CASE STUDY

介護の現場にもAIの力を。『マジ神AI』で介護スタッフの負担を軽減し、ご入居者様のQOLが向上

ベネッセスタイルケアではスタッフ自らが考え、「お客様本位」の介護サービスを提供することを目指している。また、長年の介護事業のノウハウの蓄積を生かしたサービス基準を構築し、スタッフ全員が徹底した介護サービスを提供できるよう努めてきた。
高い専門性と実践力をもつ介護の匠を「マジ神」と認定し、マジ神たちの介護支援における思考手順や行動をAI化したものが「マジ神AI」だ。マジ神AIソリューションを担当する中野修平に話を聞いた。

中野 修平

Digital Innovation Partners データソリューション部 介護ソリューション課

ITエンジニア、ITコンサルタントとしてデータ分析基盤の設計・開発や、AI・データを活用するサービスの要件定義・設計を担う。その後、大手の人材紹介会社に転職。ユーザーの利用ログからデータ分析を起点とした企画の考案やレコメンドロジックの開発を担当する。
ベネッセに移り、進研ゼミの利用ログの分析、改善施策の企画・KPI立案の支援を行った後、介護ソリューション課で「マジ神AI」のデータフロー設計、開発、実装、効果検証など幅広く携わってきた。現在もベネッセスタイルケアに出向しつつ、プロジェクトマネジメントを担い、「マジ神AI」の改善・普及に努めている。

ISSUE(課題)

マジ神の知見や経験を新人・若手職員へ効率的に還元

介護の匠である「マジ神」認定されたスタッフの思考や行動を、効率良くインプット・実践できる環境を提供することで、現場の誰もが「マジ神」のノウハウ・スキルを実践できないか、という課題がありました。

「マジ神」とは、ベネッセスタイルケア独自の社内資格で「認知症ケア」「安全管理と事故の再発防止」「介護技術」の観点で高いスキルを持つ介護の匠のことを指します。

ベネッセスタイルでは、入居者様のQOL向上を最重視しているため、入居者様の“ありたい姿”と現状のギャップを把握し、効果的な支援介入を行うことが重要です。介護職員がギャップの要因を特定し、仮説を立ててアプローチするため、高度な専門性を持つスタッフを育成する必要があります。しかし、介護の現場は多忙で多岐にわたる業務を担うため、高度な専門性を持つ人財の育成に十分な時間が割けないのが現状です。

SOLUTION(ソリューション)

『マジ神AI』の導入・普及

「マジ神」に近い高度な判断やケアの提案を、経験の少ない介護職員でも可能にする「マジ神AI」の導入・普及を進めています。

「マジ神AI」は機械学習により、ご入居者様の状況観測データを可視化し、適切なケアのフィードバックを行うデジタルツールです。マジ神AIを活用することでご入居者様のQOLをさらに向上し、介護スタッフの業務負担も軽減します。

具体的には、マジ神たちの経験や知識をデータベース化してAI学習させ、介護記録やセンサーが観測したデータを見える化したり、睡眠やバイタルサイン(体温、血圧等)の情報から普段の傾向と異なる日を判定(異常検知)できるようにしています。また、見える化にとどまらず、例えばBPSD(認知症に伴う行動・心理症状)など専門性の高い領域のデータからご入居者様に認知症の傾向があるかどうかを予測可能です。そのうえで、その要因に対する適切なケアを提示するので、マジ神認定にはいたっていないスタッフもご入居者様の助けとなるヒントが得られます。

我々は定期的に現場に足を運び、介護スタッフに使いにくい部分や実際どのように活用しているのかをヒアリングしています。エンジニア視点で良かれと思った機能が現場で使われていなかったり、スタッフが重視しているポイントに気づいたりすることができ、より使いやすい画面を目指して改善し、普及を図ってきました。

RESULT(結果)

「マジ神AI」を活用するスタッフの介護の質が向上。入居者様に良い変化をもたらす

  • ベネッセスタイルケアの31施設の介護スタッフを対象として、2023年7月にアンケート調査を実施(回答者=520人)
    2022年12月~2023年7月の期間におけるマジ神AIの利用月数に応じて、以下の通りセグメントを定義
    - 6-8カ月の層を「よく利用している」
    - 1-3カ月の層を「あまり利用していない」

マジ神AIを導入して1年が経ち、介護スタッフに実施したアンケートで有意な結果が出ています。

アンケートでは「ご入居者様の体調の変化に気づきやすくなった」「ご入居者様との関わり方に変化があった」など多くの項目で質の向上が見られ、特に半年以上活用しているスタッフが大きな効果を実感しています。また、スタッフから見たご入居者様の変化についても改善傾向が見られました。

また、マジ神AIを活用して、実際にご入居者様のQOLが向上した事例もあります。
睡眠センサーや排泄センサーを設置しているご入居者様のお部屋では、ベッドで寝ている時間やトイレに行っているタイミングが把握できます。あるご入居者様のトイレの行き帰りにおける転倒事故が増えていましたが、センサーのデータから夜間の覚醒が多いことが見えてきました。それを受けて、夜間の覚醒が集中する時間帯に意図的に排泄誘導のお声かけをしたり、日中の活動量が増えるようにケアを見直すことで夜間睡眠の改善を促しました。
結果的に、取り組み後に転倒事故は減少しています。データを軸に様々な職種のスタッフが連携することで課題解決のプロセスを踏めた事例です。

これらの結果を受けて、2024年度中に、ベネッセが運営している介護施設全拠点に導入する計画となっています。

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

「マジ神AI」のこれからについて教えてください。

現場の介護スタッフに気持ち良く使っていただいて、業務の負担が減ったり、人財育成の幅が広がったりするのはもちろんですが、その先にあるご入居者様のQOL向上にどう影響があったのかをしっかり見ていきたいと思っています。ご入居者様の“その方らしさ”や幸福につながるものを追求して、ベネッセがお客様に寄りそって事業をつくっているイメージにつながるとうれしいです。今後、この「マジ神AI」を他社に提供することも視野に入れ、動いていきたいと思います。

今後、チャレンジしたいことは何ですか。

IT・データを使いながらベネッセの介護事業を発展させたいと考えています。これまでデータ利活用やデータ分析を軸に、エンジニアという立場で手を動かしてきましたが、より事業に近いところで貢献できればうれしいです。将来的には、ベネッセの領域のみならずITやDXの観点から介護業界に影響のある取り組みができたらいいなと思っています。

MORE
CASE STUDIES