Benesse 「よく生きる」

EPISODE 人と社会の
「Benesse(よく生きる)」
をめざして

ICT学習の開発で発達特性に合う「個別最適な学び」を提案する「まるぐランド for School」
社会課題学校教育小学生学習障がい

ベネッセコーポレーション
ビジネスアクセラレーター部
阿部健二(中央)、有田佳那子(右)、細金志保(左)

いま、小学校の通常級では支援や配慮を必要とする児童が増えていると言われ、同時に先生の数の不足が課題となっています。困りごとを抱えていても気づかれない、個別に対応したくても手が回らない。そんな状況を変えようと生まれたのが、ベネッセのICT学習サービス「まるぐランドfor School」です。発達特性を把握し、それぞれに合う教材と学び方の仕組みを提供できれば、その子の未来への可能性は大きく広がるはずと、専門家や自治体の協力を得ながら事業化に向けた実証試験が進んでいます。「すべての子どもに学ぶ喜びを届けたい」という強い思いで取り組む開発メンバーに、話を聞きました。

デジタルを活用し、本人も先生も気づけなかった
読み書きの困りの背景を見つけ、特性に合う学び方を提供する

「まるぐランド」の開発を始めたきっかけは?
阿部
私が「進研ゼミ」コンテンツのデジタル化やアーカイブに携わっていた頃、あるとき社外で、Webアクセシビリティの技術標準規格を作っている方々と一緒に講演させていただく機会があり、大変感銘を受けました。技術を起点にした社会課題との向き合い方もあるのかと知り、自分も取り組んでいきたい!と思ったのが、一番のきっかけでした。その後2017年に実施された社内の提案制度に、アクセシビリティ機能を持つ電子図書館サービスを始めたいと応募したことからスタートしました。

提案が通り、困りを持つ児童の保護者を中心に調査を進めていくと、図書館より教科学習、特に読み書きに関するニーズが高いということがわかりました。また、いざ実証という段階で小学校の先生に話を伺うと、通常級に潜在的な困りを抱える子どもが増えており、支援の手が届いていない可能性がある、ということを知りました。

そこで、当初考えていたご家庭向け教材ではなく、まずは自治体や学校に使っていただけるようにと舵を切り、「多様な子どもたちの特性に合う学び」と、「インクルーシブな学び」を志向し、通常級でも活用いただけるICT学習アプリの開発を先行することにしました。今は自ら意志をもって集まった社員とスタッフ計8名で、サービスの開発に取り組んでいます。
コンテンツ開発を担当する細金さんから、アプリの特徴を教えてください。
細金
大きく3つの特徴があります。①独自のチェックテストで一人ひとりの「読み書きの困りの背景」と「認知特性」を把握する、②それに合ったレッスンを自動提案し、取り組んでもらう、③取り組みの様子や成長を先生の画面上で可視化する。これを続けることで先生は、「その子にとって今優先すべき指導」を判断しやすくなります。
自分のわかりやすい方法を選べて、結果もすぐにわかるのですね。
細金
はい。チェックテストでは個々の児童の読み書きのスキル、認知特性が可視化されます。また、そのチェックテストの結果から児童の得意や苦手に応じたレッスンがおすすめされるようになっています。

レッスンは自動採点で、それぞれの児童の学習レポートが出ます。ただ通常級の先生は、一斉に指導することが基本にありますから、チェックテストの結果とレッスンの取り組み、そして全員の結果を把握しながら進めていく必要があります。そのサポートのために全体の結果が一目でわかるレポートも、同時に出るようにしています。
チェックテスト結果の画面イメージ。個別の結果(左)と全体の結果(右)が同時に出る。
チェックテストで把握した一人ひとりの「強みや困りの背景」と「認知特性」により、それぞれに合わせたレッスンが自動提案される。
先生に使っていただくための工夫は、どのように考えていきましたか。
細金
2021年には、東京都品川区と、区内の公立小学校・義務教育学校11校で「まるぐランド」を活用した実証試験を行いました。準備にあたりポイントになったのが、このアプリは先生の指導にうまく活かせるかということ。授業内容の話だけではなく、先生の一日のスケジュールがどのように忙しいかなど、細かいヒアリングをさせていただき、現場の実態を知ることに努めました。

その結果改めて思ったのが、子どもと直接関わる先生の負担を軽減し、必要なことに時間とパワーをかけられる環境づくりが重要だということ。前作業も丸付けもいらない、その子に必要な教材がちゃんと出てくる。そんな仕組みが求められていると感じ、工夫の視点が広がりました。

学校現場や自治体、専門家に教えを請い、
自前ではできない事業開発に挑む

ベネッセでは前例のない領域の事業開発ですが、推進にあたり壁にぶつかったことはないですか?
有田
たくさんあります!(笑)自治体を通した学校支援にスイッチしたときは、そういうお客さまとのビジネス経験のあるメンバーがおらず、途方にくれました。ただベネッセには、自治体や学校向けの教材サービス、先生の困りごとなどに向き合っている社員たちがいますから自分たちに無いリソースは詳しい人に聞いたり、社外の有識者に頼りに行こうと、考えすぎる前に行動するようにしました。多くの方に背中を押してもらいましたが、その中でも学校支援を担当する社員との連携によって自治体への提案力が増し、25もの自治体へモニター提供でき、大きな山を越える経験ができました。

自治体に予算化していただくためには、エビデンスを求められます。テストの意味付けや効果を、監修の先生に協力をいただき可視化し、裏付けていく。そうやってサービスを磨いていくプロセスは、チームの成長にもつながりました。
試行錯誤とともに前進しているわけですね。
有田
とにかく「まるぐランド」を使ってもらって、ダメなところを言っていただこうという姿勢でやっています。数年越しでお付き合いのある小学生モニターがいますが、まごまごしているとあっという間に大きくなるなと実感します。小学生の数年はとても大事で、もっと早くアプリをリリースできていたら、もっと多くの子どもたちの可能性を引き出せたのにと、すごく思います。企画書を書いているうちに子どもは大きくなるぞ!と、チーム全体で肝に銘じています。

子どもたちが「学ぶのが楽しい!」と思える社会へ。
事業化は活動を続けるための必要条件

品川区での実証試験などが評価され、「第19回日本 e-Learning 大賞 (最優秀賞)」を受賞しました。この先にめざすものは?
有田
通常級で目立たずに困っている子は、誰からも気づかれず手を差し伸べられないまま大人になり、気が付いたら自信を失っているケースが多いように思います。ベネッセがやる学習サービスだからこそ、どんな環境・地方でも、その子が自信をもち、自分を好きなまま大人になっていく世界をつくれたらと思います。
細金
子どもたちが学ぶプロダクトの質と、先生のために使いやすいツールの工夫は、手応えを得られるようになりました。ただ、まだ十分にできていないのが「保護者」への支援です。お話を聞いていると、子どもに困りごとがあることを周りが受け入れてくれず、ひとりで頑張っていらっしゃる方が多いのです。そういった方々に寄り添えるサービスも開発していきたいですね。
阿部
「より多くの子どもたちに学ぶ喜びを」というのが、変わらないメッセージ。その実現のためには、ビジネスとして成立することが重要です。そうでないと継続した支援にならないからです。また、支援を必要とする子どもたちは他にも多くいますので、新しいチャレンジをしていくためにも、サービスのブラッシュアップを続けていきたいです。
実証試験の様子。「一般的な学習だと、周りと自分を比較して、できていないと自信を失う児童がいるのですが、『まるぐランド』だとそれぞれの特性に合った問題が出題されるので、『これならできる!』と安心して取り組めるようです」(宮城県塩竈市立月見ヶ丘小学校 校長・片岡明恵先生)
阿部 健二(Kenji ABE)
印刷大手の技術研究職を経てベネッセコーポレーション入社。教育コンテンツのデジタル化とアーカイブ、制作プロセスの改善など様々な教育サービスの開発に携わる。社内提案制度にて優秀賞、発達多様な児童に向けた学習サービスの開発責任者を務める。
有田 佳那子(Kanako ARITA)
「進研ゼミ高校講座」の教材編集を担当した後、「クラスベネッセ(現・進研ゼミ個別指導教室)」で場事業を経験。社内公募で発達多様な児童に向けた新規事業開発に手を挙げ、現在は基盤設計から営業支援までマルチに業務をこなすグループリーダー。
細金 志保(Shiho HOSOGANE)
「進研ゼミ中学講座」でアセスメントの編集・開発、「進研ゼミ小学講座」で英語編集を担当し、教科編集、システム開発・運用、基盤等ものづくりの一通りを経験。社会課題解決につながる業務に携わりたいという思いから、社内公募で現在のチームへ。教材からシステム開発まで制作のすべてを担当する商品開発チームリーダー。

社員撮影:阿部 章仁(2022年10月取材) ※ご紹介した情報、プロフィールは取材当時のものです。

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