多様化に合わせた企業対応が求められる日本で、障がい者が活躍できる職場づくりに取り組む社員がいます。ベネッセビジネスメイト(※1)で指導員として働く、岡島智徳に聞きました。

ベネッセビジネスメイト 岡山メールサービス課 岡島智徳(おかじま とものり)

ベネッセビジネスメイト岡山事務所の指導員。事業所が開設された2006年より在籍し、メンバーから指導員へ。幼少の頃からさまざまな病気を経験するなど自らも障がいをもち、様々な困難に面してきたからこその温かいまなざしでメンバーを育成している。

※1 ベネッセビジネスメイト:働く意欲ある障がい者に対して、積極的に雇用の場を創出する目的で設立されたベネッセグループの特例子会社。

「頑張れば正社員になれるかもしれない」入社したものの、順調ではなかったこれまで

ベネッセビジネスメイト(以下、略称「BBM」)にメンバーの一人として入社する前は、スーパーでパートとして働いていました。しかし、残業が多いなど就業環境が厳しく、自由に休みを取ることも簡単ではありませんでした。当時、結婚を考えていて、生活を安定させたいと職業安定所に相談に行ったところ、紹介されたのがBBMです。「頑張れば正社員になれるかもしれない」という思いから入社しました。

わたしは、小学校2年生の時に腎臓の細胞が死んでいく稀な病気にかかりました。その後、16歳から今にいたるまでずっと透析をしています。以前は働きながらの通院にも苦労していましたが、BBMに入って初めて、透析のための通院に配慮してもらえました。

今でこそ本当に働きやすい環境にいると思いますが、決して順調だったわけではありません。一度は休職も経験しました。当時の上司や指導員とのコミュニケーションがうまく取れなかったのです。「もう二度と戻らない」と思い、ほかのところを探そうと、もう一度職業安定所に行きました。でも、職員の方に「あなたの職場環境は恵まれている。もう一度考え直したほうがいい」と説得され、サポートを受けながら職場に復帰する「リワークプログラム」を活用して復帰しました。


メンバーから指導員へ。実習生に過去の自分を重ね、「何か道はないか」を問い続ける日々

BBMに復帰後、紆余曲折を経ながらメンバーから指導員となりました。そして、2012年に岡山県の産業労働部長賞をいただきました。この賞は産業労働関係事業の推進のために貢献し、その功績が顕著である個人または団体を表彰するものだそうです。そんな賞に会社が私を推薦してくれたこと、そして県が私を選んでくれたことに、「これまでずっと頑張ってきたことが報われた」と思えて、本当にうれしかったことをよく覚えています。

しかし、そんなうれしいこともあった一方で、いつも苦しいと思うことがあります。BBMに来てくれた実習生が、仲間になってもらえない時です。すべての人に合う職場というのは難しいと、頭ではわかっているのですが、自分が正社員を夢見てBBMに来た時のように、「あの子もきっと夢を持っていたんじゃないか。何とかしてあげられなかったのか」と自分の力不足を痛感します。

この思いは私だけではありません。BBMの同僚や上司も、せっかく来てくれた実習生に、「無理」と言いたくない気持ちは同じです。何か道はないか、その人が幸せになる方法はないか、をいつもみんなで考えています。

2012年に岡山県の産業労働部長賞の授賞式で。「ご家族同伴でぜひ!」とのことで、恥ずかしいからいやだという妻を半ば強引に連れていったこともいい思い出。休みの日は、夫婦で映画に行ったり、買い物に行ったりと、二人の時間を大切にするように心がけている。

「当たり前の幸せ」に感謝して生きる。困難を乗り越え、前に進もうとする人の道筋をつくっていきたい

子どものころからいつも命の危機が傍にありました。最近でも血圧の調節がうまくできず入院しましたし、過去には心臓も手術しています。だからこそ、朝起きて、見送ってもらって、仕事して、帰ってきて、夜ご飯を食べながら今日起こったことを妻と話す。そんな日々の生活が何より幸せです。普段の「当たり前」の生活は明日もあるとは限らない。だからこそ、今ある「当たり前」の幸せにいつも感謝して生きることが私の思う「よく生きる」です。

障がいがあって、実習からスタートし、指導員になったメンバーは、今の事業部で私しかいません。でも実際には障がいを持ちながらも、能力が高いメンバーがたくさんいます。指導をする中で「もっとできる、育ってほしい」という気持ちと、自分がつらかった時の気持ちがせめぎあい、バランスが難しいと思う日々ですが、彼、彼女らが困難を乗り越えて指導員になっていく道筋をいっしょに作ることが私の夢です。

そしてもう一つ。私は片目が見えないのですが、亡くなった両親は「自分が生きている限りは見えない目の代わりになる。でもいなくなった後はどうするの…?」とずっと心配していました。BBMに見学にいらっしゃる親御さんはみなさん同じ思いを抱えています。そんな親御さんたちの不安を安心に変える会社をつくりたい、そう思いながらこの仕事をしていきたいと思います。

さまざまな困難を自ら乗り越えてきたらからこその強さと優しさで、岡島は今日もメンバーの指導を続けています。

※本記事は、ベネッセグループ社内サイトに掲載された「Benesse Mind」(2018年12月号)の記事を元に再構成したもので、所属・写真は取材時のものです。