年間約10万人が介護・看護で離職する時代(注)にあり、企業にとっても働き盛りの労働力を失うという危機感を生んでいます。働き方改革の一環として、介護をしていても職場で力を発揮できる環境づくりに取り組む企業の今を、「仕事と介護の両立支援サービスWork&Care」を行なっている株式会社ベネッセシニアサポート 法人事業部の鬼沢裕子に聞きました。

(注)「介護・看護のために過去1年間に前職を離職した人数(15歳以上)」平成29年 9.9万人(総務省平成29年度就業構造基本調査)

セミナー受講者のほとんどが「自社の介護支援の内容を知らない」

鬼沢 「介護は誰もが直面し得る問題ですが、当事者になるまでは先送りにしがちです。私たちがサポートする企業で行う『仕事と介護の両立セミナー』参加者のほとんどは、自分の会社の支援制度の内容を知らないと答えます。
また企業側は、何らかの支援策を行っていても(図1)、介護に悩む社員がどれだけいるのか、何に困っているのかを把握できていないことが多いですね。人事評価や昇進にマイナスになるかもしれないからと、介護のことを言い出せず、結局は離職を選択する社員もいるようです」

Q.御社の「仕事と介護の両立支援」の取り組み状況を教えてください。
図1 複数回答/㈱ベネッセシニアサポート「セミナー体験会」参加企業(人事・ダイバーシティ推進担当者等)へのアンケートより 2017年集計

― 仕事との両立をあきらめ離職した結果、負担は軽減するのでしょうか?

鬼沢 「実は離職後のほうが、経済面・肉体面・精神面のいずれも負担は増すという調査結果があります(図2)。精神面での負担が増したと答えた人は約65%おり、ずっと介護に向き合う毎日に、追い詰められるのかもしれません」

(離職者)離職後の変化
図2 「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(平成24年度厚生労働省委託調査)より

鬼沢 「私も介護経験がありますが、介護には期限がないので、長く続けるには『仕事』という別の世界を持って気持ちを切り替えることも必要だと思います。働きながらでもできる介護は何か、介護のプロの手を借りたほうが良いことは何かなど、介護する側とされる側で話し合える状況であれば、歩み寄っていくことも必要ではないでしょうか。
企業も、そういった事情をオープンにでき、仕事のパフォーマンスを落とさずに両立できる職場とはどういうものかを、模索しています」

『あなたに仕事を続けてほしい』というメッセージを、会社から伝える

― Work&Careサービスでは、企業に対してどういう取り組みをサポートしていますか?

鬼沢 「まずは社員に、『会社はあなたに仕事を続けてほしいと思っています』というメッセージを伝えることが必要です。社員向けの両立セミナーも、その手段の1つとお伝えしています。私たちが行うセミナーでは実施後にアンケートへの協力をお願いしています。これが介護の悩みや実態の顕在化につながります。『仕事との調整を不安に思っている人がこんなにいる、何とかしなければ!』と受けとめる人事担当者の方も多いですね」(図3)

仕事と介護を両立する上での不安(複数回答)
図3 ㈱ベネッセシニアサポート「仕事と介護の両立セミナー」受講者アンケートより 2018年集計

Work&Careサービスを利用するある企業では、社員人口を調べたところ約3割が団塊ジュニア世代(40代後半)だったとか。ここ数年で大量の介護離職が発生し得る危機感から、介護問題への取り組みが経営戦略の重要課題になったと言います。介護に関する知識の底上げのためにセミナーを開催したところ、募集開始1時間で満席に。『体系立てて何をすべきかがわかった』など、漠然とした不安が具体的な行動への意識に変わる成果を上げています。

鬼沢 「介護は『家族ごと』であるという考え方から、日曜に家族参加セミナーを開催した企業もあります。また全国展開の企業など、地方の事業所などに居ても公平に受講機会を提供したいからと、全国どこからでも参加できるオンライン研修のニーズも高まってきています。

メールや電話、対面での個別相談サービスを提供している企業もあり、利用率がそれほど高くない企業のご担当者と打ち合わせた際に印象的だったのが、『今は、困っている人が少ないだけ。利用数ではなく、いつでも使える窓口がある、それが大事なんです』とおっしゃっていたこと。その取り組み姿勢に『なるほど』と思いました」

仕事と介護の両立ハンドブック
介護の基礎知識をまとめた社員向け「仕事と介護の両立ハンドブック」は、その企業の要望に合わせて作成する。高齢の親御さんと話すきっかけになるからと、家庭で活用する人も多いという。

誰も犠牲にならない、働きがいを維持できる「仕事と介護の両立」へ

高齢化が進む日本では、ひとりの人が介護する対象は親だけではなく親族や地域のお年寄りなど、広がっていく可能性もあります。

鬼沢 「企業がどこまで個人の問題に踏み込むかは難しいテーマです。けれども、介護に直面する人が増える時代だからこそ、“その時”が来たときに戸惑わないように若いうちからの備えについて、企業ぐるみで取り組むことが大事になっています。

仕事と介護の両立は楽なことではありませんが、そこから得られることも大きいと思います。仕事をあきらめたり、誰かが犠牲になるのではなく、それぞれが自分の人生を生きながらお互いに支え合う世の中になるよう、これからも企業の皆さんと一緒に、働き方のあるべき方向を考えていきます」

───取材協力

■株式会社ベネッセシニアサポート
法人事業部 部長
鬼沢 裕子(おにざわ ゆうこ)




ベネッセコーポレーション人事部在籍時に、自身の介護経験などをもとに「仕事と介護の両立支援」事業を提案。Work&Careサービスを立ち上げる。
現在は仕事と介護の両立に関する企業向けコンサルティング、セミナー講師等を務める。


「仕事と介護の両立支援サービスWork&Care」
https://www.benesse-senior-support.co.jp/biz/