専門科目を英語で学び、専門分野の深化と
英語力向上の両立を目指す

中央大学
国際経営学部
飯田 朝子 教授

学校情報

中央大学(東京都/私立)

  • 設立年:1885(明治18)年
  • 学部:法学部、経済学部、商学部、理工学部、文学部、総合政策学部、国際経営学部、国際情報学部
  • 学生数:約2万5000人

ポイント

  • 経営学、経済学、統計学などの専門科目を含め、全科目の7割の授業をオールイングリッシュで実施
  • フォローアップ授業の開設や同一科目を英語力別に実施するなど、学生の英語力に応じた教育プログラムを提供する
  • 「GTEC」Academicを4技能で受検し、レベル別のクラス編成、およびデータを教員間で共有して授業改善に利用している

I.大学の紹介

1885(明治18)年、法の実地応用に優れた人材を育成するために、英吉利法律学校として創設された。基礎・基本を重視した教育、社会の課題を自らの課題として捉えられる問題発見・解決力を涵養する実地応用教育を展開することで、幅広い教養と異文化に対する理解力・コミュニケーション能力、それを基礎とする豊かな感性と人間力、高度な専門性を備え、国際社会に貢献できる人材育成を目指している。実学教育の伝統を受け継ぎつつ、新しい教育システムの開発にも取り組んでおり、学際的で問題発見・解決型の学部横断教育を実施するファカルティリンケージ・プログラム(FLP)、グローバル人材育成のための各種プログラム、全国の大学に先駆けて国内外で実施している多様なインターンシップなどがある。

中央大学多摩キャンパス

Ⅱ.取り組みに至った背景

中央大学は2019年4月、経営学、経済学の専門知識と語学運用能力を備え、グローバルに活躍できるビジネスリーダーを育成する国際経営学部を新設した。欧米で使用している教科書を使って国際標準の経営学、経済学、統計学の専門知識を習得し、海外でのフィールドワークやインターンシップを行いグローバルビジネスに必要な実践力を身につける。さらに、1年次必修の短期海外留学、専門科目の7割を英語で行うカリキュラムを整備し、4年間で実践的な英語力を身につける。
 英語の授業は、1学部296人の学生を英語力に応じて14クラスに分けて15~20人の少人数教育が行われるが、このクラス分けのために、入学直後の4月、同学部ではプレイスメントテストとして「GTEC」 Academic(以下、「GTEC」)を実施
した。同学部の英語教育の責任者である飯田朝子教授は、「GTEC」活用の理由を次のように語る。
 「自分が受検してみて非常に良かったのと、前年まで所属していた商学部ですでに導入していて親しみやすかったというのが大きな理由です。出題が大学生に適している点、受検者の正解状況に応じて問題の難易度が変わるCAT(Computer-adaptive Testing)が導入されており、短時間で正確に4技能での英語力が測れる点に魅力を感じていました」

Ⅲ.取り組み内容

専門科目も英語で学ぶ国際色あふれる新学部

専門科目を英語で学ぶ学部の誕生は、中央大学に専門科目を英語で学び、専門分野の深化と英語力向上の両立を目指すとって「画期的」と飯田教授は評価する。飯田教授は、従来の教養教育における英語指導の限界を感じていたという。
 「従来の学部の英語教育は、ほぼ1、2年次の教養教育だけで行われます。そのため、入学から2年間である程度英語が上達し、第2外国語との違いなども分かり英語に面白さを感じ始めた頃に、3年次に進級して英語と疎遠になってしまう状況をもったいなく感じていました
 国際経営学部では全カリキュラムの7割が英語または中国語で行われる。経営学、経済学、統計学、マーケティングなどの必修科目では、1 冊800 ページ程度の英語の原書をそのまま教科書として使用している。

必修科目の洋書テキスト(一部)

また、文献の調べ方や発表の仕方などのスタディ・スキルを学ぶ1年次必修の「入門演習」もオールイングリッシュで行われる。4年後の卒業論文もすべて英語で書かせる予定だ。徹底した英語使用の背景には、コミュニケーションの場面で日本語を介さず、英語を英語のまま理解し英語で返す高度な語学力が、国際的なビジネスシーンで求められるという認識がある。
 もっとも同学部には、帰国子女から国内の普通科高校でコツコツ取り組んできた学生までおり英語力は幅広い。そのため、例えば必修の経営学では英語力に応じて全296 名の学生を6クラスに分け、同じ教材・スライドを使って同一の授業を並行して行う。英語力の優劣によって科目の理解度に差が出ないための配慮である。また、経営学、経済学の入門科目や2年次コア科目の国際経営論など、特に重要な科目は、週2回の授業のうち1回を講義授業のフォローアップ授業である「チュートリアル」に位置づけ、講義内容について、若手教員がかみ砕いて解説したり、グループによるディスカッションやワークショップで理解を深めたりする。英語力が追い付かず講義内容が抜けてしまった学生はここで遅れを取り戻すことができる。さらに同学部では、専属のアカデミックサポートセンターを設けており、講義内容を十分理解できなかった学生は、専門知識をもった常駐のネイティブ教員に気軽に質問することができる。

英語で卒論を書く力を養成する英語教育

 一方、英語を学ぶ科目として、1、2年次の必修科目である週2回の「アカデミック英語」を設置している。一つは英作文を通してリーディング力、ライティング力を養う科目、もう一つはコミュニケーション主体でリスニング力、スピーキング力を育てる科目である。最終的に英語で卒論が書ける力を養うために、文章の構成やレポート作成の作法、英語文献の調べ方や参考文献リストの書き方などもアカデミック英語の中で教えていく。期末試験は共通の問題のほか、英語レベル別に異なるレポートを課し、最低でも授業で取り組んだことは身についているかどうかを確認する。1、2年次の選択科目としてスペイン語と中国語の授業も用意している。
 3、4年次は選択科目の「アドバンスト英語」を設け、さらに高度なプレゼンテーション能力やネゴシエーション力などを身につける。英語力については卒業までにCEFR スケールでC1 あるいはC2 を目指すのが目下の目標である。
 国際経営学部では英語の専任教員は置かず、「アカデミック英語」はすべて専門科目との兼任で実施する。日本の大学で教えた経験のあるネイティブの教員、あるいは英語に堪能な日本人・中国人教員が中心である。「認可された教員の定数をすべて専門科目にあてることで、専門性の高さを担保したかった」と飯田教授は理由を述べる。

1年次必須の海外留学で語学と専門への興味を喚起

 国際経営学部では、国際社会で活躍するために必要な「実践知」を身につけることを最終的な目標としている。その前提として、専門科目と教養科目により理論に基づいた知識である「形式知」を、留学やフィールドスタディなどのグローバル科目で「暗黙知」を身につける。この二つの知を融合し高い語学運用能力に裏付けられた「実践知」を身につけ、グローバルビジネスリーダーとして国際舞台に羽ばたいていくイメージだ。
 これを実現するために、同学部では4年間の中にさまざまなハードルを設けている。最初のハードルが1年次夏の短期海外留学である。アメリカやオーストラリアなど英語圏の国に4週間ホームステイをするプログラムである。英語力の伸びを目指すとともに、ホストファミリーとの生活や働き方の違いを間近に見ることで異文化や異環境に順応する柔軟性を磨く。また、ビジネス会話やビジネス電話、取引先とのメールのやり取りなどを練習したり、日本の労働環境について調べてディスカッションの材料を提供したりすることで、専門性への興味を喚起するのもねらいの一つだ。
 「1年次の夏という早い時期から学びへのモチベーションを上げていくことが最大の目的です。コミュニケーション能力の必要性を痛感して帰ってくる学生が多いと思うので、2年次以降の学習のモチベーションも維持できると期待しています
(飯田教授)
2年次までには専門科目の英語を難なく聞いたり、教授に質問したりする力を身につけるのが目標である。特に重視しているのが質問力である。単なる英会話ではなく、「今の説明はどの事例に結びつくのか」など自分の意見を持ちながら、学問内容に深く切り込んでいける質問力を身につけさせたいと飯田教授は語る。
 3年次から専門のゼミに所属し、実践力を高めるためのフィールドスタディが本格化する。インドネシアやインドなどに赴いて企業訪問や実地調査を行うなど、ゼミごとにテーマや訪問先を決めて研究に取り組む。全学で実施している海外インターンシップも積極的に活用し、英語力とビジネス感覚に磨きをかけていくという。
 「4年間、とにかく刺激を与え続けることで、学生が目覚めてくれることを期待しています。本学部の学生は家庭環境の影響もあって、卒業したら就職という日本的な考えに縛られない学生が多いのが特徴です。卒業後は世界中を旅して自分探しをしたい、起業したいなど、年齢で自分の人生を区切らず自分らしさを追求していく意欲が高い。大学で学ぶ中でやりたいことを見つけ、就職が一つの選択肢になるのであればそれを追求すればいい。日本的な縛りから解放されて、世界レベルの考えや視野を持った人材が羽ばたいてくれることを期待しています」
(飯田教授)
以上の教育を実現するために、外部英語検定試験を入試活用するとともに、入試問題にも工夫を凝らした。特徴の1つは、1年次から専門科目を学ぶことを踏まえて、専門性に対する知識や興味関心を問うている点である。2019年度入試では、LINEアプリの開発秘話について書いた長文を読ませて理解度を測るとともに、「どうすればもっと発展させられるか」などビジネスセンスを問う設問も入れた。
 2つ目の特徴はプレゼン力を測る点である。プレゼンの原稿を読ませて、何をプレゼンしているのか、何を訴えたいのかを考えさせ、このプレゼンにふさわしいスライドはどれかを選ぶ問題である。
 「将来、国際会議に出てプレゼンできる力まで身につけてほしいと考えています。その出発点である入試の中で、プレゼン力が大切であるというメッセージを受験生に伝えたいというねらいがありました」

「GTEC」で弱点を把握し授業改善に生かす

国際経営学部では、アカデミック英語のクラス分けを行うためのプレイスメントテストとして「GTEC」を4技能で受検している。飯田教授は、そのメリットを次のように語る。
 「たとえば、スピーキングは学生が遭遇しそうなシチュエーションがうまく盛り込まれています。加えて、冠詞が落ちている、三人称単数が出てこない、過去形で不規則動詞が出ないなど、英語力の本質を問う仕掛けが盛り込まれています。私自身が英語の授業をするときも、こういう問いかけをしてみたいと思える問題になっていて、授業を進める際の基礎となるデータを得られると考えました」(飯田教授)
 「GTEC」の結果は教員間で共有し授業改善に生かしている。2019年の1年生はスピーキングのスコアが他の技能と比べて低い結果が出た。この課題を学部内で共有し、ライティングの授業の中にスピーキングの要素を入れ、発話力の向上を図る方針が立てられた。また、50~60人規模の専門科目を受け持つある教員は、講義がリスニング一辺倒にならないよう学生同士のディスカッションを入れた。具体的には、最後の15分間を使って、講義内容の応用問題について5人程度の小グループで話し合い、そこで出た結論をグループの代表者に英語で発表させ、専門科目の内容を踏まえたスピーキング力の育成に取り組んだ。
 飯田教授が担当する入門演習では、たどたどしい英語であっても、積極的に自分の意見を述べたり質問したりする学生を徹底的に褒めるという。
 「帰国子女が流暢な英語でしゃべるのを間近で聞いていると、普通の学生はどうしても気後れしてしまいます。英語の優劣を評価するのではなく発言したことを評価することで、アピールしようとする気持ちが高まれば自然と発言回数も増えていくでしょう。学生が主人公になるように、教師がいかに授業を演出していくかが大切だと思います」(飯田教授)

Ⅳ.今後の展望

入学から2か月、すでに学生は学内で英語を使うことに違和感をもたなくなっており、教員との日常の挨拶や会話も英語で行う方が多いという。また、「GTEC」によるクラス分けは、能力に応じた適正なレベル分けができており、教師の実感とも合致しているという。
 「CATの試験で、一人ひとりの英語力に合わせた出題になっているということもあり、学生の能力の弁別が正しくとれていました。また、技能別の学生の特徴を早期に把握することができ、指導に還元することができたのも良かったと感じます」
 今後は「GTEC」を継続して受検することで教育成果の検証材料として使用する。1年次4月のプレイスメントテストに加えて、毎年2月の受検を必須化して1年間の伸びを計測すると同時に、2年次のアカデミック英語のクラス分けに使用する予定である。
 「これからも英語を母語のように自然に使える環境づくり進めていくつもりです。英語が上手なだけではなく、日本人らしい気質やビジネスマナーも習得してもらい、コミュニケーションスキルや理解力、質問力に長け、世界から信頼される人材を育てていきたいと考えています」(飯田教授)

お話を伺った方

国際経営学部 飯田朝子教授