近年、国内では不登校の児童生徒が増え続けており、学校に行かない生活をほとんどの子ども達が体感した先般のコロナ禍がさらにその傾向に拍車をかけたとも言われています。

不登校が増えることで学力の低下や将来の選択肢の制限などの問題も指摘される一方で、教育機会確保法によって学校以外の多様な学びを支援する方針が示されて以降、「無理に学校に行く必要はない」という意識もまた少しずつ広まりつつあります。画一的ではない、一人ひとりに合った多様な学びや場の重要性が増す中、ベネッセは新たな通信制サポート校「ベネッセ高等学院」を2025年4月に開校しました。「あなたらしく。なりたい自分を見つけよう。」というビジョンの下、一人ひとりの個性と高校卒業のその先を見据えた未来とをつなぐ学び支援とは。学院長の上木原に、新しい学びの場を創設した背景やベネッセならではの通信制サポート校のポイントを聞いてみました。

イラスト/ちひろ(高校生イラストレーター)

日本における不登校のリアルとその背景、求められる多様な学びの場

小中学校で合計約35万人。特に中学校はうち約22万人と多数を占め、社会全体としては少子化が進んでいるにもかかわらず過去最高規模を更新し続けている。これが、日本における学校に行かない子どもたちの実態を示す数値です。

出展:「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」令和5年(文部科学省)
経年の数値から、近年の増加が顕著であることも見てとれ、小学校から増える早期の不登校がその後の中学校以降にも延長して拡大している様子がうかがえる。

こうした事象を受けて、不登校や学びに困難を抱える子どもたちに対し、適切な教育環境を提供していこうと2016年に施行されたのが教育機会均等法です。この法律では、すべての子どもたちが平等に教育を受ける権利を保障すると共に、教育の多様性を確保し、様々な学びの場を提供していく必要性がうたわれました。以来、少しずつですが不登校の児童に対する柔軟な対応、公教育以外の学びの場もひろがってきました。

一方で、歯止めがかからない不登校の拡大の背景には、複合的な社会要因があります。学校環境になじめない、人間関係のストレスといった従来からの問題に加え、デジタルの進展やオンライン教育の普及が進む中で、これまで通りの一律な教育だけでは対応しきれない子どもたちが可視化されてきたことも指摘されています。「積極的不登校」とも呼ばれる、学校に行かない選択を自らとり、学びの場として通信制高校を選択する子どもも増えました。今や通信制高校に通う生徒は高校生の11人に1人(文部科学省「学校基本調査」令和6年より)とスタンダードになりつつあります。そのような背景の中で、開校したのが「ベネッセ高等学院」です。

ベネッセ高等学院は、ベネッセが長年の通信教育で培った知見、人の温もり感じられるサポートを組み合わせ、新しい学びの場として開校した通信制サポート校。希望する進路や学習スタイルなど自分に合う学びを選択することができ、高校卒業資格の取得サポートはもちろんその先の未来を見すえた学びを支援する。

どう生きたいかを深く考えながら、自分たちで学び舎をつくる

2025年4月6日。ベネッセ高等学院がスタートして初の入学式がベネッセコーポレーションの東京本社ビルで行われました。

オンラインでつながった大阪会場、そしてバーチャルキャンパスでも多くの新入生が参加する中、学院長の上木原は「みんなの個性と未来をつなぐ、ベネッセ高等学院。開校します!」と力強い開校宣言をした後、次のような言葉を生徒たちに送りました。

「今から5年前、みなさんはどこで何をされていましたか?コロナで緊急事態宣言が発令されたのがちょうど5年前の今頃でした。それから5年後の今の未来予測がどれほどできていたでしょうか。この先は、さらに予測できない未来がひろがっています。そのような時代を生きるみなさんに、3つのキーワードとして「見つめる、つながる、決める」をお伝えしたいと思います。まず、「見つめる」。自分軸をつくるためには、しっかりと自分を見つめること。予測できない社会で、答えは自分の中にあります。2つ目は、「つながる」。自分の未来をつくるために、ぜひつながってください。ここには多くの仲間がいます。そして、それだけではなく様々なことにふれて世界を広げるために、学ぶことも大事です。ベネッセ高等学院にはたくさんの仲間、学びがあります。3つ目は「決める」。みなさんはこの学院の1期生です。自分の未来を自分で決めるために。受け取る側ではなく、ぜひつくる側にまわり、卒業した時に「ベネッセ高等学院をつくったのは私です」と言ってください。先生たちは、そんなみなさんを見守りながら信じて、(力を)引き出す。そうして一緒に歩んでいきたいと思います」

「正解が決まっている。はみ出すことができない。そんな学校があまり好きではありません」と語る新入生代表の一人、関口さんからはベネッセ高等学院を選択した理由と共に、印象的な問いかけがされました。

「なぜここに入学しようと思ったのか。「自分の未来は、自分で決める」という(ベネッセ高等学院のキャッチコピーにある)言葉です。どう生きたいかを一番深く考えることができるのは、ここだ。そう直観的に思えました。もう一つは、今年開校してまだ生徒が通っていない学校だからこそ、どんな学校にもなることができる。よい学校をつくろうと奮闘されている先生方を見て、私も加わりたいと思ったからです。みなさんは、どんなことをしたいですか?どんな学校をつくりたいですか?心から楽しいと思える。そんな学校を、私はつくっていきたいです」

当日は、多様なゲストからのメッセージとともに、「0から1」(ゼロイチ)をテーマにした校歌もお披露目され、新しい学院とともに始まるこれからのそれぞれの毎日に期待と希望がふくらむ時間となりました。

多摩市にある東京本社ビルで行われた開会式に、決まった制服はなく自分の好きなスタイルで参加する新入生たち。もう一人の代表の宮内さんからは、幼い頃から大好きなアザラシが絶滅危惧種から抜け出せるよう、環境問題を学び、国内外で研さんを積んで保護活動に携わっていきたい、と力強い抱負が述べられた。様々なキャラクターが登場するショーも行われ、活況のうちに幕を閉じた当日の様子。

自己の内面に向き合い、様々な価値観に触れて「自分軸で生きる」力を

開校からしばらく時が過ぎた6月。学院長の上木原に、改めてなぜベネッセで新しい学びの場をつくろうと思ったのか。ほかにも多様な学びの場の選択肢が増えつつある中で、ベネッセ高等学院として独自に提供する価値は何なのかを聞いてみました。

「元々は塾講師としてキャリアをスタートし、長く講師として子どもたちに向きあってきました。偏差値を重視した教育における王道の受験で力を発揮する子もいれば、「もっと違う角度から光を当てたら、この子はもっと輝けるのに」。そう感じる場面が多くありました。その後、通信制高校や発達特性がある子どもたちとその保護者の支援事業に携わる中で、「この子には、こういう環境が合っていたんだ」と気づく瞬間や、保護者の方が安心して笑顔を見せてくださる場面に学びの本質があるんだ、と実感するようになりました。こうした経験を経て私の中に根づいたのは、「教育に絶対的な正解はなく、人の数だけ学びの形があるべきだ」という信念です」

「そんな時に出合ったのが、ベネッセが社名としても掲げる「Benesse=よく生きる」(ラテン語の「bene」と「esse」の造語で、英語ではウェルビーイング)という理念でした。単なる知識の習得ではなく、一人ひとりが自分らしく、心豊かに人生を歩んでいくことを支えようとする企業姿勢に、深く共感しました。そして、この理念を具体的な学びの場として形にしたい。大きな社会変化の中を生きる子どもたちのウェルビーイングを本気で実現したい。そのためには、多様な価値観や学びが当たり前になりつつある今こそ、子どもたちが自分のペースで自分の軸を育んでいける学び舎をつくろう。そう考えて立ち上げたのが、ベネッセ高等学院です」

「長年通信教育を展開しているベネッセには、遠隔にいる子がどうしたら楽しく学べるのか、モチベーションを保つ工夫などの知見がたくさんありました。ベネッセ高等学院は、それらをベースとしながら、何よりも「自分の未来は、自分で決める」という自己決定を教育の中心に据えていることが強みだと考えています。担任や「赤ペン先生」から生まれた「赤ペンメンター」による個別サポートはありつつも、先生たちは教えるのではなくて支える人。時間割も、学ぶ内容も、一人ひとりの興味や価値観に合わせて決められるようにしながら、自身の学びを探求し、体験の蓄積の中で自分の好きなことや得意なことが見つかるような工夫やプログラムにこだわっています」

一人ひとりのやりたいことや興味に応じて時間割の設定も自由に選択できる(画像左)。日々の学びの中で発見したことや気づきは「気になる木」(画像右)として可視化されていき、その蓄積の中で自分軸での好きや強みが見つかる工夫を凝らしている。ほかにも、大学や企業と連携した「みらい発見プログラム」で将来につながる学びや仕事を体感したり、オンライン学習のプラットフォーム「Udemy」も学び放題で活用したりできる。

「これからの社会に必要なのは、「誰かと比べるのではなく、自分の軸でしなやかに生きていける力」だと考えています。高校時代という多感な時期に、自分の内面と静かに向き合い、仲間と共に様々な価値観に触れる経験は、その後の選択を“他人まかせ”にせず、自分軸で生きるための確かな力となるはずです。
そもそも、不登校から通信制高校を選択する子どもたちは感度が高い。多くの子が学校に行くのが当たり前という価値観をもつ中で、「学校に行かない」という選択ができるパワーを持っています。不登校にいまだネガティブなイメージをもつ社会の価値観を見つめなおし、子どもたちが社会に羽ばたいたときに、自分だけのWill(意志)で誰かとの比較や相対ではない自分なりの幸せを見つけ、「よく生きる」ことができる未来を思い描いて。一人ひとりの個性と未来をつなぐ道をここから生み出していきたいと思います」

多様な子どもたちのまだ自分でも気づいていない個性の輝きを引き出しながら、どんな未来にもつながる力を育む。ベネッセ高等学院による新しい学びの場づくりの挑戦は、始まったばかりです。

情報協力

教育企業で講師として17年間教壇に立ち教科指導や教室運営に携わる。その後、新しい通信制高校の開校準備に参画し、副校長を務める。さらに、発達特性のあるお子さまとご家庭に適した環境を提供するコンサルティングサービスの責任者を経て、ベネッセコーポレーションに入社。ベネッセ高等学院の学院長を務める。(写真はベネッセ高等学院の「B」ポーズをとる上木原)


ベネッセ高等学院

https://gakuin.benesse.co.jp/