうえでの手がかりになる知見です。

勉強嫌いが6割に達する中学生時期。「嫌いから好きになった」子どもたちに注目

日本の子どもたちは国際的にみると、学力は高いレベルにあるが、「勉強があまり好きではない」、「自ら学ぶ意欲が低い」と言われます。親子パネル調査によると、学年が上であるほど「勉強が嫌い」な子どもが多く、とくに中1生で急増し、中2生では約6割を占めます。
しかし、勉強が「嫌い」と答えた中学生の1年間の変化(2015年・2016年の2時点)を追うと、勉強が「嫌いから好き」に変わった子どもが1割ほど(3学年平均)いるのです。

勉強が「嫌いから好き」になった子の学習行動や意識、保護者の関わり方は?

では、勉強が「嫌いから好き」になった中学生は、「嫌いなまま」の子と比べて、どんな特徴があるのでしょうか。まず学習時間(※注1)は、「嫌いから好き」になった子で平均131.7分、「嫌いなまま」の子で89.3分と、大きな差があります。さらに、学習の動機づけ/勉強方法/保護者の関わり方を分析すると、興味深い特徴が得られました。

※注1:学習時間は、「学校の宿題をする時間」「学校の宿題以外の勉強をする時間(学習塾を除く)」「学習塾の時間」の平均時間の合計。2016年時点の中1生、中2生、中3生の全体値。

【学習の動機づけ】

勉強が「嫌いから好き」になった子のほうが、「新しいことを知るのがうれしい」「自分の希望する高校や大学に進みたい」「友だちに負けたくない」といった動機づけで勉強している割合が高い。

Point 中学生になると教科数が多くなり、学習内容も難しくなります。それにつれて勉強の面白さを感じなくなり、嫌いになる子どもが増えるのかもしれません。だからこそ、「しかられたくないから」といった外的動機づけではなく、自分にとっての勉強する目的や目標を持つなど、様々な動機づけを持ち合わせて勉強することが、より大切になります。

【勉強方法】

勉強が「嫌いから好き」になった子の方が、様々な勉強方法を活用している。とくに「何が分かっていないか確かめながら勉強する」といったメタ認知(自分を客観視)を用いる勉強方法で大きな差がある。

Point メタ認知(自分を客観視)は主体的な学びにとって重要な要素であり、小学高学年からは顕著に発達してくると言われます。この力を育むには、たとえば日々の生活の中で問題を解けないでいるときに「どこが分からないの?」と、できるだけ自分の言葉で表現するよう促すのもよいかもしれません。自分を客観視する力が徐々に身につき、論理的に考える力も磨かれていきます。

【保護者の関わり方】

勉強が「嫌いから好き」になった子どもの保護者のほうが「嫌いなまま」の子どもの保護者よりも、勉強を教えるだけではなく励ましも行っている。

Point ここでの「励まし」は、良いことをしたときにほめる、失敗したときに励ます、子どもがなりたいことを応援するといったことを指します。中学生時期は、成績などの結果をほめるより、プロセスをほめること、抽象的な言葉より、具体的な言葉で具体的なところをほめることが重要です。ほめることで、子どもの自己肯定感を高め、勉強も好きになっていくのではないでしょうか。

以上の結果から、勉強が「嫌いから好き」になった子どもは学習量(時間)を増やしただけではなく、学習の動機づけ、勉強方法に高い「学習の質」を持っていることがわかります。さらに合わせて、保護者の適切な関わりもあり、自ら学ぶ力を身につけるようになると読み取れます。

教育目標が資質・能力の育成へと転換しているなか、自ら学ぶ力や姿勢といった「学びに向かう力」(非認知スキル)の育成は、教育改革の重要なカギを握ると思われます。ベネッセ教育総合研究所では今、その育成の方法論に関する研究にも取り組み始めています。今後も、量的データと合わせて自ら学ぶ子を育てる具体的な方策を、発信していきます。

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プロフィール

邵 勤風(しょう・きんふう)

邵 勤風(しょう・きんふう)

レポート監修:ベネッセ教育総合研究所 室長/主席研究員

自ら学ぶことに必要な要素について、教育心理学の「自己調整学習」理論では、学習者が自ら目標を設定し、主体的に学習を進め、学習成果を出すために、「メタ認知」(自分を客観視)、「学習の動機づけ」(学習意欲、やる気)、「学習方略」(勉強方法)という3つの要素が重要であるとされています。親子パネル調査の学習に関する部分は、この「主体的な学び」の学習モデルに基づいて設計しています。