2025.07.29
多様性や包括的性教育も。親子で楽しみながら世界を広げる『しまじろうのわお!』
デジタルの普及でインターネットやSNSを通じ膨大な情報が氾濫する今。子どもたちは幼いうちから様々な情報にふれて育つ一方、今後グローバル化が進み多様な背景をもつ人々との共生が不可欠となる中で、多様性やジェンダーなどを理解するための情報や教育機会は重要性が増しながらもまだ少ないのが現状です。
ベネッセコーポレーションが制作しているテレビ番組『しまじろうのわお!』では、幼児期の子どもや親子に向けて、多様性や包括的性教育(※)の情報をわかりやすく伝え、理解を促すコンテンツを発信。楽しみながら社会性を育み、身近なことから様々な問題に対する気づきや興味関心をひろげる取り組みを続けています。番組制作の担当者に、時代に即したテーマのコンテンツを次々に産み出す制作現場の秘けつ、その背景にある思いを聞いてみました。
※包括的性教育:性や生殖に関する知識にとどまらず、個人の尊重をベースとしながら人権、ジェンダー平等や性の多様性、自己決定など幅広いテーマを含む教育アプローチ

障害ある人もない人も、年齢や性別問わず共に楽しみ友に。「ともともフェスタ2025」に出演
共生社会の実現を目指して、内閣府主催で5月に初開催されたイベント「ともともフェスタ2025」。このイベントは、障害の有無や年齢、性別などの違いを超え、共に楽しむ交流の場として開かれ、当日はイベント主旨に賛同した音楽やエンターテイメント、企業・NPOなどの団体が集結。多彩なプログラムやワークショップが行われました。
このイベントで、しまじろうもステージに登壇。当日はデフアスリートとしても知られる早瀬憲太郎さんと一緒にテレビ番組『しまじろうのわお!』で放映された人気の手話歌を披露しました。

これからの社会で重要なテーマを、楽しみながら考えることができるように
『しまじろうのわお!』は、東日本大震災の翌年である2012年に番組リニューアルで誕生。「でかけよう。せかいは そとが おもしろい!」をコンセプトにバラエティ豊かなテーマを「わお!」(驚き)を切り口に伝えながら、多くの親子に支持されてきたテレビ番組です。

番組リニューアル当時は、震災の衝撃の後、閉塞感が広がり内向的なムードが子どもたちをも取り巻く中、「命」を最も大切な軸に設定。その上で、3つの外(「自分の外」=自意識の風穴を開けよう、「人間の外」=生き物や自然を知り大切にしよう、「日本の外」=もっと広い世界を知ろう)をキーワードに、これまでもいち早くSDGsやサステナビリティの考えを盛り込んだ多様なコンテンツを発信してきました。
今年で14年目を迎えた『しまじろうのわお!』。最近では、一歩進んで包括的性教育やジェンダー、生物多様性など「これからのグローバル社会に向かって、自分や他者を理解・尊重しながら誰もがよく生きるために重要なこと」ではあるものの、幼い子どもたちに伝えることが難しいテーマも取り入れながら、精力的に発信を続けています。
その制作に携わる、川村 裕紀 と 幸田 拓也(ベネッセコーポレーション IP事業部)に、反響あるコンテンツの事例と制作の際に重視していたポイントを聞きました。
「『しまじろうのわお!』は多様性と命の大切さを伝えるコンテンツを発信し続けています。いろんな考え方や視点をもつことが多様性の根幹にあり、そうした多様性に加えて包括的性教育の観点も意識して制作されたのが「きみはきみのからだの しゅじんこう」です。幼児に向けたプライベートゾーンやジェンダーの話をどう取り上げるか?制作チーム一同と監修の先生とで議論を重ね、自分がよいと思っても相手は違うことがあることを理解し、自分がイヤなときはどう伝えるのかなど、最終的には自分の体の主役である大切な自分を守るために大事なことってなんだろう?をしまじろうたちと一緒に考えながら学べる内容にしました」(川村)

「先日のイベントで披露した手話歌も、多様な背景をもつ人が分け隔てなく共に生きる「共生社会」を意識して制作したものですが、どうしたら手話をもっと楽しくわかりやすく伝えられるかで難航して…。でも、元々『しまじろうのわお!』で親しまれていた曲を、手話というコミュニケーション手法と組み合わせることで、楽しみながら繰り返し歌って親しめるんじゃないか、ということでこの形になりました。「大好き」や「おめでとう」などの気持ちを伝え、メッセージもこめた曲を選定しています」(川村)

「生物多様性をテーマとしたシリーズもあり、ずっと大切にしている「命」を軸に、人間だけではなく生き物や地球のことにも関心を寄せられるように。このテーマに思いがある監督、スタッフみんなで議論しながらつくっています。生物多様性という言葉だけだと、どうしても難しく聞こえがちですが「身近なあの生き物が実は絶滅の危機に?!」だったり、時には情熱的なダンスや歌にのせて、引き込まれるうちに自然に生き物の大切さを知り、考えることができるような内容になっています」(幸田)

今を楽しみながら、少し先の未来へとつながるきっかけとなる番組を
時代に合わせた様々なテーマを取り上げながらも、共通しているのは一方的なメッセージ発信ではなく、番組やコンテンツを見る子どもたちや親子が一緒に考え、会話が広がるような内容になっていること。そんな『しまじろうのわお!』の制作の秘けつについて聞くと、入社以来<こどもちゃれんじ>や「しまじろう」の制作やブランディングにかかわってきた川村はそのキーワードを「親子視点」と言います。
「通信教育の教材では発達段階にあわせたその時々の子どもの理解や成長を追求しますが、テレビ番組としての『しまじろうのわお!』はより親子が一緒に楽しみながらお互いに発見があり、気づき合えるような番組づくりを意識しています。そして、制作チームやスタッフ一同でたくさんの議論をして、何がベストなのかを考え一緒に作り上げていく。だからこそ一方的な発信とならずに考えるきっかけづくりへつながっていると思いますし、親子にとってそんなかけがえのない時間を届けていきたい、といつも考えています」(川村)
テレビ番組での各種の制作経験を経てベネッセに入社し、『しまじろうのわお!』の制作を手がける幸田は、制作現場の個性も影響していると話してくれました。
「この番組の制作チームには、元々幼児向けの教育や制作にかかわっていたわけではない多様なキャリア、興味関心や強みを持つ監督やスタッフが集まっています。そんな強い個性が融合することで、生物多様性など幅広いテーマを取り入れながら子どもたちの興味を広げ、大人もおもしろい!と思える番組へとつながっていると思います」(幸田)
そんな『しまじろうのわお!』らしさを受け継ぎながら、長く愛されてきたテレビ番組として、今後はどんな思いや変化をのせて届けていきたいか。最後に2人に聞きました。
「視聴者から届く反応としても「大人も楽しめ、安心して見せることができる」という声が多く、そこは『しまじろうのわお!』のコアな価値として今後も維持していきたいと思います。一方で、テーマや見せ方などは時代に合わせてどんどん変えていかなければと。実際、車いすのキャラクターが登場したり、しまじろうのお母さんも番組が続く中で、家でライターの仕事を始めたり、服装も変わったりと取り扱うテーマだけではない変化もたくさんあります。今後に向けては、だいそれたことではなく日常の中でたくさんの「わお!」を親子で見つけて楽しんでほしい。親子が一緒に過ごす時間は思ったより短く、そしてかけがえのないもの。その時間の中で、『しまじろうのわお!』を見ていただくことで今を楽しみながら、ちょっとだけ先の未来を考えるきっかけへとつながるような番組を届けていきたいと思います」(川村)
「『しまじろうのわお!』は土曜日に放送されるので「番組を見て、週末にこんなことをしました」という声を聞くこともあり、実際の生活にも影響を与えていることを感じています。それから、番組コンセプトでも「でかけよう。世界はそとがおもしろい!」とうたっていることもあって、あちこち外へと出かけて挑戦するシーンがたくさん登場します。外には時には危険なこともあるので、何より大切にしている命や安全に関する情報にはしっかりアンテナをたてて必要な発信をしながら、外へと世界を広げていきたい。今の時代、家の中でも楽しいことはたくさんあると思いますが、知らないことを知って、やってみたいことができたら未来は変わるかもしれません。子どもたちにとってしまじろうは友達でありライバル。そんなしまじろうがやっているから、自分もやってみたい。そう思いながら、外へと飛び出しいろんなことに挑戦する子どもたちが増えたらいいですね」(幸田)
幅広い年齢の子どもたち、親子が一緒に番組を楽しみながら気づきや発見の瞬間がうまれる姿を思い描いて。『しまじろうのわお!』はこれからも、好奇心旺盛なしまじろうと一緒に様々な場所に出向き、世界を広げ未来へとつながる情報を届けていきます。
情報協力
- しまじろうのわお!
-
※テレビ東京系列6局で毎週土曜日朝8時30分~9時に放送中。BS11では毎週土曜日18時30分~19時に全国放送中

- 川村 裕紀
-
ベネッセコーポレーション IP事業部 2003年、ベネッセコーポレーションに入社。以降「しまじろう」「こどもちゃれんじ」ブランドに関わり、現在はテレビ番組「しまじろうのわお!」を担当。2児の父。

- 幸田 拓也
-
ベネッセコーポレーション IP事業部 テレビ番組制作会社を経て2023年ベネッセに入社。テレビ番組「しまじろうのわお!」の企画・制作を担当。
ほかにも<こどもちゃれんじ>の映像教材、しまじろうのプラネタリウム番組など、様々な映像コンテンツの企画・制作に携わる。