高齢化が進み、人生100年時代を生きる人のためのヘルスリテラシー(健康知識を得て活用する力)が注目される中で、新たな健康教育プログラムの開発・実証に取り組む社員がいます。これまで培った学びのノウハウを活かし、健康という分野での挑戦を続ける吉田富美子に聞きました。

ベネッセコーポレーション 事業戦略本部/ベネッセスタイルケア シニア・介護研究所
吉田 富美子(よしだ ふみこ)

ダイレクトな反応に気づきや学びを得ながら、新しいサービスの立ち上げを次々と経験

ベネッセに入社して、まずは<こどもちゃれんじ・ぽけっと>のサービス立ち上げに関わりました。取材にヒアリング、毎月の教材制作に…と奔走し、本当に忙しい毎日でしたが、「自分たちで新しい商品をつくっていこう」という気合いを皆がもっていましたし、「ああ、子どもたちって、こんなにダイレクトに反応してくれるんだ!」という発見や気づきが多く、とても勉強になりました。毎月、教材アンケートを実施し分析、次の教材に生かすというサイクルを続けていきながら、商品やお客さまに本当に真剣に向き合っている―そう感じたのがこの時の<こどもちゃれんじ>での体験です。

その後は、<ベネッセこども英語教室>や<コラショのえいごコース>など英語事業の立ち上げ、大人向け英語プログラムのコンテンツ開発、そして「ベネッセチャンネル」で番組プロデュースを担当するなど、それまでに社内事例がないような新しい仕事に次々と携わってきましたが、<こどもちゃれんじ>で経験した、“お客さまを見て課題を見つける→カリキュラムやコンテンツをつくる”という一連の流れが、その後の新しい商品やサービスをつくるときにもずっと活きているように感じます。

これまでの仕事の中でうれしかったことは、多々ありますが「コラショのえいごコース」を立ち上げた時にお客さまからいただいた「心意気が伝わった!」という言葉は、思いを込めてつくったものがちゃんと届いた、と感激しました。それから、東大の研究チームと共同で大人向けの英語学習プログラム(ポッドキャストで当時、スティーブ・ジョブズのコンテンツを抑えて1位に!)を開発したとき。それまで、日本の英語教材には「そんな場面、実際にはないよね」と違和感があったのですが、「これまでにない教材をつくろう」と、実際の仕事の場面を徹底的にヒアリング、使用頻度順にシラバスをつくって…皆で試行錯誤しながら完成させました。そのときのプロジェクト・メンバーの東大の研究チームのかたから「こんなふうにイメージを形にしてもらえたのは初めてです」と言っていただいたことも印象的でした。お客さまを見て考えて、使う人だけでなく、つくる人も含めて皆が満足するものを生み出す、それができたときになによりの喜びを感じます。


迷った時は「お客さまの方を向いて」 実際に見て、聞いて、考えることで道がひらき、答えがでる

仕事をしていて苦しいと感じるのは、自分の仕事が「(お客さまにとって)どんな意味があるのか」確信がもてないとき。どちらかというと考えすぎるタイプで、そんな時、昔はよくジタバタしていましたが、今は“時がくるのを待つ”、それから“アプローチを変える”ようにして乗り越えています。

迷った時の判断の軸は、「お客さまの方を向いて」いるかどうか。仕事をしていると色々なことがありますが、そんな時こそ、お客さまの方を向いて、どう価値があるのか?を改めて問い直す。そして、迷ったときは実際に足を運んだり、お客さまの姿や行動を具体的にイメージすることを大事にしています。じっと観察することで課題が見えたり、アイデアが生まれたり…道がひらいて答えが見つかることがこれまでたくさんありました。

現在は、子どもから社会人、シニアを対象としたヘルスケアや健康教育をテーマにした研究開発に携わっていますが、このテーマでも実際に“人”に会ってみると見えてくるものがあります。デジタルと組み合わせたヘルスケアはとても注目されているものの、現場に行くと、健康に関心があるアクティブシニア世代のかたや学校現場などは、実際にはデジタルとは距離があることに気づかされました。もちろんデジタルは将来的に外せないですし、内容によって反応も変化し、大人の皆さんが「やってみたい!」と目を輝かせる姿も目にしましたが、第一弾として、「健康」という身近なテーマをいつもそばに置いておいてほしい―そう考えてつくったのが「健康の教科書」という書籍です。

人生100年時代を生きる人のためのヘルスリテラシー(健康知識を得て活用する力)を高めるための「健康の教科書」。2016年からの弘前大学COI(※)にベネッセは<学び×ヘルスケア>という視点をもって参画し、参加大学・企業と連携して健康教育の実証実験やプログラムを創出。実証の結果を受けて、弘前大学COIに参画している関連企業の協力を得て2020年8月に書籍を発刊した。
※弘前大学COI:青森県の<平均寿命:全国最下位>からの脱却をめざして、文部科学省のセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムとして採択され、国内大手ヘルスケア産業を含む60以上の企業や大学、研究機関と連携して、「疾病予兆法の開発」「予兆された因子に基づく予防法の開発」に取り組む。*第一回「日本オープンイノベーション大賞」内閣総理大臣賞受賞

ヘルスリテラシーを日本にも。新しい健康教育のプログラムを届けたい

私にとっての「よく生きる」は、よく考えること。よく考えると学ぶべきことが見えてきます。それを表現し、誰かに伝える…そのサイクルをつくることが、誰かのうれしい、という声につながり、それがこれまでの自分自身のモチベーションにもつながってきました。

今携わっているヘルスケア(特に未病・予防市場)は「将来有望」と長年言われ続けていますが、成功モデルはまだ確立されていません。でも、ベネッセならば、これまでの学びのノウハウをいかして少子高齢化の社会の中で、健康という分野でも何かができるのではないか…そう考えて取り組んできました。

海外ではヘルスリテラシーを授業として取り入れたり、医療費削減のためにヘルスリテラシーを身につけることが重要とされています。日本ではまだまだその機会が少ないのが現実です。でも、「健康」こそ、すべての人のライフプランのベースになるとても大切なものだと思います。先日、日本一の長寿の女性が「趣味は勉強」とお話しされているシーンを見ました。年齢を重ねても、たとえ病気があっても、健康は体の状態だけではなく、心の持ち方や生きがいを含めたものだと改めて感じます。

今後の夢は、一人ひとりが自己肯定感をもって明るい未来を描けるように、働き盛りの30~40代や、もっと小さいうちから、「健康」を保つための知識を蓄える教育の普及に貢献したいと考えています。外からの押し付けではなく、自発的に意欲をもって取り組める、そんな新しい健康教育のプログラムを、これからもつくり、届けていきたいと思います。

※本記事は、ベネッセグループ社内サイトに掲載された「Benesse Mind」(2021年1月号)の記事を元に再構成したもので、所属・写真は取材時のものです。