CASE STUDY

一人ひとりに寄り添った商品・サービスを生み出すために、データをつなげ、新しい価値の創出を目指す

DIFの第2弾として、ベネッセは、Hmcomm株式会社(エイチエムコム、以下、Hmcomm)と資本業務提携を締結した。
今回は、Hmcomm代表取締役CEOの三本幸司氏と、株式会社ベネッセホールディングスDigital Innovation Partnersデータソリューション部 部長の國吉啓介に、両社が資本業務提携に至った背景と、具体的な提携内容について聞いた。

三本 幸司

Hmcomm 株式会社 代表取締役 CEO

1986年富士ソフト入社。2012年に独立してHmcomm株式会社を設立。非構造化データの分析に着目して2014年に国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)技術移転ベンチャーの称号を受ける。音声処理のディープラーニングの実用化及び人工知能との融合に挑む。

國吉 啓介

株式会社ベネッセホールディングス Digital Innovation Partners データソリューション部 部長

博士(経営学)。ベネッセコーポレーション入社後、教材企画・編集、デジタルサービス開発、データ分析・AI企画開発などを担当。現在、データをつなぎ、新しい商品・サービスを生みだすために、データ分析領域のDXを推進。

AI技術を用いた商品開発に挑むため、Hmcommと資本提携へ

Hmcommの事業内容について教えてください。

三本氏:弊社は、国立研究開発法人産業技術総合研究所発のベンチャー企業として、ディープラーニングを用いた研究・開発を行っています。音により異常を検知する“異音検知システム”や、AIによる自動応答・テキスト化ができる“音声認識・自然言語解析処理システム”などのソリューション・サービスをお客様に提供しています。社名のHmcommには、“Human MachineCommunication(ヒューマン マシン コミュニケーション)”、人と機械の対話という意味を込め、音から価値を創出し、革新的サービスを提供することにより社会に貢献することを経営理念に掲げています。

Hmcommとベネッセが資本業務提携に至ったのは、どのような経緯からでしょうか。

三本氏:2020年に、ベネッセのコールセンターに弊社の音声認識技術の導入検討をしていただいたのが最初です。研究開発に取り組むテックベンチャーの弊社には、さらに深く事業連携をしていただきたいという思いがあり、かねてより出資していただける事業会社様を探していました。そうした折、ベネッセから資本業務提携のお声がけをいただき、弊社の技術で、ベネッセの商品・サービスの価値向上に寄与できればと考え提携締結に至りました。

國吉:Hmcommには、弊社コールセンターの業務効率化に貢献していただいた際、とてもポテンシャルのある企業だと感じていました。ベネッセは現在、「事業フェイズに合わせたDX推進」と「組織のDX能力向上」という2つのテーマを設定し、グループ全体でDXを推進しています。各事業領域においてデータの利活用やAI開発を進めていますが、我々の技術力だけでは十分ではありません。Hmcommには音声認識や自然言語解析処理という強みがあり、今後、この分野はさらに伸びていくと予想されます。さらに、技術力に加えて、システムを実装する力を持っている点も魅力でした。今回の資本業務提携によって、弊社のDXをさらに加速できると確信しています。

今回の資本業務提携において、特にどのようなことを期待しているのでしょうか。

國吉:私が部長を務めるデータソリューション部は、一人ひとりの理解度や苦手傾向から最適な問題を出題する「AI問題演習」ができる学習アプリ「AI StLike(AI ストライク)」の企画・開発に参画するなど、AIをはじめとする技術を活用して、これからの理想的な学びを追究しています。技術進展により、自然言語、音声など様々なデータが扱えるようになってきており、一人ひとりに寄り添った商品・サービスを生み出していくうえで、こういった技術を取り入れていくことは、今後の鍵になると考えています。そこで、Hmcommが得意とする音声認識や自然言語処理の技術や、データ解析技術の知見を得ながら、特に教育や介護の領域で、新しい商品・サービスの開発に取り組む計画です。将来的には、弊社のDX推進のために必要なデータ分析や、システム構築のスキル獲得に向けた研修プログラム開発などにも、関わっていただきたいと思っています。

三本氏:当社は、音を認識/検知して一時分析を行うところまでを守備範囲としてサービスを提供してきました。今回の資本業務提携により、サービスの守備範囲を大きく拡げることができると考えています。このような研究開発は、新たな価値創造への挑戦であり、我々にとっても大きなチャンスだと捉えています。是非とも、成功させたいと思っています。

共同プロジェクトチームを発足させ、新たな商品・サービスの開発を推進

両社による業務提携はどのように進められているのか教えてください。

國吉:早速、共同プロジェクトチームを発足させました。まず、チームに参加するHmcommの社員の方に、弊社の事業や扱うデータについて説明し、現在は、教育、介護など、事業領域ごとのチームに分かれ、データを活用して新たな価値創造をすべく、活動中です。

三本氏:弊社への出資は複数の企業からいただいていますが、今回のように、弊社の社員が出資先の企業と深く、太く協働するケースは初めてです。ベネッセの事業理念や詳細の事業内容を丁寧に説明していただくほか、商品・サービスとその背景にある解決しようとしている課題やデータについても詳細に把握できる機会を設けていただき、よりよい開発に臨む環境を整えていただきました。また、ベネッセの社員の方は、一人ひとりのお客様に合った価値を提供していくという姿勢が、非常に強いと感じています。高いモラルとモチベーションを持っている社員の皆様と、新たな価値創造に取り組めることを光栄に思います。

國吉:ありがとうございます。私たちは、「自分たちの家族に提供したい商品・サービスをつくる」ことを常に心がけています。Hmcommの社員の方にも、私どもの会社のこと、そして何よりお客様の課題を深く理解していただけることが、新たな商品・サービスの開発の上では重要だと考えています。時間がかかったとしても、同じビジョンを描いているからこそ、よいものが生まれると信じています。

具体的には、どのような領域で新たな価値創造を目指しているのでしょうか。

國吉:1つは、教育領域です。例えば、学習時間や問題の正誤履歴などのデータを分析し、どのような学び方にすると学習効果が高まるかを提案できるようなサービスが挙げられます。その際、自然言語など幅広いデータを分析することで、より一人ひとりのお客様に合った学習方法の提案ができるはずです。そういったことが進むことで、通信教育においても、学校や塾の先生が対面で一人ひとりにされているような声かけやサポートにさらに近づいていけるのではないかと考えています。
もう1つは、介護領域です。介護においても、一人ひとりの「その方らしさ」に寄り添ったケアが大切で、体調など日々の変化に気づいていくことが重要です。そういった気づきやケアができる専門性の高いスキルを持った介護スタッフのノウハウを教師データとして、分析を行い、AI技術も取り入れ、仕組み化することで、質の高いサービスの提供につなげていく取り組みをはじめています。そういった取り組みにおいても、Hmcommのお力をお借りすることで、進化を図っていけるのではないかと考えています。

三本氏:これまではテレビでコマーシャルを放送したり、新聞や雑誌に広告を出したりすれば、商品の購入者が増えることが大いに期待できました。しかし今や、パーソナライズした商品やサービスの提供が強く求められる時代になっています。今回の提携によって、介護や教育領域でパーソナライズされた商品やサービスの開発実績を積み、ベネッセの別事業にもそれらの技術を展開できるよう、弊社の力を発揮していきたいと思います。

一人ひとりに寄り添い、一人ひとりの「よく生きる」を支援

今回の資本提携は、両社にどのようなシナジーを生み出すとお考えですか。

三本氏:これまで弊社は、自社プロダクトを中心に開発してきましたが、今回の共同プロジェクトチームでは、両社の社員が膝を突き合わせて議論しながら、研究開発に取り組んでいます。弊社の社員にとっては、大いに刺激を受ける機会であり、広い視野を持って研究開発に取り組む姿勢を学べると期待しています。弊社のようなベンチャー企業では、作り手の思いが強いプロダクトアウトの開発になりやすいため、ベネッセの社員の方からマーケットインの開発姿勢を学ばせていただき、今後の弊社の研究開発にも生かしていきたいです。

國吉:一人ひとりに寄り添う商品やサービスを生み出していくことが、今後さらに価値を高める際のポイントになると考えています。現在は、お客様の課題を解決するために、どのようなデータを活用し、どのような価値を生み出すかをまだまだ模索している段階です。その実現に向けた過程では、技術やコスト面など多くの課題があります。高いAIの専門性を持ち、社会に貢献していくという熱い想いを持つHmcommの皆様と一緒に、これまで以上の価値を提供できるような商品・サービスの開発に挑んでいきたいと考えています。

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