日清食品グループは、DXを経営の中核に据え「DIGITALIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」というスローガンのもと、全社員のデジタルリスキリングに取り組んでいます。取り組みの中で、体系的な学びを提供する「NISSIN DIGITAL ACADEMY(通称:デジアカ)」を立ち上げ、デジタルリスキリングを促進するための学習環境を整備しました。そこで、今回は社員の皆さまに同グループのDX人材戦略とUdemy Businessを活用した人材育成について話を伺いました。

(写真 右から)
執行役員・CIO(グループ情報責任者) 成田敏博さん
デジタル化推進室 課長 小西博子さん
デジタル化推進室 山野陽麗(ひより)さん
デジタル化推進室 主任 門平茉莉江さん

“創造的精神”を受け継ぐ、日清食品グループのDXへの挑戦 

日清食品グループは、創業者・安藤百福(あんどう・ももふく)によって設立されました。1958年、安藤氏は48歳のときに「チキンラーメン」を発明し、食の分野にイノベーションをもたらしました。その精神や哲学は、現在も同グループの企業文化として深く根付いています。

同グループの行動指針である「日清10則」の「自ら創造し、他人に潰されるくらいなら、自ら破壊せよ。」もその1つです。過去の成功体験に安住することなく、自らを変革し続けなければ、企業としての競争力は維持できない。そうした考えのもと、デジタルリスキリングに本格的に取り組んでいます。

グループ全体のデジタル施策を統括する執行役員 CIO(グループ情報責任者)の成田敏博さんは、次のように語ります。

「世の中に新しい価値を提供し続けるためには、非IT企業であってもIT・デジタルというイノベーション領域に正面から向き合い、全社員がデジタルリテラシーを磨き続けることが重要だと考えました」

そこで同グループは、「NISSIN Business Transformation(NBX)」をグループ共通の活動テーマとして掲げ、経営トップ自らが「DIGITALIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」というスローガンを全社員に発信しました(図1)。中でも、生成AIをはじめとするAI活用については、全社的に学びを深める必要があったと、成田さんは強調します。

「生成AIという新しい技術の登場により、業務の進め方は大きく変わりつつあります。私たちは2023年に、独自開発の対話型AI『NISSIN AI chat』を導入しました。今後はAIエージェントをどのように業務に組み込んでいくかが重要になります。そうしたデジタルリテラシーを全社員が身につける必要があると考えました」

図1 「NISSIN DIGITAL ACADEMY」のキービジュアル
図1 「NISSIN DIGITAL ACADEMY」のキービジュアル

生成AI活用を促す管理職の育成が急務 

現在、社内における生成AIの利用率は約7割と高い水準にあります。(2025年12月時点)しかし、成田さんはまだ道半ばであり、生成AIのより一層の活用拡大の鍵は管理職の関わり方にあると語ります。

「生成AIの劇的な進化を踏まえると、生成AIを活用する組織とそうでない組織とでは生産性や競争力に明確な差が生じます。管理職がメンバーに生成AIの活用を促せなければ、もはやマネジメントとして十分とは言えない時代に来ています。最新のAI活用の可能性や社内の先進事例を共有し、それらを自らのチームに持ち帰って実践してほしいと考えています」

さらに成田さんは、管理職だけでなく、現場社員の主体的な学びの重要性についても言及します。

「デジタルリスキリングを進める上で重要なのは、社員一人ひとりが自分事として捉え、自主的に取り組むことです。与えられたからやるという受動的な姿勢では大きな効果は生まれません。誰かに指示されなくても学び続けられるような環境を整えることが、企業として求められていると考えました」

DXを専門部署だけの取り組みとせず、「生成AIの活用を促す管理職」と「自ら学ぶ社員」という両輪を育てることで、全社員が自らの業務をデジタルで変革できる文化の醸成を目指すことにしました。

「NISSIN DIGITAL ACADEMY」を立ち上げ、デジタルリテラシーの底上げを目指す 

これまでも同グループは、デジタル教育に関する研修を実施してきました。しかし、必要に応じて研修を追加してきた結果、内容が断片的になってしまったという課題がありました。

そこで、全社員のデジタルリテラシーを底上げするためには、体系的な教育プログラムが必要だと考え、社員のデジタルリテラシー向上を目的に、教育プログラム「NISSIN DIGITAL ACADEMY(以下、デジアカ)」を立ち上げました。「デジアカ」では、生成AI、サイバーセキュリティ、デジタルリテラシー、アプリ活用、システム開発、データサイエンス、デザイン思考、プロジェクトマネジメントの8領域を重点分野と定め、オンライン講座を提供しています。社員はほとんどの講座を自由に受講できます。

社員自ら講師を務める「データ分析」「アプリ開発」といった講座に加え、外部講師による「生成AIの効果的な活用方法」などの講座を用意。2024年度は年間90回、平均すると週2回のペースで講座が提供されました。

「デジアカ」の運営を担っているのは、デジタル化推進室のメンバーです。現場の業務課題やニーズに基づいてコンテンツを設計し、業務の効率化や具体的な成果につながる講座づくりを行った結果、開始から約1年半で講座の受講者は延べ8,000人を超えました(図2)。

図2 「デジアカ」の2025年9月末時点の受講状況(いただいた資料を元に弊社作成)
図2 「デジアカ」の2025年9月末時点の受講状況(いただいた資料を元に弊社作成)

同室の運営方針について、デジタル化推進室 課長の小西博子さんは次のように語ります。

「『迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。』という『日清10則』の精神を大切にしています。受講者のアンケートから生の声を即座に吸い上げ、講座を日々改廃するというPDCAを回しながら、当グループらしい教育プログラムの形を作り上げています(図3)」

図3 「デジアカ」におけるフィードバックの迅速な反映(いただいた資料を元に弊社作成)
図3 「デジアカ」におけるフィードバックの迅速な反映(いただいた資料を元に弊社作成)

講座内容の運営を担うデジタル化推進室の主任 門平茉莉江さんはこう語ります。

「同じ内容を繰り返すのではなく、常にアップデートし続けることを重視しています。受講後アンケートで寄せられた声を真摯に受け止め、講師の方と共に改善に向けたブレインストーミングを重ねながら、内容の見直しをするなど、日々講座内容を磨き上げています」(門平さん)

“学ぶ文化”を育てるデジアカの講座

「デジアカ」の中でも人気の高い講座の一つが、昼休みに30分間開催される「AIピックアップニュース」です。最新技術への情報感度を高めることを目的に、AIに関する旬なトピックを凝縮して発信。昼休みに“ラジオ感覚”で気軽に受講できるスタイルが支持され、毎回200人前後の社員が受講しています。

また、国内グループ会社の管理職約600名を対象とした必須研修「AI活用リーダーシッププログラム for Manager」(図4)も実施しました。同研修のポイントは、管理職自身がAIを習熟するのではなく、若手などのAIリーダー候補が自由に活躍できる環境を整える「マインドセット」と「AIガバナンス」の理解に重点を置いた点です。小西さんは、次のように説明します。

「参加のハードルを下げるため、ランチタイムの1時間を利用して開催しました。受講者からは、『AI活用の危機感を持った』『自分が使いこなさなければならないと身構えていたが、メンバーが活用できる環境を整えれば良いのだと分かり、心理的ハードルが下がった』『組織を俯瞰して見る重要性に気づけた』など、前向きな反響が多数寄せられました」

図4 AI活用リーダーシッププログラム for Manager(管理職向け)
(いただいた資料を元に弊社作成)

本プログラムのファシリテーターを務めるのは、2025年4月に新卒で入社したデジタル化推進室の山野陽麗さんです。

「講師と受講者をつなぐ役割として、わかりやすい進行を心がけています。デジアカの研修は、若手社員が講師として登壇する機会も多く、若手社員は講座づくりにも主体的に関わっています」

さらに、講座の受講促進のため、講座告知にも工夫を重ねています。社内のイントラネットに加え、社内コミュニティでも積極的に発信。告知も担当する門平さんは次のように話します。

「以前はシンプルな案内のみでしたが、現在はビジュアルやタイトルにも工夫し、『誰にどんな価値がある講座なのか』が一目で分かるように配慮しています」

現場から生まれる「ラーニングヒーロー」

「デジアカ」をきっかけにデジタル領域に関する学びを進め、現場の業務改善をリードするラーニングヒーローたちが次々と現れています。

「例えば、当初はデジタルリテラシーが低かったけれども、『デジアカ』の講座を通じて『Power BI』を使いこなせるようになり、部署内で活用するツールを開発・展開するまでに成長した社員もいます。そうした社員が『デジアカ』の講師となり、自身の成功体験を社員に共有する場も用意しています。ラーニングヒーローによる体験談を聞いた社員が『自分にもできるかも』と勇気づけられるといった相乗効果を期待しています」(門平さん)

Udemy Businessで広がる、時間と場所を選ばない学び

「デジアカ」の講座は日中の開催が中心であり、勤務時間が不規則な工場勤務の社員は参加しにくいという課題がありました。そうした状況を受けて導入したのが、Udemy Businessです。Udemy Businessであれば、「デジアカ」でも扱っている最新のデジタル講座を、時間や場所を問わず受講することができるからです。

数ある学習プラットフォームの中からUdemy Businessを選定した理由について、小西さんは次のように述べます。

「講座を内製しようとすると、どうしてもコンテンツの鮮度を維持することが難しくなります。その点、Udemy Businessは、講座内容が継続的にアップデートされている点に魅力を感じています。また、デジタル分野に限らず、汎用的なビジネススキルまで幅広く学べる点も非デジタル企業である当社にとって非常に有益だと捉えています。そしてなにより、グローバル展開している当グループにとって、多言語対応であることも重要な選定理由でした」

Udemy Businessの導入にあたって、社員が学びたい領域や目標学習時間を申告する仕組みを整備しました。現在は、グループ会社を含め多くの社員が受講しています。加えて、IT関連資格の取得支援として、対象資格の受験費用を会社が負担するとともに、資格取得の学習に役立つUdemy Businessのラーニングパスの整備も進めています。

「デジアカ」とUdemy Businessを組み合わせることで、場所や時間を問わず、隙間時間に好きな講座を学べる環境を実現しました。今後も、デジタル化推進室では、多様な学びの選択肢を提供し、社員一人ひとりの主体的な成長を支えていく考えです。小西さんは、次のように締めくくります。

「現在、デジアカの受講対象者の約9割が、少なくとも1回はデジアカの講座に参加しています。生成AI領域を中心に、自己研鑽の文化が着実に浸透しつつあります。今後も私たちは、社員が学びの意欲を高め、自律的に学び、さらに飛躍できるような環境を整備していきます」