関西学院大学人間福祉学部とベネッセスタイルケアは、シニアビジネスの新たなサービス価値や事業を提案できる人材の育成を目指し、2018年4月に寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』を開講。取り組みの現場からのレポートです。

ベネッセスタイルケアが関西学院大学人間福祉学部に開設した寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』は、これから社会に巣立つ学生にとって、ソーシャルビジネスの一例を実践で知る場となっています。そして大学にとっても、企業のナレッジを活用したカリキュラム開発の本格的な試みとなっているようです。本テーマの締め括りに、講座開設に踏み切った大学側の思い、これからのシニアビジネスに必要とされる人材像のビジョンについて聞きます。

私たちは「高齢化社会」を本当に実感できているか?

お話しいただいたのは関西学院大学人間福祉学部長・大和三重先生です。教室の後方から講義を見守り、学生の意識変化を見逃さない大和先生が描くこれからの人材像は、一人ひとりに寄りそいながら、これからの社会を大胆に描き、その実現のために自らアクションを起こせる人。想像のつかない超高齢化社会においても「よく生きる」人生を切り拓く、実現力を持った人でした。

―― まず、関西学院大学で寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』を開講した理由を教えてください。

大和 いまの大学生たちが40代の働き盛りになっているころには、高齢化率は35%を超え、高齢者一人を現役の働き手が一人で支えなければいけない「肩車型社会」が到来します。現状の社会保障制度とそれを前提にした社会のあり方は危機的な状況を迎えつつあるわけですが、私たちがそうした現実を自覚しているかといえば決してそうとは言えません。それは福祉について学ぶ大学生も同じです。人口構造のデータを見ても、なかなか実感としてわいてこないのです。
学生たちは、よりよい介護とはどのようなものか、どうすれば高齢者も社会の一員として生きることができるのか、現場の取り組みを見ながら考えていくことが必要です。シニアビジネスの第一線で活躍する社会人を講師に迎えることは大学生にとって現場を知り、未来を考える貴重なチャンスになると期待しました。

シニアビジネスで重要になる「理念」

―― 講座を受講する学生の反応はいかがですか?

大和 学生たちは「シニアビジネスはこんなにも広い視野が求められる世界だったのか」「企業活動でもこれほど個人に寄りそえるのか」と驚いています。特にベネッセスタイルケアの理念とそれを土台にしたサービスのあり方は印象的だったようです。
私は、介護人材の離職理由についても研究していますが、勤める法人のトップと考えが合わないからというのが上位にあがります。自分が利用者の方のためになると思ったことが、理事長や施設長から評価されないと、矛盾を感じて辞める人が多いのです。だからこそ、最初に理念を明確に打ち出して、施設のあり方を丁寧に考えていくというビジネスのつくり方は、これからのシニアビジネスを考えていく上で、学生たちに大きなヒントになっているはずです。

実際、講座を受講する学生には、ほかの授業のときとは違った緊張感が見られますね。毎回ベネッセスタイルケアから官庁出身の方、建築業界出身の方、そして経営陣として活躍する方などさまざまな講師の方がいらっしゃいます。ふつうはいわゆる福祉の現場の方々と接することの多い学生にとって、さまざまな分野の専門家の話を聞き、高齢化社会を多角的に考える機会になっています。

「社会を創る力」を身につけてほしい

―― 超高齢化社会という大きな課題に向き合う大学生に、どんな力を身につけてほしいとお考えですか。

大和 本学で社会福祉を学ぶ学生に期待するのは、「ソーシャルアクション」の考え方、つまり、現実を見ながら、社会に働きかけて政策や制度の改善をめざしていく姿勢を身につけることです。従来の枠組みにとらわれることなく、柔軟な発想で物事を考え、広く発信し、取り組んでいく力です。
かつて経験したことがない超高齢化社会をよりよい社会にするため、どんな知識や技術、思いが必要なのかを、シニアビジネスの先駆者たちから学んでほしいと思います。
介護や福祉に限らず、社会課題の解決に取り組む若者の多くは、法律や行政、そしてビジネスなどさまざまな領域のプロフェッショナルと組んで活動しています。福祉という領域で学んできた学生たちにとって、シニアビジネスのプロと共に学ぶ今回の講座が、ソーシャルアクションのきっかけになってほしいと思います。


少子高齢化、環境・エネルギー、グローバル化など、私たちの社会は大きな変化の中にあります。これまでとは大きく異なる社会で、一人ひとりが前向きに「よく生きる」ことを実現するためには、旧い考えにとらわれず、大胆な発想で未来を拓く人材が必要なのかもしれません。そうした人材の育成のために、大学と企業が連携していくことは今後ますます重要になりそうです。

大和 三重(おおわ・みえ)氏
関西学院大学人間福祉学部長・教授 社会福祉学専攻

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