ベネッセコーポレーション「進研ゼミ高校講座」は高校生を対象に「環境」をテーマとした小論文コンクールを毎年開催しています。2007年に有志でスタートした企画は、今回で16回目を迎えました。小論文の課題は「自分ではない誰か」、たとえば環境大臣や企業の社長、高校生など特定の立場を設定して論じるユニークな形式で、環境問題に対する意見を述べ、根拠や理由を示しながら解決策を提案します。
今回のコンクールにも全国の高校生から多数の応募がある中、受賞作品は、自分自身の体験や学習内容と、客観的データや科学的事実とを結びつけ、柔軟なアイディアと提案で未来を切り拓く力を感じる内容でした。
これからの社会を担う高校生たちは、今の環境課題をどのようにとらえ、解決策を導きだそうとしているのでしょうか。コンクール担当者のねらいや思いをご紹介します。

Fast&Slow / PIXTA

「環境」というテーマは、小論文を書くのに適している

高校生環境小論文コンクールを開催することには、2つのねらいがあります。1つは、近年ますます重視される、思考力を伸ばす学びの機会、もう1つは、環境という大きな問題をテーマとすることで、視点を変えて将来や社会を考える機会を提供することです。

小論文は、自分の意見を、客観的データや事実を組み合わせた根拠とともに伝えることで、他者を説得する文章です。課題にどう向き合うのか、自らの体験や学びによって得た問いを立てて、自らの意見の確からしさを、収集・整理した情報とともに、論理的な道筋で組み立てていくという小論文のプロセスには、思考力を鍛える要素がつまっています。そのような小論文の特性が着目され、昨今増加傾向にある、学校推薦型選抜・総合型選抜といった推薦入試を中心に、入試科目に採用している大学も多くあります。
また「環境」は、環境問題だけでなく、世界全体の経済や社会活動を含んだ大きなテーマです。環境問題が世界各地で一層深刻さを増す一方で、問題の解決に向けた社会の取り組みや技術開発も進んでいます。
高校生が、大きな課題や状況を自分なりに解釈し、未来を切り拓く視点で改善策を提案するのに、「環境」はまさに小論文に適したテーマといえます。

一方で、「環境」は非常に大きく、とらえ方が難しいテーマでもあります。ともすれば問題のありきたりな指摘に終始したり、小論文に必須である自分の意見がどこか他人事のようになって、提案の主体があいまいになったりするケースもあります。
そのため、高校生環境小論文コンクールは課題として「自分や自分以外の誰かという立場」を設定する、という条件があります。その条件によって、その立場でできること、得られるメリットなどを考えることができます。現実味のない他人事の理想論ではなく主体的に改善策を提案する内容を小論文にまとめることができるのです。


独自の視点と、客観的なデータや科学的事実を組み合わせ、ユニークな提案をした作品を選出

2023年度のコンクールには、400件を超える応募がありました。応募作品は、「独創性」「論理性」「提案の有効性」「設定した立場との整合性」を基準として審査がされます。
このコンクールの第1回目から関わり、作品の監修をいただいている細田衛士先生は、「小論文ではなぜそれを課題と捉えるのか? なぜこの解決策がいいのか? の根拠を説明することが必要です。例えば、自分が住んでいる地域に引きつけ、自分の地域をよくしていきたいという作品には光るものがあります」と講評を述べられました。
受賞作品は、まさに自分の感じる課題をデータや事実で深め、その課題解決のために最もふさわしい立場から解決策の提案をすることで、課題を解決する未来への思いとアイディアにあふれた内容ばかりです。

例えば、最優秀賞を受賞した沖縄県在住の高校生による作品は、「沖縄県にある大手企業の商品開発部」を立場として設定し、沖縄県が日本一の生産量をほこるバナナについて、その葉の再利用による石油製品の削減を提案するものでした。通常は処分されるものを資源に置き換え、石油製品を減らしていこうとする世界の潮流に即した内容は、地域に根差した着眼点と、数字に基づく説得力のある構成、実現性の高いアイディアが評価されました。

その他にも、優秀賞で選ばれた作品では、「玩具会社の社長」が提案する、ごみ拾いと巨大ガチャのおもしろさを掛け合わせた3Rの促進活動や、「世田谷区長」が提案する、自転車を漕ぐ力を利用した再生エネルギーの実用化、「環境大臣」がウォーターサーバーをコンビニエンスストア等地域の店舗に貸し出しマイボトル活用促進を提案するなど、新鮮な視点や、柔軟でユニークなアイディアが並びました。

第16回環境小論文コンクールWebサイトより〔URL後述〕/受賞作例は一部抜粋。
どの立場からの提案か?には「企業の商品開発担当」「区長」などが並ぶ。

回を重ね、選ぶテーマは広く、提案の内容は高度に。一方で、書き方の変化も

近年、高校生が選ぶテーマは多岐にわたっています。
長年、コンクールの事務局を務めてきた田中(ベネッセコーポレーション 高校生商品開発部)は、時代の変化に即した変化を感じています。

「コンクールが始まったころは、地球温暖化にまつわる内容、特に『水まき』や『グリーンカーテン』など、身近で自分が取り組める解決策の提案が多数を占めました。開始から十数年がたち、環境問題は深刻さを増し、SDGsの認知拡大とあわせて着実に広がっています。それに伴って、提出される小論文は『エネルギー問題』『海洋ゴミ』『食料自給率』など多様なテーマでの提案が増え、環境意識の広がりが感じられます。」

10数年で、環境問題のテーマ選定の傾向が変わってきている

一方、審査の中で感じる懸念もあると言います。

「『自分でゼロから考えること』ができなくなっているように感じます。ここ数年の傾向として、ネットで調べたものをそのまままとめてきたものが増え、自分の意見が抜け落ちているものが見受けられます。
検索や生成AIなどのツールにより、簡単に情報が手に入り、他者の意見を知ることができるようになりました。しかし、検索しただけの情報を集め、切り貼りしただけでは、自分で考える力は育ちません。
先が見えない世の中と言われ、思考力を育むことが求められる一方、自分で考えなくても情報が得られる便利な時代だからこそ、自分の力で考え、論拠をまとめる小論文を書くことは、考える力を育む重要な機会になるのではないかと思います。」


一過性のブームではなく、コンクールを通して環境意識を高めていきたい。

最後に、田中と一緒に事務局として携わる能登に現状の課題と今後の展望を聞きました。

「以前はSDGsという言葉がブームのように頻繁に使われていましたが、最近は、以前ほどはそのキーワードを聞かなくなったようにも感じます。ですが、環境問題は一過性のブームではなく、地球全体の大きな問題です。環境への意識を持ち、自分なりの視点で問題の解決策を考えられる人が一人でも増えるように、SDGsという言葉が生まれる前から続いてきた環境小論文コンクールをまずは続けていくことが大切だと感じています。」
「入試科目としても、小論文への注目が集まっていますが、小論文を書く力は自分で考え根拠を述べる土台があってこそのものです。何よりも、こうしたコンクールの機会を利用しながら、自分で考えて言語化する力を身につけてほしいと考えています」。

高校生が自らの思考力を伸ばし、環境に対する意識を高めていくきっかけになるよう、高校生環境小論文コンクールは続いていきます。


情報協力

  • 能登まゆみ
  • 田中万美子

株式会社ベネッセコーポレーション
高校生商品開発部
有料オプション教材「小論文特講」や、学校推薦型選抜・総合型選抜などの「推薦入試」対策教材の企画・編集を担当

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