意識すべきはスコアではなくCan do
CEFRを軸としたカリキュラムで学生の成長実感を向上させる

甲南女子大学
国際学部 国際英語学科 教授
梅原 大輔 先生

学校情報

甲南女子大学(兵庫県/私立)

  • 設立年:1964(昭和39)年
  • 学部:文学学部、人間科学部、看護リハビリテーション学部、医療栄養学部、国際学部
  • 学生数:約4.1千人

ポイント

  • 学習の習熟度を測る指標としてCEFRを活用。学生にCan-doを意識させ、「何ができるようになったか」「何ができるようになりたいか」を考えさせる。
  • CEFRレベルの到達度を測るアセスメントテストとして「GTEC」Academicを導入。
  • 各学期末にアセスメントテストを実施し、成長実感を継続的に刺激する。
  • アセスメントテストを2技能から4技能に変更したことで、各技能に対応した科目のクラス分けの精度が向上。個々の学生の能力にマッチした教育&サポートが可能に。

I.大学の紹介

甲南女子大学は1920年に創立された甲南高等女学校を原点とする、兵庫県の私立大学。国際学部、文学部、人間科学部、看護リハビリテーション学部、医療栄養学部の5学部を抱える。教育方針の一つとして「自学創造」を掲げ、学生が自ら進んで学ぶ姿勢を重んじ、その姿勢を育むことに注力している。
今回取り上げるのは、国際学部国際英語学科の取り組み。開学100周年目である2020年に文学部英語文化学科を発展させる形で誕生した、新しい学部・学科だ。新たな英語プログラム「e-pro」を整備し、「英語チュータリング」や「Study Log」といった種々の仕組みを通じて、学生の自学創造を支援している。「GTEC」Academicは、卒業要件、及び学習の習熟度の指標として取り入れられているCEFRを測るために導入された。
その背景や今後の取り組みについて、同学部教授の梅原大輔先生にお話を伺った。

甲南女子大学キャンパス全景

Ⅱ.取り組みに至った背景

国際英語学科の設立が検討され始めたのは2017年。既に当時の英語文化学科では、アセスメントテストの結果を使い、習熟度の評価だけでなく、CEFRを学生に意識させようとする取り組みが行われていた。
「入学してくる学生の英語力には当然個人差があります。そのため初年次は英語の習熟度に合わせて個別の科目を設置し、学内で実施するTOEICの結果によって次年度のクラスの振り分けを行っていました。
並行してCEFRに関する取り組みも進めていました。例えば『English Learning Passport』というノートの配布もその一つです。CEFRのCan-doをまとめたノートで、今の自分の立ち位置を確認しながら、学習の履歴や教員からのアドバイスを記入することを期待して配布しました」(国際英語学科 梅原大輔教授)
しかし、実施していたプレイスメントテストやTOEICはListeningとReadingのみ。Can-doを示しても、SpeakingとWritingの立ち位置はわからない。しかも学生の多くはTOEICのスコアばかりを意識してしまい、CEFRという4技能を軸にした概念に目を向ける者は少なかったそうだ。
「スコアを上げることはもちろん大切ですが、そのスコアが何を意味しているのか、理解できる学生は多くありません。だからCEFRのCan-doで『何ができるようになったか』を意識してほしかったのです」(梅原教授)
新学科への移行に向けてこの課題をどう解決するか考えている折に、4技能版の「GTEC」Academic の情報を聞き、興味を持たれたそうだ。学生の意識をCEFRに向けさせるためにも、まずは4技能でアセスメントを行うことが必須。TOEICよりも問題の難度が学生層にマッチしており、かつ費用的にも実施しやすかったことから、新学科の設立に合わせてTOEICから「GTEC」Academicへと切り替える判断をされた。
学生とアセスメントテストの相性は実施してみなければわからない。そのため本格的な導入の前に、一部の学生に試験的に「GTEC」Academicを受検してもらったという。受検対象は1年生ゼミの受講者20名と、3・4年生の発展クラスの受講者10名。学科新設の1年前、2019年に試験が行われた。受検結果を見て、思った以上に能力の識別度が高いことに驚いたそうだ。技能別に細かく数値が示され、個々人の能力の違いがわかりやすい。こうした手応えのもと、新学科では全学生に受検させることが決定された。

Ⅲ.取り組み内容

2020年度のアセスメントテストは、まず入学前の新入生を対象に実施された。受検場所は自宅だ。折しもコロナウイルス感染症が流行の最中、他学部・他学科がプレイスメントテストを断念したのに対し、入学前に自宅で受検させられたことは大きな幸運だった。また、2技能から4技能へと試験が変わったことで、より精度が高い、細かなクラス分けも可能になった。
今回の実施で、トライアルでも感じていた学生の傾向が、より正確かつ詳細に把握できたという。
「まだ二度の実施ではありますが、Readingのスコアと全体のスコアに相関が見られると考えています。つまり、Readingのスコアが低い学生は他の技能のスコアも低いということです。加えて1年生ということで、全体的にSpeakingのスコアが低い。こうした傾向がわかってくると、学科全体の指導も個別の指導もより充実していくでしょう」(梅原先生)
入学前に加えて、2年生の後期までは各学期末に全学生が「GTEC」Academicを受検することになっている。またそれ以降も、必要な学生に対して「GTEC」Academicを指標とするしくみが作られている。(図1参照)
「私たちが学生に期待することは、『何ができるようになったのか』を知り、『これから何ができるようになりたいのか』を自分で考えることです。そのためにCan-doとセットでCEFRを見てほしい。しかしCEFRのレベルを知るには何らかのアセスメントテストを受ける必要がある。だから「GTEC」Academicを実施しているのです。あくまで、「GTEC」Academic はCEFRのレベルを客観的に知るためのツールです。B1レベルに達することを卒業要件と定めていますが、そこがゴールになるわけではありません。4年間かけてではなく、早くB1に到達してさらに上のレベルを目指すよう学生にも促しています」(梅原教授)
「何ができるようになりたいか」を学生に考えさせるためのサポートは、授業の内外に組み込まれている。例えば前述のEnglish Learning Passportや、「Study Log」がそうだ。Study Logは主に1年次の必修ゼミで用いるノート。英語をどう学んだのかを記録し、教員に提出してフィードバックをもらう。これにより、大学での学習の習慣がつき、今後どのように学んでいくのか自律的に考える力がつく。
そのほか、英語の学習法をグループで考える必修科目「英語チュータリング」や、英語学習に特化したラーニング・コモンズ「e-space」など、形を問わず、様々な方法で学生を支援する仕組みがある。従来課題だった、CEFRを指標にして自律的に学ぶ学生も今後増えていくだろう。

【図1】「GTEC」Academicを指標とするしくみ

「GTEC」Academicを指標とするしくみ

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Ⅳ.今後の展望

2020年度前期末の「GTEC」が終わり、入学前の「GTEC」結果との比較を行ったところ、予想以上に学生の英語力が向上していた。コロナウイルスの影響で授業が遠隔授業になったにも関わらず、だ。
「もともとオンライン英会話を含んだ授業を始める予定で、ある程度準備ができていたことも大きいと思います。また、プレイスメントテストで期待通りに細かなクラス分けができた点も影響したでしょう。いずれにせよ、このタイミングで「GTEC」Academicを導入し、思わぬ形でコロナ禍での授業の効果検証ができたことはよい収穫でした」(梅原教授)
入学前及び学期末の試験として、今後も「GTEC」Academicは継続して活用していく予定になっている。また、学内の受検データが集まってくれば、カリキュラムや教員の指導の改善にもつながっていくだろう。
「英語の教員であれば、誰でも2技能ではなく、4技能で評価したいと思うものです。本学のような中堅大学は特にですが、学生のスキルは多様で、だからこそ個別に寄り添い、伸ばしていく必要があります。今回の導入で、それは一定の成果を挙げました。今後もアセスメントテストやCEFRにもとづく取り組みを続け、一人ひとりの学生が自分で目標を設定し、成長していけるよう働きかけたいですね」(梅原教授)

お話を伺った方

国際学部 国際英語学科 教授 梅原 大輔 教授