日本では今、第一子出産後も仕事を続ける割合が上昇し、出産退職率を上回っています(*1)。一方で、ベネッセ教育総合研究所が行った4か国(日本・中国・インドネシア・フィンランド)の実態調査(*2)によると、首都圏の幼児をもつ日本の母親のワークライフバランス満足度は、調査した他国に比べると低めの結果に。働きながら子育てする女性が生き生きと暮らす時代は、まだ遠い先なのでしょうか? 4か国の比較から見えてきた注目ポイントをご紹介します。

幼児の母親で「ワークライフバランスに満足している」のは5割以下

ベネッセ教育総合研究所は、幼児を持つ母親を対象にした「幼児期の家庭教育国際調査-日本、中国、インドネシア、フィンランド-2017年(*2) 」の中から、働く母親のワークライフバランスについて興味深い結果を発表しています。 ※文中のデータ数字はすべて、同調査によるもの

「とてもそう思う」+「ややそう思う」の合計を「満足」とした。

上の結果は、いわゆるワークライフバランスの満足度を聞いたもので、「仕事と家庭生活のバランスに満足している」日本の母親は44.3%と、他の国よりかなり低いスコアとなっています。様々な要因があるのでしょうが、ここでは、平日の生活時間の過ごし方に注目してみます。


帰宅後、子どもが寝るまでの約4時間。家事・育児に一人でがんばる日本の母親

「4か国の家族の平日の一日」=平日の実態調査の結果や、調査の前に各国を訪問して行った母親へのインタビューを基に、各国の都市部の共働き家庭の一日のイメージをまとめたもの。平均値から作成(ベネッセ教育総合研究所 持田によるもの)※上はさらに家事育児に着目して当サイトで加筆したイメージ図

この図は、日本、中国、インドネシア、フィンランドの4か国(都市部)の働く母親の平日の一日をイメージしたものです。日本の働く母親の帰宅時間は18時台がピークで、子どもの寝るまで(就寝時間平均は21時台)、長い人は約4時間、他国に比べて、ひとりで家事や育児を担う傾向にあります。
では、他の3か国の共働き家庭はどうでしょうか。その特徴を見てみると、いずれも母親の“ワンオペ”状態ではなく、周りの人と協力している様子がうかがわれます。

【中国】母親の帰宅時間は、日本と同じく18時台がピークだが、祖父母の育児や家事への強力なサポートがあり(約6割)、祖母との同居率も5割を超える。
【インドネシア】女性が家事、育児をする役割観があるものの、近隣のコミュニティでの絆が他国に比べて強く、子育てをご近所同士で支え合うこともある。
【フィンランド】母親・父親の帰宅は共に16時台がピークで、男女共同参画の意識があり、育児・家事を夫婦で平等に行う。

ちなみに日本は、父親の約4割は子どもの就寝時間後に帰宅し、祖父母に日常的に協力してもらう割合は1割程度。また、ベビーシッターや民間・自治体の育児支援などソーシャル・サポートの活用者は合わせても1割に満たないという調査結果もあります。

本調査の分析を行った持田聖子(ベネッセ教育総合研究所 主任研究員)によると、
持田「日本の母親は、ソーシャル・サポートの活用について、他人を家に入れることへの抵抗、育児や家事をさぼっているのではないかという罪悪感、子どもを他人に託すことへの不安、コスト面等、様々なためらいを感じるのかもしれません。」

今できることは? まわりの協力やサービスの活用にも目を向けて

日本では、「働き方改革」 が始まったばかり。取り組みが進み、母親・父親がより早く帰宅できるようになれば、生活時間の使い方や家事や子育ての役割分担も変わっていくかもしれません。ただ、それにはまだ時間がかかりそうです。自身も仕事と3人の子どもの子育てを両立してきた持田は、当面できることとしてこう語ります。

持田「私の場合は、行政や民間の様々なソーシャル・サポートにお世話になりました。ふり返ってみると、約15年間の両立生活の中で、のべ40人以上の子育ての“先輩方”に、育児と家事を助けて頂きました。そのおかげで、仕事に集中したり、自分のために使う時間も持てたことで、孤独を感じず、笑顔で子どもたちに向きあえるようになれたことを感謝しています。家族で工夫することと共に、必要な場合は、母親がひとりで抱え込まず、支援・サービスを柔軟に活用することも、有効な手段だと考えてみてはどうでしょうか。」

働く母親が自分らしく生きていくために、そして、子どもが育つのに一番よい環境をつくるために、ベネッセはこれからも様々な視点を提供していきます。


<本文注記>
*1 国立社会保障・人口問題研究所(2017).第15回出生動向基本調査(夫婦調査)報告書
*2 ベネッセ教育総合研究所では、2017年に日本、中国、インドネシア、フィンランドで、幼児を持つ母親を対象に「幼児期の家庭教育国際調査」を実施。幼児期の「学びに向かう力」の発達と母親のかかわり以外に、親子の生活実態や、母親の教育や子育てへの意識、子どもへの期待についてもたずねた。
詳しくは、<https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=5257
⇒調査対象国の選定は、アジア圏より、経済的な成長が著しく幼児教育の中で「非認知的なスキル」を重要視している中国、多様な民族が融合しているインドネシア、アジア圏との比較のためにヨーロッパ圏からフィンランド(幼児期で「非認知的スキル」を重視)を対象とした。「非認知的スキル」とは、環境に柔軟に対応し、学び続け、課題を解決しようとする姿勢や力。ベネッセ教育総合研究所では、「学びに向かう力」としている。
※ 「ワンオペ」:ワンオペ育児より。ワンオペ育児とは、配偶者の単身赴任など、何らかの理由で1人で仕事、家事、育児の全てをこなさなければならない状態を指す言葉(出典:コトバンク)


情報協力

持田 聖子(もちだ せいこ)

この記事は、ベネッセ教育総合研究所のオピニオンをもとに加筆修正したものです。
詳しい内容はこちらへ
https://berd.benesse.jp/jisedai/opinion/index2.php?id=5359

持田 聖子(もちだ せいこ)  ベネッセ教育総合研究所 主任研究員
2006年より現職。2016年より本調査を担当。生活者としての視点で、人が家族を持ち、役割が増えていくなかでの意識・生活の変容と環境による影響について調査・研究を行っている。