セミナーレポート 2022-12-26

自分らしい選択で「働く=幸せ」に Z世代と考えるこれからの働き方

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この記事では、ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長の小村俊平氏とZ世代のイノベーター3人の対話から、サステナブル・ブランド国際会議2022横浜で行われたセッション「Z世代との対話から考える、これからの時代のWell-being」の内容を中心に、ウェルビーイングな“働き方”について考察していく。

※本記事は、セッションの内容に小村氏への単独取材内容を加えて編集したものです。肩書などは取材当時のものです。

Z世代はなぜ社会問題にコミットできるのか

久保氏は岡山大学大学院に所属しながら株式会社ABABAのCEOを務め、江連氏も津田塾大学在学中に株式会社Essayを起業した(現在は休学中)。学生起業家の二人が取り組む事業内容や“働くこと”への意識から、まずはZ世代の仕事観を探っていきたい。

左からベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンター長 小村俊平氏、郁文館グローバル高校3年生 平田正英氏、株式会社Essay代表取締役社長 江連千佳氏、株式会社ABABA CEO久保駿貴氏

久保氏「私の会社、株式会社ABABAでは、最終面接で不採用となってしまった学生を他社に“推薦”し、その学生の今後を応援するスカウト型の求人プラットフォームを提供しています。起業したきっかけは、大学時代の友人がある企業の最終面接で落ちてしまったこと。『一生をささげる』とまで言っていた企業のことが嫌いになった上、彼はその後、うつ病にもなりました」

久保氏によれば、就職活動の最終選考に落ちることで、同選考にかけた平均12時間が無駄になるという。新卒一括採用が主流となっている日本の就職活動では、精神的に追い詰められる学生が多く、7人に1人が就活うつを発症し、年間で約200人が就活失敗を理由に自殺しているともいわれている。日本の次世代を担う人材が失われる重大な社会問題だ。

久保氏「こうした現状を改善するために、最終面接に落ちた際の『お祈りメール※』を、次の就活のチケットとして使えるサービスを思いつきました。落ちても救ってくれる会社があるというセーフネットがあれば、学生たちはもっと安定したメンタルで就活に臨めるはずです」

※就職活動で選考を受けた企業から送られる不採用通知。文章の末尾に「今後のご活躍をお祈り申し上げます。」という表現が多く使用されることから「お祈りメール」と呼ばれる。

小村氏「身近な友人がきっかけで、就活うつという社会課題に関心を持ち、解決の手段として起業をされたんですね。江連さんはいかがでしょう」

江連氏「私はI _ for MEというブランドから、『おかえりショーツ』というデリケートゾーンに優しい部屋着型のショーツを販売しています。きっかけは、『パンツから毛がはみ出して彼氏に嫌われちゃう……』という内容の動画広告に対して、『なぜ自分たちが毛を剃らないといけないのか、パンツの方が大きくなれよ』と憤りを感じたこと。この感情を深掘りしようと、周囲の女性に話を聞いてみたんです。すると、従来の小さなショーツへのさまざまな悩みが見えてきました」

このブランド名には、「自分が自分のために生きる」という思いが込められている。単に女性向けのアイテムを取り扱うのではなく、“タブー感”から顕在化してこなかった女性特有の悩みを「プロダクト」として実装し、問題提起していくことが目的なのだ。

身近な事象から社会の潜在的な問題を発見し、事業という形でアプローチする。Z世代の仕事には、自分のことだけではなく他者の幸せを考える利他的な行動が備わっていることが、二人のエピソードから見えてくる。

自分軸の仕事選びで「働く=幸せ」に

では、Z世代のイノベーターたちは、どのように仕事にウェルビーイングを見いだすのだろうか。ベネッセ教育総合研究所は2022年2月、立教大学中原淳教授・パーソル総合研究所とともに産学連携研究として実施した、「若年社会人の『幸せな活躍』」に関する定量調査の結果を公表した。同調査では、幸せ実感とジョブ・パフォーマンスの両方が高い「幸せな活躍」を実現する人の傾向を分析。 “幸せ”と“活躍”の両立には、学びや働き方の志向性が大きく影響することが分かったが、今回登壇した3人にとっての仕事で喜びを感じる瞬間についても見ていこう。

小村氏「今日のセッションテーマはウェルビーイング。皆さんにとって、“よく生きる”というのはどういう状態なのか聞かせてください」

久保氏「私は起業してから、衣食住以外はずっと仕事というような生活を続けていますが、毎日幸せを感じながら働いています。自分のつくったサービスが誰かの喜びとなって使ってもらえること以上に、うれしい体験はありません」

江連氏「私もユーザーの方から『おかえりショーツがタンスに入っているとうれしい』という言葉をもらったときが、すごくうれしかったですね。自分のプロダクトが誰かの日々の幸せにつながっているのだということを知ったとき、本当に起業して良かったと思いました」

平田氏「私は学生なのでまだ働いてはいませんが、自分がワクワクすること、誇れることに取り組んでいる状態が幸せだと感じます。そして、自分が誇れることをやっていれば、それが共感を生み、仲間が増えていく。その連鎖を拡大していくことができれば、より大きなやりがいにつながると思います」

自身の問題意識が事業スタートや行動の起点となっていて、社会にサービスを届けることやユーザー、他者の喜びがそのまま自身の喜びにつながっているのだ。

そして、事業のスケールに関しても、拡大だけに重きを置かないZ世代独特の感覚が伺えた。

久保氏「株式会社を経営している以上、周りの人を幸せにしながら対価としてお金をいただき事業もスケールさせていかなければなりません。そのために、これからは『どんな人をどう巻き込んでいくか』ということも考えていきたいです」

江連氏「私は『事業をスケールさせていかなければ』と思う一方で、『株式会社という形で事業運営することが、社会課題の解決につながるのだろうか』と常に自問自答している気がします。特にジェンダーの問題を扱う上では、資本主義の原理にのっとること自体が加害性を孕むのかもしれないと悩む時もあります」

ビジネスの世界ではまだまだ売上利益の追求、拡大主義が主流だ。しかし、Z世代は拡大すなわち成長と捉えていないようだ。

小村氏「社会課題の解決を目標とした事業にとっては、拡大というよりも適正な規模感が大切なのでしょう。それがサステナブルにサービスを提供していくことにつながるのかもしれませんね。これからは社会に対して良いインパクトを与えられている、顧客の役に立っているという実感も、事業成長の指標になり得るのかもしれません」

活躍するZ世代が思い描く、10年、20年後の未来とは?

拡大主義とは異なる成長指標を模索するイノベーターたち。彼らの志向は、サステナブルな経営を目指す多くの企業にもヒントを与えるだろう。三人は、10年、20年後の未来をどのように思い描いているのだろうか。

江連氏「目の前にある課題や面白いことに取り組んでいきたい思いはあるのですが、生きているうちに達成したい目標を特に決めてはいません。ただ、『死後に伝記で語り継がれたい』という夢はあります。そう考えると、『自分の人生の証しとして次世代の女の子たちの背中を押せるような生き方をする』ことがもしかしたら自分にとっての目標ともいえるかもしれません」

久保氏「私は世の中のためになるプロダクトを提供する起業家でありたいですね。例えば、教育格差を解決できるようなシステムをつくりたいという思いがあります。ABABAを大きくすることも大きな使命の一つですが、それだけにとらわれずビジネスを通して世の中を良くしていきたいです」

平田氏「まだ大学にも入っていないのでなかなか難しいですが、『自分が楽しめる人生を歩めていたらいい』とは思います。『死ぬときに後悔しない人生』を目指したいです」

思い描く将来像はそれぞれだが、“自身の興味関心”が軸となっているのは3人とも同様である。そして、すでに起業家として社会に出ている江連氏と久保氏は、サービスやプロダクトという形で、社会課題の解決に取り組み続けていきたいと考えているようだ。

今でこそSDGsへの貢献やCSR活動に力を入れる企業は少なくないが、Z世代の社会への参画に伴い、これからはより自然な流れで社会問題解決に取り組む企業や事業者が増えていくのかもしれない。そうすれば、ビジネスの中に“幸せ”を見いだし、より多くのビジネスパーソンが幸せな活躍を実現できるようになるのではないだろうか。

半径5m起点の社会貢献が“みんなの幸せ”をつくる

今回のイベントレポートでは、ウェルビーイングと学び・働き方の関係について探ってきた。最後に、小村氏の分析やパネラーの意見とともに、どうすれば誰もがウェルビーイングを実現できるようになるのか考えてみたい。

小村氏「ウェルビーイングの定義は一つではありませんが、根本にあるのは“自分で選択できること”。なおかつ、その選択によって自分や自分を取り巻く社会をより良くできるという期待感です。相手の不幸せが自分の幸せになるというゼロサム的な考え方ではなく、みんなが幸せになるというプラスサム的な考え方が大事だと思います」

江連氏「自分のためでも誰かのためでもなく、自分が見つけた課題を突き詰めていった結果、誰かの役に立っていたという感覚はありますね。ただし、元から社会問題を解決しようとしていたわけではありません。あくまで『自分自身や半径5m以内にいる人たちを幸せにしたい』というのが最初の動機です。そして『自分や身近な人たちを無視して社会を幸せにすることはできない』と思っています」

久保氏「当社の社訓は『隣人を助けよ、自分事であれ』。一括りにはできませんが、我々の世代は『まずギブをする』という考えの人が多い。ビジネスといえど、周りの人を幸せにしてお金をいただくことが本質なのではないでしょうか。

だから私は、後輩から就活の相談を受けると『1%でもいいから、やりがいを感じられる企業に行ってほしい』と伝えます。一方、年収を重視して就職した同期からは、『給料はいいけど全く面白くないから、転職しようかと思う』という相談がくる。仕事に求めるものも、変わりつつあるのでしょう」

これからの時代のウェルビーイングを考え、実践へとつなげる

Z世代のウェルビーイング観を聞いた後、最後に小村氏に話を聞いた。

「3人の共通点は、初めから社会貢献をすると外側から目的を設けるのではなく、自分から身の回りの人へ、自然と輪のようにウェルビーイングを広げていることでした。『コレクティブウェルビーイング』という言葉もありますが、IからWeへ、『私のウェルビーイング』から『私たちのウェルビーイング』へと、求める姿も変化しているのでしょう。『活躍と幸せも、ビジネスと社会貢献も、“どちらか”ではなくて同時に実現しないと意味がない』というメッセージを受け取った気がします」

競争によって世の中が良くなる、勝てば幸せになれるという価値観を無邪気に信じない世代だからこそ、他者との相対評価ではなく自分軸の絶対評価で幸せを見いだせるのだろう。

そして、より広いウェルビーイングの実現を目指すためには、“学び”という観点もまた欠かせない。学生自身の興味関心を尊重し、多様性を伸ばすような教育がもっと普及すれば、幸せな活躍をする社会人も増えていくはずである。

夢中になれることは何なのか――自分に問いかけてみることが、ウェルビーイング実現への第一歩となるかもしれません。

2022.3.28 AMP掲載記事より転載)