大学は社会に羽ばたくための場所
学生の“これまで”と“これから”を想って
4技能教育にこだわり続ける

朝日大学
経営学部/英語教育センター 教授
亀谷 みゆき 先生

学校情報

朝日大学(岐阜県/私立)

  • 設立年:1971(昭和46)年
  • 学部:法学部、経営学部、保健医療学部、歯学部
  • 学生数:約2.3千人

ポイント

  • 初等中等教育と高等教育の接続に注目し、統一シラバス・教科書を導入して、同じタイミングで検証ツール「GTEC」Academicを導入。
  • 2019年から2020年の「GTEC」Academicの受検結果では、「CEFR A2」レベルが20%増加。その背景には学生の自律を促す授業づくりと、適切な中間指導にあった。
  • 社会に出てから生きる英語を身につけるには、4技能教育が必須。客観的な外部テストによる分析から教育効果を高めていく予定。

I.大学の紹介

朝日大学は岐阜県の私立大学。2021年度現在は法学部、経営学部、保健医療学部、歯学部の4学部5学科で構成されている。建学の精神に「国際未来社会を切り開く社会性と創造性、そして、人類普遍の人間的知性に富む人間を育成する」を掲げ、各学年での英語教育や国際交流プログラムの充実に力を入れている。
今回取材したのは、経営学部/英語教育センター教授の亀谷みゆき先生。2017年の着任以来、学内の英語教育改革の旗振り役を担っている。今回の取材では、4技能教育の必要性や、「GTEC」Academicで学生のスコアが向上した理由について語っていただいた。

朝日大学キャンパス

Ⅱ.取り組みに至った背景

朝日大学は2019年度から英語カリキュラム改革をおこなっている。その背景にある“社会で生きる英語力の育成”について、英語教育センターの亀谷みゆき先生は次のように語る。
「本学は外国語学部や国際学部こそ設けていませんが、『国際未来社会を切り開く社会性と創造性、そして、人類普遍の人間的知性に富む人間を育成する』という理念を建学の精神として掲げ、教養としての英語教育に力を入れています。ここでいう「教養としての英語」とは、専門的な言語学や音声学ではなく、高校までに学習した英語を引き継ぎ、大学卒業後に社会に出て生かせる英語力のことです。授業設計もこの考えにもとづいていて、英語4技能の育成を重視しています。」
亀谷先生の着任は2017年。着任してすぐに教養教育開発室が設置され、学内の英語教育に関する論文を室員でまとめて全学に広めた。さらに、英語教育センターが設立されてからは統一シラバスと統一教科書、新たなアセスメントテストの検討を開始。2019年度から、統一シラバスと統一教科書で授業を行い、その成果を検証するために試験的に「GTEC」Academicでアセスメントしている。
統一シラバス、統一教科書でのカリキュラム変更に加え、アセスメントツールの変更も同時に行った理由について、教えていただいた。
「一つは教育成果の可視化です。当時導入していたのは2技能のアセスメントテストのみで、我々が掲げる4技能の育成とは矛盾したものでした。二つめは授業の質保証です。当時は教員ごとに指導内容も教科書もばらばらでした。学生に自身の英語力が社会でどの程度通用するのかを知り、その上で学びに向かってもらうために、また教員が足並みをそろえて客観的に授業の質を振り返るために、アセスメントテストの導入が必要でした」(経営学部/英語教育センター 亀谷 みゆき教授)
「「GTEC」Academicを選んだ最大の理由は、初等中等教育と高等教育の接続がよく考えられたテストデザインだったからです。高校までに学習する内容と連携して問題が構成されていますから、例えばビジネスの知識や時事問題の知識が壁となって解答につまずくことがありません。加えて、受検者の能力に応じて問題が変わる点も魅力でした。本学には「英語が苦手」「学びの速度がゆっくり」な学生もいます。そうした学生たちが大学に入学してから熱心に英語の学習に取り組み、身についた力を確かめることで達成感を得られる可能性があると感じました。何より、学生を社会へ送り出す支援をしていく本学の教育方針にも適していました。」

Ⅲ.スコアの分析

2019年度に初めて「GTEC」Academicを導入した結果、クラスごとのスコア分布に差があることが判明した。これは教員によって授業の力点が異なることが影響していると考えられたため、教員間の「指導・育成のムラ」をなくすことで英語教育の向上を目指すきっかけとなった。
2019年度、2020年度の「GTEC」Academicのスコア傾向には変化が生まれた。1年生秋の時点で「CEFR A2」レベルの学生数が20%増加(A1が20%減少)したこと、学生の英語力をさらに詳細に評価する「Skill Profile」について、Speaking/Writingにおける「Goal Achievement」の分布が向上したことだ。(図1、2)「Goal Achievement」とは設問の問いかけに正しく応じているか、自分の話す英語が英語話者にどれだけ通じたかを評価する「GTEC」Academicの独自の基準である「Skill Profile」の一つ。亀谷先生は取材の中で、「①学生が“英語で表現したい”と思うモチベーションを高める」「②内容と言語の正確さを交互に意識させる」ことがポイントになっているだろうと話してくれた。
「まず①についてですが、私は学生自身に成功体験を積ませることこそ重要だと考えています。そのために、授業全体はもちろん、毎回の授業についてもCan-Doを学生に共有しています。今何ができるようになるために勉強していて、この単元が終わると何ができるようになるかを自覚して初めて『うまく表現できた』『できるようになった』と思えるからです。例えば、授業で習ったことを使ってTwitterやInstagramに投稿する際のハッシュタグ等を表現する方法を教えることがあります。学生たちにとって、SNS等のデジタルツールは英語を活用する身近なツールの一つであり、その反応が世界中から返ってくる体験を通して「英語で表現する」「よりよい表現方法を考える」や「英語を使って世界とつながる」楽しさを感じてもらいたいと考えています。また発音や文法など、言語的な正確さはいったん置いて、学生が表現したその内容に必ず寄り添います。今の学生たちは時代のせいもあって、英語力が今後必要になるとよく理解しています。だから本当は話せるようになりたいと思っているし、話したいこともあるはずです。表現が拙かったとしても、努力して表現したことを褒めてあげれば、次はもっとうまくやろうと前向きになってくれるのです。」
「単語一つわからないだけで学生はよく思考を放棄してしまいますが、①の過程を通して、知っていることをフル活用して表現しようとする姿勢を持つようになります。そして表現した内容を褒めつつ、この単語や表現を使うともっとうまく表現できると指導します。こうして徐々に英語の語彙も文法も身につき、表現の幅が広がっていきます。②の『内容と言語の正確さを交互に意識させる』はこうした意味です」
なお、2019年に統一した教科書はすべての学年で海外出版社のテキストを使用している。個々の教員が個別に目標設定をしなくてすむよう、いずれも単元ごとのCan-Doが明記されているものを選んだそうだ。また亀谷先生は模範例を示すとき、必ず教科書の単元に載っている語彙を使用して学生に活用の気づきを与えている。こうした積み重ねも、学生が表現に対して前向きにある要因となっているのだろう。

【図1】「CEFR」分布

「CEFR」分布

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【図2】「Goal Achievement」分布

「Goal Achievement」分布

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Ⅳ.今後の展望

亀谷先生は今後の展望として、引き続き「GTEC」Academicを使って授業改善を広げていきたいと話した。
「「GTEC」Academicの出題は背景知識が必要でない分、授業の質が直接的にスコアに表れます。本学の建学の精神は『国際未来社会を切り開く社会性と創造性』です。英語を“使える”ようになることがとても重要で、そのために客観的な外部テストの結果を分析しながら、授業改善を進めていく必要があります。また、英語教育センターの教員で設計した授業の成果として、学生の成長が数値で見られたのは素直に嬉しい気持ちになりました。オンライン授業を始めてから学生の状態を把握することが困難でしたが、授業や課題の設計を綿密にしながらも微調整を続けてきたことが結果として表れて自信につながりました。」
最後に、大学の英語教育が4技能であるべき意義についてもお話いただいた。「今社会で求められている英語力は、英語を共通言語として他者と協働し、情報を取捨選択しながら最適解を求めていく力だと私は思います。だからこそ、インプットだけでなく、アウトプットを含めた4技能の力を育てるべきであり、初等中等教育から継続して保証していく必要があると考えています。そして、学生が自律した学修者となるためには、英語のユーザーとして自分がどのような位置にいるのか、英語で何ができるのかを客観的に把握することが必要なのです。大学としては、そうした学びを提供する意味はとても大きなものだと思います。」

お話を伺った方

経営学部 教授/英語教育センター 副センター長 亀谷 みゆき 先生