エビデンスに基づいた英語の指導改善を推進し、
学生の4技能の伸長 と学習意欲の醸成を図る

岡山大学
基幹教育センター
佐々木 健二 教授

学校情報

岡山大学(岡山県/国立)

  • 設立年:1949(昭和24)年
  • 学部:文学部、教育学部、法学部、経済学部、理学部、医学部、歯学部、薬学部、工学部、環境理工学部、農学部
  • 学生数:約1万人

ポイント

  • 「4技能を重視した指導に対応したアセスメントとして「GTEC」Academicを導入し、学生の実態を適切に把握できるようにした
  • 「GTEC」Academicの結果を指導に反映させる体制を整え、エビデンスに基づく指導改善を推進
  • 4技能別のCAN-DOリストの作成に力を入れ、学生が必要な学習改善を主体的に進められるよう支援

I.大学の紹介

 第六高等学校や岡山師範学校、岡山青年師範学校、岡山医科大学など、旧制の高等教育機関を統合し、1949年に設立。環境やエネルギー、食料、経済、保健といった様々な課題の解決を図り、高度な知の創成(研究)と的確な知の継承(教育と社会還元)に力を入れ、人類社会の発展への貢献を目指している。そうした理念を実現すべく、2014年度に文部科学省の「スーパーグローバル大学」(SGU)の指定を受け、国際社会で活躍できる人材育成に向けた環境づくりを強化。海外留学を希望する学生への支援を充実させたり、英語で授業を行う科目を増やしたりするなど、大学教育改革を推進している。

岡山大学津島キャンパス

Ⅱ.取り組みに至った背景

岡山大学では、グローバル人材の育成を最重要課題として位置づけている。そこで重視しているのが、英語教育の充実だ。学生の英語4技能をバランスよく向上させられるよう、1・2年次から、「話す」「聞く」「読む」「書く」活動を中軸に据えた授業づくりを推進している。そうした方針を全学部・学科で徹底させるため、教養教育全般を担う基幹教育センターに英語教育専門の部署を設置。教養教育における英語科目の指導は、基本的に同部署所属の専任・非常勤教員が行っている。同センター副センター長の佐々木健二教授は、そのねらいを次のように語る。
 「国際化が進む現代社会で生きていくためには、4技能が欠かせません。卒業までにしっかり身につけられるよう、教養教育でその基礎を固めさせたいと考えています。また、専門教育においては、多くの学部・学科で英語力がより重要になります。専門教育における学習を深めるためにも、教養段階での4技能の指導を重視しています」
 ところが、毎年12月に4年生・6年生全員を対象に行う卒業時アンケート調査では、「英語に自信が持てない」「英語に苦手意識がある」などと回答する学生が少なくなかった。そこで、英語教育の指導改善に力を入れることにした。教養教育を中心に、同大学の取り組みを見ていく。

Ⅲ.取り組み内容

指導の成果検証を強化すべく4技能を測るアセスメントを導入

 まず取り組んだのは、学生の英語力を適切に評価する体制の整備だ。同センターでは、4技能別エビデンスに基づいた英語の指導改善を推進し、学生の4技能伸長 と学習意欲の醸成を図るのルーブリックをCEFRスケールに基づいて作成し、評価指標としていたが、それに加えて、アセスメントによる評価にも力を入れることにした。
 同大学では、1年次の4月に英語の必修科目のプレイスメントテストとして、大学が費用を負担し、全学生に2技能の資格検定試験を課していた。以前は、それ以外に英語のアセスメントは行っていなかったが、2018年度からは、4技能の指導成果を客観的に測れるよう、1年次の12月に「GTEC」Academic(以下、「GTEC」)を実施。実施にあたっては、大学が費用を負担し、全学教育の一環として、全学生に受検させ、4学期(12〜2月)の必修科目の単位認定要件として、「GTEC」の受検を位置づけることにした。佐々木教授は、「GTEC」を導入した目的をこう述べる。
 「4技能を重視した指導を充実させるためには、4技能のアセスメントによる学生の実態把握が不可欠です。指導の成果と課題をエビデンスに基づいて検証し、指導改善につなげたいと考えました。また、アセスメントを通して4技能のレベルが可視化されることで、学生は自分の強みや課題を把握できます。そうなれば、学生一人ひとりが必要な学習を意識し、主体的に学びに向かうきっかけになるという期待もありました」
 また、4月のプレイスメントテストも「GTEC」へ切り替え、4月と12月の年2回、共通の指標で英語の各技能の伸びを見ることで、学生の実態把握と指導改善の強化をねらった。

4技能別に必修科目を設置しエビデンスに基づいた指導改善を推進

 2019年度には、教養課程の英語のカリキュラム編成を刷新した。
 1年次には、全学部・学科で「スピーキング」「リーディング」「ライティング」「リスニング」と技能別に4つの必修科目を設け、一つひとつの技能をよりきめ細かく指導できるようにした。そして、2年次には、学部ごとに1つもしくは2つの必修科目を設置。文学部や医学部などの4学部では「英語(総合)」1科目を必修とし、ディスカッションやプレゼンテーション、レポートの作成など、4技能を駆使する様々な活動を通して、英語による批判的思考力や創造力などの向上を図っている。教育学部や法学部などの7学部では、スピーキングとリスニングに特化した「S&L」、リーディングとライティングに特化した「R&W」の2科目を必修とする。両科目とも、英語の論文などを教材に用い、1年次よりもアカデミックな内容を扱う。
 それら多様な必修科目の指導改善に、「GTEC」の結果を反映させている。例えば、2018年12月の「GTEC」ではスピーキングに課題がある学生が多かったため、2019年度の1年次では「話す」活動に力を入れることにした。具体的には、「スピーキング」はもちろん、他の必修科目でも、学生同士のディスカッションやスモールトークなどを積極的に行っている。
 「技能別の科目編成にしていますが、どの科目でも複数の技能を統合して学ぶ場面を大切にしています。実際の英語によるコミュニケーションでは、2つ以上の技能を同時に用いることも少なくないためです。2019年度の1年次では、『話す』活動の充実を全必修科目共通の目標とし、指導改善に力を入れています。2019年12月の『GTEC』では、その成果も検証したいと考えています」(佐々木教授) 同センターでは、指導改善に足並みを揃えて取り組めるよう、教員間の目線合わせを重視。教養における英語科目を担当する専任、特任、並びに非常勤講師が集まる会議(交流タイム)を定期的に行っている。
 「交流タイムでは、『GTEC』で明らかになった指導の成果や課題といった情報を共有し、必要な指導を議論しています。指導改善は、一部の教員だけではなく、全教員が一丸となって推進することが大切です。そのためには、教員間の合意を形成し、指導方針を統一する必要があると考えています」(佐々木教授)

学生が主体的に学習改善を図れるようCAN-DOリストの作成を進める

 学生が主体的に英語を学習できるよう支援することにも力を入れ、2つの柱を設けている。 1つめの柱は、学士課程の4年間もしくは6年間に、学生に身につけさせたい英語力や段階的な達成目標などを4技能別にまとめたCAN-DOリストだ。2020年度から全学部・学科で活用できるよう、現在、基幹教育センターが作成を進めている。
 「知識・技能の定着には、教員の指導を受けるだけではなく、学生が必要性を自覚し、学習し続けることが必要です。そうした意欲を喚起できるよう、具体的な目標を示したいと考えました」
(佐々木教授)
 前述の通り、同大学では1年次の12月に4技能のアセスメントを実施し、学生が自分の4技能のレベルを客観的に把握できる環境を整えた。アセスメントの結果をその後の学習に生かす上でも、CAN-DOリストは重要な役割を担うと、佐々木教授は語る。
 「段階的に目標が示されたCAN-DOリストがあれば、学生は自分の次なる目標を立てやすくなります。アセスメントで洗い出された課題を解決したり、アセスメントで認識した自分の強みを生かし、さらなる高みを目指したりするためのヒントも見つかるでしょう。そうして自分で考え、行動に移せるようになることで、学習改善のPDCAサイクルの確立につながります」

独自に開発したeラーニングで学生の語彙力向上を図る

 2つめの柱は、授業外学習の機会を充実させることだ。例えば、外国人留学生と日本人学生が交流するソーシャル・ラーニング・スペース「L-café」を設置している。職員が常駐し、学生・留学生はいつでも利用可能だ。岡山県の伝統と歴史を学ぶフィールドワークや花見パーティ、留学生や留学経験のある日本人学生が講師を務める英会話講座など、「L-café」が独自に企画・運営するイベントやレッスンもある。
 「『L-café』をよく訪れる学生には、留学生との交流を通して、自然に英語力を高めていく者が少なくありません。英語によるコミュニケーションを実践する絶好の場だと感じています」(佐々木教授)
 また、2019年度の1年次の2学期(6〜8月)からは、英単語とその日本語訳を毎日一定時間「見る」ことを通して、語彙力を伸ばす取り組みを始めた。約1000語の習得を目標に、毎日約100語ずつ、繰り返しeラーニングで配信し、学生には5〜10分間、それらを見るよう呼びかけている。あくまでも任意の学習だが、eラーニングでの学習成果を平常点として成績評価に加算する英語の必修科目もある。
 「語彙の習得には、一夜漬けのような短期間の学習ではなく、時間をかけて取り組むことが大切です。本学大学院教育学研究科の寺澤孝文教授の研究では、覚えようと意識しなくても、一定の学習方法を継続することで、学習内容が自然と定着することが実証されました。そこで、寺澤教授の研究を基に、eラーニングによる英単語学習を独自に開発し、実施することにしました」(佐々木教授)

Ⅳ.今後の展望

 一連の指導改善により、学生はより主体的に英語を学ぶようになっている。4技能をバランスよく伸ばそうとする意識も高まっており、「GTEC」の結果から、自分に必要な学習を判断して取り組む学生の姿が目立つ。
 最大の成果は、「GTEC」の導入により、エビデンスを伴った指導改善が推進されたことだ。4技能の課題を客観的に把握し、それを着実に指導に反映させている。2019年度の1年次における英語の必修科目で「話す」活動を推進していることは、前述した通りだ。
 「4技能のアセスメントの導入により、指導と評価を一致させることができました。指導をするだけではなく、その成果と課題を可視化し、改善に生かしていく体制が整いました。指導改善のPDCAサイクルを回せるようになったと感じています」(佐々木教授)
 今後は、指導の成果検証を強化し、さらなる指導改善を目指す。例えば、過年度比較で「GTEC」のスコアの推移を見取り、変化の要因の解明に力を入れていく。
 「英語力の変化の要因は様々ですが、それらを適切に把握できるようにすることが今後の目標です。そうなれば、学生の実態に応じた指導改善をエビデンスが伴った形でより充実させることができます。グローバル化が進む中、英語力を身につけることの重要性はますます高まっています。卒業までに学生一人ひとりの4技能をしっかり向上させられるよう、またそのエビデンスを学生が持つことで、自信をもって本学を卒業し、社会で活躍できるよう、今後も指導改善に力を入れていきたいと考えています
」(佐々木教授)

お話を伺った方

基幹教育センター 佐々木健二教授