近年、多様な人材を受け入れながら互いの個性や強みを活かすことを目指し、ダイバーシティを推進する企業が増えています。

高齢者向けホームを355拠点(2024年1月現在)運営するベネッセスタイルケアでは、介護職員の定着のため人事制度の改定を行うなど、多様な働き方への対応に力を入れているほか、性的多様性への理解を深める啓発活動や独自の管理職向け研修を実施しています。2023年度には、新たな動きとして、働きやすい職場とその風土づくりのため、介護現場で働く職員を対象としたLGBTQ(※1)ワークショップを実施しました。様々な気づきが生まれたワークショップを企画実施した担当者に話を聞きました。

※1)「Lesbian(レズビアン)」、「Gay(ゲイ)」、「Bisexual(バイセクシュアル)」、「Transgender(トランスジェンダー)」、「Queer(クィア)/Questioning(クエスチョニング)」の頭文字を取って名づけられた、幅広いセクシュアリティ(性のあり方)を総称する言葉。

hana by イメージナビ / PIXTA(ピクスタ)

多様性を認め合い、自分らしく生きられる社会にむけてDE&Iが重視されるように

少子高齢化で労働人口が減少する中、人材不足があらゆる業界で課題となっています。また、さまざまな考えや価値観を持った多様な人材が、個性や能力を十分に発揮し、活躍できる環境を目指すダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(=「DE&I」※2)の考え方が日本でも重要視されるようになっています。そして、DE&Iと共に、幅広い性のあり方を認めようとする社会の動きも活発化。2023年6月には、LGBT理解増進法(LGBT法)も成立し、企業でもそのための理解促進や制度改定などの動きが始まっています。

ベネッセグループで介護サービスを展開するベネッセスタイルケアは、ご高齢者お一人おひとりの「よく生きる」を支援する企業として、現場で働く一人ひとりについてもその個性や多様性を強みとして活かすことができるように取り組んできました。社会全体において、多様な価値観や個性をもつ人材が現場で活き活きと働き、活躍するためのDE&Iの重要性が年々高まるなかで、2023年11月から2024年1月にかけて、介護現場において自分たちで考え、働きやすさを意識した職場づくりのアクションとして、LGBTQのワークショップを複数回にわたり実施しました。

※2)ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの略。多様性と受容・包括のことを指す。性別や年齢、障がい、国籍、ライフスタイル、職歴、価値観など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちがお互いを認め合い、尊重しながらそれぞれのスキルや個性を活かして働ける環境をつくる考え方や取り組みのこと。


ワークショップは、介護現場で働くスタッフを中心に対話を交えながら開催された
(写真は有料老人ホーム「アリア宝塚」でのワークショップの様子)

誰しもアンコンシャスバイアスを持っていることに気づく機会に

ベネッセスタイルケアのLGBTQワークショップは、運営している高齢者向けホームの一角で、実際に日々介護サービスに従事するスタッフが集まり実施されました。


はじめに、ダイバーシティやウェルビーイングの考え方も込めながら新たに策定されたベネッセグループパーパスをみんなで確認し、ダイバーシティやLGBTQとはどんなことかを知っていきました。その後は、グループに分かれてそれぞれに 「日常生活や職場の中で性を感じるタイミング」について議論、さらに、「一人ひとりが働きやすい職場に変えるために必要なこと」を話し合っていきました。

介護の現場では、入浴介助などで「同性介助のニーズ」といった“性別”を意識する機会が多々ある。また「”男性は機械に強い“という役割を求められる」「男女でなんとなく仕事を分けていた」などの声があがった。

ワークショップが終わった後で、参加者からは「今まで一度もLGBTQについて考えたこともなかったが、考えてみると無意識に性別で区別していた」「男性だから、女性だから、こうあるべきと考えていた」「話し合いの中で性別に固定した役割を求め、逆に求められていることに気づいた」という声があがりました。

参加したことで、「無意識に“こうである”と思い込むアンコンシャスバイアス」を誰しも少なからず持っていること、「思い込みを捨てるためには対話が必要」ということに気づく機会になりました。

一人ひとりが活き活きと働く、風通しのいい風土づくりがサービスにもつながる

ベネッセスタイルケアで採用担当として働き、今回の研修ではファシリテーターを担っている十河優に、LGBTQワークショップに至るまでの思いや研修を重ねる中で感じたことを聞きました。

「子どもの頃の祖父との何気ない会話の中で『あなたは幸せだね、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒にいて・・・みんなが優しくしてくれるね』と言われ、当たり前の幸せに気づきました。“大人になったらおじいちゃんやおばあちゃん・・・もっと広くたくさんの人たちを守れる人になりたい”という思いにつながりました。振り返ると『介護業界』を目指すきっかけとなったと思います」

十河は、介護福祉士として介護現場で経験を積んだ後、「もっと介護の仕事の魅力をたくさんの人に伝えたい」と考えるようになり、採用に従事する傍らでグループのダイバーシティ推進担当にも手を挙げました。現在は、兼務をしながら社員向けの意識啓発の研修などを企画・推進しています。

「介護現場では様々な年齢、ライフスタイル、国籍等、多くの方が活躍しています。フルタイムでの働き方以外にも、短時間や、夜勤専従、直接的な介護でない職種など新しい働き方が業界全体で進んでいます」

「今回の研修では、そうした働く人の多様性を考えることや、知識としてLGBTQを知るだけでなく、自分の中にある無意識の思い込みに気づくきっかけになったという声をたくさんもらいました。そして、大切なこととして“相手の価値観を尊重したい”と参加者が話していたことがとても印象的でした」

「これまでの経験を振り返ると、働く中で物事がうまく進まないときの原因は、課題の難度よりも、実は人間関係、コミュニケーションが高い壁となっていることが多いのではないかと思います。常にチームで仕事をする中で、話しやすい風土、互いを認め合い、そこに独りよがりな思い込みはないか?相手はどのように考えているのだろうか?一人ひとりが意識することで、より風通しのいい環境がつくれ、それがひいては提供するサービスの向上につながっていくのではないか、と可能性を感じました」

今回のワークショップをきっかけとして「より風通しがよく働きやすい風土づくりにつながっていけば」と最後に今後の展望を話してくれました。

ベネッセスタイルケアでは、2023年に多様性、セクシュアル・マイノリティに関連する指標である「PRIDE指標」のゴールド認定を得ています。今後も、多様な人が活き活きと働き・活躍するための試行錯誤や取り組みは続いていきます。

情報協力

十河 優(そごう ゆう)

株式会社ベネッセスタイルケア 西日本・東海採用部 介護福祉士、社会福祉士を取得後、介護職として従事。並行して専門職大学院で実践の省察・概念化により福祉マネジメントの研究を深める。2016年株式会社ベネッセスタイルケアに入社後、人財育成部門の研修企画・運営に携わる。現在は採用担当を主務としながら、ベネッセホールディングスのサステナビリティ推進本部とを兼務している。