CASE STUDY

テクノロジーとコミュニティの力で学校現場と社会をつなぎ、教員の困りごとを解決し、教育業界を変える

事業フェイズに合わせたDX推進

株式会社ベネッセホールディングスは2022年10月、教育特化型外部人材マッチングサービス「複業先生®」を提供する株式会社LX DESIGN(以下、LX DESIGN社)と資本業務提携契約を締結した。両社が資本業務提携に至った背景と、具体的な提携内容について聞いた。

金谷 智

株式会社LX DESIGN
代表取締役社長

1990年、富山県生まれ。富山県立高岡高校、東京学芸大学教育学部を卒業後、公立小学校学級担任などを経て、教育系スタートアップ株式会社LX DESIGNを設立。教育特化型複業プラットフォーム「複業先生®」を中心に、テクノロジー×教育領域のサービスを全国展開。創業と同時に立ち上げた教育系大学生のための「LXゼミ」は、年間参加者300名を超えるコミュニティに成長した。都内私立大学での客員教員、地元富山大学での授業など、国、行政、企業、多様なプレイヤーを巻き込んだ、学校の新たな関係人口創出エコシステムに注力。

石川 翔一

Classi株式会社 プロダクトデザイン本部 プロダクトマーケティング部 部長

2011年ベネッセコーポレーション入社後に高校営業として茨城県・新潟県を担当。2016年からベネッセコーポレーションとソフトバンクの合弁会社Classi株式会社に出向し、マーケティングからプロダクト企画までを担当。2021年よりベネッセコーポレーションのDIFも兼務し、探究領域の支援を担当。

学校現場の課題を解決したい。小学校教員を辞めて起業

LX DESIGN社の事業内容について教えてください。

金谷智氏:「すべての人が自分らしい人生をデザインできる世界を」をビジョンに掲げ、テクノロジーとコミュニティの力で学校現場と社会をつなぐ事業に取り組んでいます。主力事業の「複業先生®」は、教育委員会や学校が教育に関わりたい多様な民間人材に授業などの支援をお願いできる外部人材活用サービスです。コーディネーターは、学校と相談しながら、キャリア教育や探究学習、プログラミング教育などの各領域において、民間人材の知見やネットワークを活用し、児童・生徒が社会とつながりながら学びを深められるような授業づくりのお手伝いをしています。現在、「複業先生®」は全国で延べ300校が導入し、私の地元である北陸地方や、首都圏を中心に展開しています。また、登録している外部人材は1,500名を超えました。

2023年6月には、熊本市教育委員会と連携協定を締結しました。同市は「複業先生®」を活用することで、教員だけでは対応が難しかった外国籍児童・生徒、またその保護者への支援などを開始させています。また、今後はこういった教育委員会との連携によって、教員の長時間勤務などを始めとした教育現場の課題解決の一助となることを目指しています。

「複業先生®」を立ち上げたのは、どのような経緯からでしょうか。

金谷氏:私は、両親、祖父母、そして親族の多くが教員という家庭に生まれました。幼い頃から教員という職業の話を聞いて育った私は、両親への憧れから自然と教員を目指すようになったのです。

大学で教育学を学ぶ中で、教員の多忙化、うつ病になる教員の増加、教員採用試験の倍率の低下など、学校は多くの課題を抱えていることを知りました。また、私が「教員になりたい」と友人に話すと、「どうして教員を目指すの?」と言われてしまう職業だということにショックを受けました。そして、公立小学校の教員として働き始め、学校現場の課題を解決しようと声を上げても、私のような若手教員は職員室で浮いた存在でした。教員の仕事は大好きでしたが、この職業が50年後、100年後も若い世代から選ばれるために、自分には何ができるのかと考え、小学校を退職。その後起業したのです。

大学在学中にアメリカのシリコンバレーにあるスタートアップ企業でインターンとして働いた経験がある私は、「テクノロジーを活用して教育業界を変えよう」と考えました。そこで、まずは課題を詳細に把握しようと、地域の学校の先生ととことん対話しました。すると、「教員が足りない」という量的な問題と、プログラミング教育や起業家教育など、「教員が対応できない領域が増えている」という質的な問題が浮かび上がったのです。その2つの問題を解決する方法として、「複業先生®」の仕組みをつくり上げました。

学校教育を熟知するベネッセと手を組み、社会と学校をつなぐ

LX DESIGN社とベネッセが提携に至った経緯を聞かせてください。

金谷氏:学校の課題は、問題が複雑に絡み合い、解決が難しいものばかりです。教育業界のマーケットは非常に大きいにもかかわらず、真正面から課題解決に取り組む企業は少なく、私がやらなければいけないという使命感を抱きました。ただ、スタートアップ1社だけで教育業界全体の改革はできるものではありません。日本全体でこの課題に取り組むべきだと考えていたときに、石川さんたちと出会いました。

石川氏:私は株式会社Classiに在籍しながら、兼務でベネッセの学校教育事業・探究事業も担当しています。2022年度から高校の新学習指導要領が実施され、「社会に開かれた教育課程」の実現の鍵となる「総合的な探究の時間」が各学校で始まりました。そうした中で、私たちはどのように社会と学校をつないでいくべきか、実証研究をしようと考えていました。また、学校教育事業ではアセスメントや教材を、「Classi」ではアセスメントと連動した教育プラットフォームを提供し、学校を支援してきましたが、以前から「授業」そのものを支援できないかと模索していました。そうした折、共通の知人を通して「複業先生®」をスタートさせた金谷さんと知り合ったのです。LX DESIGN社の「複業先生®」と「Classi」を組み合わせることで、授業の充実と教員の負荷軽減が実現できるのではないかと提案しました。

今回の協業により、どのような事業が実施されましたか。

金谷:1つは、協働イベントの実施です。学校現場では教員の働き方改革と探究学習について関心が非常に高いことから、2023年3月に「探究学習のカリキュラム開発と社会との接続について考える」をテーマとしたイベントを実施しました。お互いのサイトで参加者を募集したところ、全国の高校から100校を超える申し込みがありました。今後もそうしたイベントを実施予定です。 もう1つは、「複業先生®」を活用した授業動画の配信です。「Classi」内に、「複業先生®」の専用ページを設け、「Classi」のユーザーが「複業先生®」の授業動画及びカリキュラムの例を無料で閲覧できるようにしました。現在、キャリア教育、STEAM教育、探究学習、グローバル教育に関する授業動画を公開しています。2023年7月にリリースしたばかりですが、毎月500人以上の先生が閲覧していて、弊社のウェブサイトの流入者の約2割が同ページを経由しているといった効果が出ています。

業務提携により、お互いどのようなシナジーを感じていますか。

金谷:教育業界において伝統と実績を持つベネッセの皆さんが「複業先生®︎」を一緒に広めてくださることで、より多くの学校や教員にこのサービスを知ってもらうことができると期待しています。石川さんは、最初にお会いしたときから、弊社の事業へのリスペクトと理解に満ちていて、私たちの思想を学校に分かりやすく伝えてくれる翻訳者のような存在になっています。学校側への寄り添い方は、私たちも本当に勉強させていただいております。そうしたパートナーシップを築けたことは弊社にとって大きな価値があり、教育業界の50年、100年後を変えるための最初のギアだと思っています。

石川:先生方は目の前の授業や校務に日々追われていているため、「学校を一緒に変えていきましょう」と語っても、それが難しいのが現状です。我々の強みは、学校に非常に近い視点から支援できるという点です。私たちが、各学校の課題に応じて「複業先生®︎」などのサービスを活用する方法を具体的に説明することで、LX DESIGN社のサービスを現場のニーズに落とし込むよう心がけています。
一方、私たちも多くのことを金谷さんから学んでいます。LX DESIGN社は、熊本市との連携や国の事業の受託も進めており、学校だけでなく、地域や社会の課題の解決にテクノロジーを活用した新たな視点から取り組み、業績を伸ばしています。国、自治体、企業など、多様なプレイヤーを巻き込んだアプローチはLX DESIGN社が先んじているため、その手法は非常に参考になります。

外部人材のコミュニティを広げ、教員の日々の困り事に応えられる存在に

最後に、今後の展望を教えてください。

石川:「複業先生®︎」のリリース当初は、単発の授業支援が中心でしたが、現在は、探究学習全体のカリキュラム設計などにもかかわっています。例えば、埼玉県の筑波大学付属坂戸高等学校が2学期の土曜日に実施する課外授業の全7コマ分(2時間/1コマ)を、LX DESIGN社と我々が共同で担当しました。今後は、LX DESIGN社と「Classi」との連携をより深め、教科学習や校務の支援ができるシステムを構築し、教員の働き方改革や授業の充実に寄与していきたいと考えています。

金谷:目下の目標は、「複業先生®︎」を毎日活用してもらえるサービスにすることです。例えば、「複業先生®︎」を年間15時間の授業に利用したとしても、年間授業時数の1.5%にしか過ぎません(小学4〜6年生の標準授業時数1015時間の場合)。日本だけでなく世界中にいる学校に協力したいという外部人材と学校をつなぐことで、授業づくりや校務に困っている先生方に安心材料を提供できる存在となりたい。そのためには、国や自治体などに働きかけて「複業先生®︎」の知名度を上げるとともに、協力してくれる外部人材をさらに増やして、コミュニティを充実させることが重要だと考えています。
中・長期的な目標は、アジア各国への進出です。例えば、日本の30倍の子どもがいるインドは、大きな可能性を秘めている市場です。現地に駐在員を置き、学校のニーズを把握するところから始めています。また、教員の働き方改革の先進国である北欧や、弊社と同様のサービスが提供されているアメリカの動向もリサーチしています。世界中の教員が持続可能かつ幸せにその使命を果たせるよう、今後も多様な人たちとつながりながら様々なサービスを提供していきたいと思います。

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