CASE STUDY

顧客視点でデジタルサービスのUXを向上。顧客課題の解決というパーパスの実現に向けて連携を強化

ベネッセはDIF(Benesse Digital Innovation Fund)を通じて、UX起点の事業成長・成果創出を支援する株式会社ビービットと資本業務提携契約を締結した。ベネッセのサービスのUX改善でも実績のあるビービット社と、さらに関係性を深めることで目指すものとは?提携の経緯と今後のビジョンを、株式会社ビービット 代表取締役 CEO 遠藤直紀氏と、株式会社ベネッセホールディングス Digital Innovation Partners 副本部長の水上宙士氏に聞いた。

水上 宙士

株式会社ベネッセホールディングス
Digital Innovation Partners 副本部長

慶應義塾大学商学部卒業後、「進研ゼミ」のデジタルマーケティングや、TVCM・PRなども含めたブランドマーケティングを担当。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSや日本マーケティング大賞などを受賞。2020年より社長直下の横断部門としてDigital Innovation Partnersの立ち上げから参画し、DXコンサルティング部 部長としてベネッセグループ全体のDXを推進。23年10月より現職。

遠藤 直紀

株式会社ビービット
代表取締役

横浜国立大学経営学部卒。米国留学後、アクセンチュアにてデジタル新事業戦略立案を担当。2000年3月にビービットを設立し代表取締役に就任。設立当時からユーザビリティ、ユーザエクスペリエンスの重要性に着目し、UXコンサルティングに従事。2017年からUXを向上するSaaS「USERGRAM」の提供を開始。一般社団法人UXインテリジェンス協会代表理事。現在はUXを支えるSaaS「USERGRAM」を基盤としたUXグロース業務の普及を推進中。

ビービット社の事業内容について教えてください。

遠藤氏:ビービットは2000年の起業以来ずっと、デジタル領域を中心とした顧客体験の設計、UXの向上を支援するコンサルティングを柱にしてきました。実はベネッセとも、起業当時からの長いお付き合いになります。デジタル領域では、お客様の行動データを解析し、その行動の背景を理解することで、継続的なUXの改善が可能です。現在はUXを向上するためのコンサルティングと、UXを継続改善するSaaSの「USERGRAM」という2つのサービスを軸に、日本をはじめ、台湾、中国でも事業を展開しています。

我々の強みは、クライアント企業の先にいるお客様の視点でUXを考えることです。顧客視点で顧客体験価値を高めるサービス設計、コミュニケーションをすれば、結果的にビジネスは伸びる。そういう考え方のもと実際に金融やITなど大手企業のデジタル領域を長く支援させていただき、成果を出しています。

顧客視点をどのように成果に結びつけているのですか?

遠藤氏:「顧客視点」はよく使われる言葉ですが、本当にそうなっているのか、実証的に取り組めているところは少ないと思います。ビービットでは顧客視点を実証するための様々な手法を、起業から23年間、方法論として積み重ねてきています。継続的なUXの改善を目指すのであれば、「USERGRAM」で顧客データを解析することで実証できますし、新しいサービスであれば、オブザベーションスタイルの調査や、定性情報にプラスして定量的な数値情報も活用し、サービス設計を支援します。データに実証された顧客視点でUXを向上させ、顧客体験価値を高めることで成果につなげていくというアプローチが、ほかにないユニークなところであり、我々の強みだと考えています。

ビービット社とベネッセが提携に至った経緯を聞かせてください。

遠藤氏:お付き合いは長いのですが、当初はデジタルマーケティングの領域で関わることが多かったです。あるいは作り変えたい、改善したいというところを、スポット的に支援をさせていただくという感じでした。それがここ数年は徐々に、継続的な改善が求められるエンハンス、我々はグロースと呼んでいますが、そういう領域にシフトしています。

水上氏:背景にはベネッセの様々な事業における、デジタルプロダクトの急増があります。たとえば教材やテストはこれまで紙で提供していましたが、それをデジタル化した先に、遠藤さんが言うように出して終わりではない、継続的な改善が必要なものが増えてきました。しかし紙とデジタルでは、業務プロセスが全く違います。紙については高いスキルセットを持つ社員がたくさんいますが、デジタルサービスのUXをどう改善していけばいいのか。こうした課題が全社的に出てきた中で、ビービット社と一緒に、課題解決に取り組めないかと考えました。

僕自身も昔、デジタルマーケティング担当だったときに、ビービット社と一緒にお仕事をさせていただいて、大きな成果が出せた事例もありますし、一緒に考えたプロダクトは、お客様の継続率や活用率が高いという実績もあります。プロダクトによってはそういったKPIの設定も含めて、一から考えなければならないものもあり、サービス設計も含めて一緒に取り組めれば、より良い成果が得られるのではと思いました。

ちょうど経営会議でも、全社的なデジタルプロダクトの課題が議論され始めたタイミングで、遠藤さんにも会議にお越し頂いて、UXについてお話しいただきました。事業の課題やプロダクトの課題とUXが密接に関わっていることもわかりました。そのときにすでに5~6のプロジェクトが同時進行していたので、これはもう資本を入れさせていただく形で業務提携をして、一緒にやらせていただいたほうが良いということになりました。

ベネッセと提携する決め手になったのは何ですか?

遠藤氏:経営陣の皆さんのUXに対する本気度です。外注すればいいということではなく、自分たちの事業のコアとして必要だと信じていらっしゃる。「Benesse =よく生きる」という哲学や、お客様の課題を解決するというパーパスそれ自体が、まさに顧客視点のUXそのものなので、「取り組むのは当然のこと」だという話を聞いて、強く共感しました。

必然性もあると思います。例えば試験を紙とデジタルのどちらで受けてもいい場合、以前なら紙が多かったそうですが、今は逆転していると聞きました。

水上氏:そうですね。以前は紙の受講者が7~8割、今はデジタルの受講者が8割です。

遠藤氏:もちろん事業によっても違うとは思いますが、それだけデジタルが中心になってくれば、デジタルでの顧客体験を作らないといけないし、その継続改善もやらざるを得ない。ベネッセの皆さんが今を改革のときと捉えて、本気で取り組んでいると感じたのが、一番大きい理由です。

提携によってどのようなベネフィットが生まれていますか?

水上氏:ビービット社には去年からプロダクトを中心に、インデックスの改善や継続改善など、様々なプロジェクトに参加してもらい、現場のよりリアルな課題感を把握してもらっています。ベネッセは幼児から介護までいろんな事業の集合体なので、UXにおける課題やフェーズも部門ごとに違います。UXに対する組織能力もまちまちなので それを測定できるしくみを一緒に作った結果全体の解像度が上がってきました。経営陣はもちろん、いろんな部門のリーダーが目線揃えて、ベネッセの中でUXの組織能力を強くしていかなければならないという、課題感を共有できたのは大きな一歩。そういう組織設計みたいなところまで深く関わってもらえるのは、資本業務提携をさせていただいたからだと思っています。

遠藤:我々もチームベネッセに入れていただいたという感覚なので、UXの人材採用にも協力させてもらうなど、いわゆる外注ベンダーとは違う関わり方になっています。もちろん短期的な成果も出していかないといけないのですが、中長期の目標を共有しながら、そこに向かって今何をしないければならないのかといった議論ができるのもありがたいですね。

水上氏:短期で出せる成果ももちろん大事ですが、事業全体から見たらインパクトはそれほど大きくない。本丸はベネッセのデジタルサービスそのものの、お客様にとっての価値が、トップ水準に上がることです。そういう目線で仕事をすること自体に、意義があると感じています。

今後のビジョンについて相互に期待することを教えてください。

水上氏:ベネッセの中の人たちの、UXデザインへのスキルセットを高めていくことが最終的なゴールだと思っています。たとえばどんな勉強をすればどう学力が伸びるかといった知見、ノウハウがベネッセにたくさんありますが、それを子どもたちが取り組みやすく学習効果が高いように、どのようにしてデジタルで設計していくかというところが足りない。社内のみんなが教育コンテンツとデジタルサービスを、掛け合わせられるようにならないといけないと思っています。ビービット社にサポートしてもらいながら、共に成長していければうれしいですね。

遠藤:我々もさらに成長して、そういったノウハウをずっと提供し続けられるような存在でありたいなと思います。また、我々は台湾や中国でも事業を展開していますが、ベネッセの教材にはグローバルな競争力があると感じています。日本から世界に誇れるデジタルサービスが少ない中、教育はある意味ユニバーサルなサービスです。ベネッセはこれから、高品質で世界に通用するデジタルサービスを展開されていくだろうし、少しでもそこに貢献できたらと思っています。

MORE
CASE STUDIES