コロナ禍で社会に大小さまざまな変化があった中、出産育児家庭に及ぼしたその影響はどのようなものだったのでしょうか。妊娠・出産育児ブランド「たまひよ」は、創刊以来、赤ちゃんや子どもを取り巻く家族の“今”を読み取るさまざまな調査データを公開。2021年には、日本の出産育児家庭がコロナ禍で直面した変化を調べた結果を「たまひよ 妊娠出産白書2021」(※)として発表しました。そこから見えたのは、周囲と分断し、出産・育児を夫婦2人で担うのがスタンダードとなる中、必要性を増した父親の育児参加になお残る障壁でした。「たまひよ」がこうした調査を実施する狙いや、結果を受けての思いを担当者に聞きました。

家事・育児への参加だけでなく、妻を大切にする父親への憧れ「理想のパパランキング」

コロナ禍の20206月に発表された「たまひよ 理想のパパランキング」。 2020年の“理想のパパ”には、役柄などのイメージだけではなく、父親として家事や育児にリアルに参加する姿をSNSやメディアで日常的に発信している人がランクイン。また、全国で相次ぐ休園や休校の対応に追われる家庭が多かった中、家事・育児への主体的な参加だけではなく、パートナーである妻をケアし、大切にする人への高い支持があらわれる結果となりました。

タレントのつるの剛士さんが3年連続で1位に。2位は俳優の杉浦太陽さん、3位にはNON STYLE石田明さんが初ランクイン。「忙しくても子育てに奮闘していてすごい」「子どもが多くても奥さんに感謝や愛情を表現している」などの声が集まった。

頼みの綱の両親と離れ、夫婦2人の出産育児がスタンダードになる中、重要性を増す父親

2020年秋には全国の乳幼児をもつ母親約2千人を対象に、春以降の生活・意識調査を実施。その結果をまとめ、2021年1月から2月に、3回にわけて「たまひよ 妊娠・出産白書2021」※(以下、「白書」)を公開しました。

この調査は、新型コロナウイルス感染症が与えた影響や、産前・産後の母親の不安など複数のテーマをもって実施されました。その結果から、出産育児家庭にはコロナ禍で大きな生活意識の変化が生まれていたことが分かりました。

上の図表は「白書」で公開されたデータの一部ですが、出産や産後に不安を抱く人は数多く、心身のメンテナンスの必要性を感じる人が7割になるなど、急激な感染拡大の中で大きなストレスを抱えていた母親たちの姿が見えてきます。

また、家族外の人との対面の機会が急速に減り、これまで母親たちが時には配偶者やパートナーよりも頼りにしてきた両親との対面を控える人が半数存在。さらに、「両親にもっと孫の顔をみせたい」人が7割になるなど、高齢者と会うことが難しい状況ゆえ、もっと会いたいと思う様子が伺われます。一方で、「家族の時間を大事にしたい」という人は8割超に。“家族の絆”が見直される中で、重要性を増したのが配偶者・パートナーである父親の存在でした。
夫婦2人だけで出産・育児に向かうようになった中、実際に「配偶者・パートナーとのコミュニケーションが増えた」人は半数いましたが、「もっと家事や育児に積極的になってほしい」とのぞむ人が約6割になるなど、母親たちが「もっと父親に頼りたい」、と望む気持ちが垣間見える結果となりました。

働き方が変化する父親はわずか。男性の育児参加への職場の理解や配慮が足りない

これまで以上に父親の育児参加が不可欠となる中で、父親の働き方や育児環境に変化はあったのでしょうか。「たまひよ」は、男性の育児環境をテーマにした調査結果も公開しています。
コロナ禍では、在宅勤務・リモートワークが進む、という話題も増えましたが、この調査において配偶者の勤務状況を「在宅勤務のみ」と回答する人はわずか1.8%、「在宅勤務が多い」5.3%と、在宅中心で仕事をするようになった父親は1割にも満たない結果となりました。
また、多くの人が変わらず職場に通う中で、父親の育児参加に大きく影響する「職場における男性の育児参加への理解や配慮」に対しては、以下グラフの通り、配慮が進んでいるとは言い難い結果に。たとえ父親自身が育児参加をのぞんだとしても、快くそれを受け入れる職場の雰囲気が不足していることが明らかとなりました。

子どもの出産という一大イベントに対し「生まれる前後や当日は休みをとりやすい」と回答する人は7割いましたが、その詳細を聞いた別の質問からは「出産当日だけ休んだ(15.7%)」「出産前後に数日休んだ(28.1%)」と、実際にはごく数日の休みにとどまり、「休みをとっていない(25.9%)」と回答する人も多くみられました。 また、職場での出産育児への理解・意識に対しては、「上司や同僚が子育てに理解がある」は半数程度にとどまり、「小さい子どものいる父親を配慮やサポートする雰囲気がある」「男性の子育て参加を応援する雰囲気がある」はいずれも3割以下と低く、出産育児への理解が少ない中での対応を迫られる父親の姿が浮き上がってきます。

家族の絆が見直される今こそ、子育ての楽しみや喜びを夫婦で「わかちあえる」ように

今回の調査を担当した、山本 沙織(やまもと さおり/ベネッセコーポレーション Kids&Family事業本部)に、話を聞きました。

「「たまひよ」では、長らく母親の育児負担の重さを課題視していた中、コロナ禍で子育て家庭をとりまく状況や意識にも変化があったかもしれないと考え、今の実態を追い、サポートをしたい、という思いからこの調査を行いました」

「その結果、母親たちが大きな不安を背負う中で、父親への期待は高まる一方、働き方が変わった人は年収が高い層を中心とした一部にとどまり、職場の子育て配慮の意識改革は道半ばであることがわかりました。
その一方で希望もありました。属性別に詳細をみると、若い世代の父親ほど子育てや家庭に対する姿勢がポジティブで、「育休を取りたい」と考える人も増えています。今は過渡期で、今後若い世代の価値観がひろまることで職場や社会は少しずつ変わるかもしれません。しかし、そのためには、そういった価値観を上司や上の世代が容認することがまず必要です。休みやすい職場の体制や雰囲気が必要、という結果もありましたが、本来、子どもがいる人だけが早く帰るのではなく、子どもがいる・いないにかかわらず、誰しもが必要なときはきちんと帰り、休める。働き方改革の前にそういった寛容さが職場や社会にあるといいなと思います」

「また、今回の調査を通して、女性は「母親として自分がしなくては」、男性は「父親として働かなくては」、といったジェンダーロール(性別による役割意識)に縛られているように見受けられたことも、寛容な社会を阻害する要因ではないかと感じました。子育てについて、最近は「苦しい」というネガティブイメージの方が先行しがちですが、育児を「背負う」のではなく、大変なこともあるけれど、楽しみや喜びを夫婦で「わかちあう」という、良い側面ももっと伝えていけたらと思います。こうした調査の発信で実態を伝え、時には問題提起をしながらも、家族の絆が見直される今こそ、育児をポジティブに感じる瞬間を増やす提案を続けていきたいと考えています」

「たまひよ」は、これからも出産育児を取り巻くよりよい社会をめざした発信を続けていきます。

※「たまひよ 妊娠・出産白書2021」:2020年10月29日~2020年11月2日 全国、インターネット調査 調査対象者 : 20~39歳で2019年5月~2020年10月に第1子を出産した女性2,060名

情報協力

山本沙織(やまもと さおり)

山本沙織(やまもと さおり)
株式会社ベネッセコーポレーション
Kids&Family事業本部 ブランド統括室 山本 沙織

金融機関を経てベネッセコーポレーション「サンキュ!」編集部へ。雑誌、書籍、WEBサイトの編集を経験。09年より「サンキュ!」や「たまひよ」のブランドマーケティングを担当し、既婚女性の生活意識調査や広告宣伝PRに携わる。近年は、講演活動や企業のマーケティング支援なども行う。

■たまひよ妊娠・出産白書2021
・PART1「新型コロナウイルス感染症の出産育児への影響」
https://st.benesse.ne.jp/press/content/?id=91867

・PART2「出産・育児・仕事をめぐる母親の意識」
https://st.benesse.ne.jp/press/content/?id=91868

・PART3「男性の育休・育児参加の実態」
https://st.benesse.ne.jp/press/content/?id=91871