紙をデバイスに置き換えるだけじゃない、デジタルならではのアセスメントを提供するeラーニングシステムを展開
西村 洋一郎
learningBOX 株式会社
代表取締役
慶應義塾大学理工学部にて大学院までソフトウェア工学の研究に従事。eラーニング専業のシステム会社、株式会社キバンに入社し、eラーニングコンソーシアムに「Learning Manegement System」として登録されている31システムのうち4つのシステムに携わる。2011年に退職後、個人事業主としてクイズシステム「QuizGenerator」を制作・リリース。2012年7月、株式会社龍野情報システム(現:learningBOX株式会社)を設立。2016年1月、eラーニングシステム「learningBOX」を制作・リリースする。
久冨 一平
株式会社ベネッセコーポレーション
事業基盤変革部 部長
精密機器メーカーの保守サービス事業計画実行推進・大規模基幹システム開発PJのPMO経験を経て2010年株式会社ベネッセコーポレーションへ入社。学校事業の基盤運用経験を経て、英語4技能検定GTECの商品企画、デジタル基盤開発・改善に携わりこれまで50件以上のBPRプロジェクトを通じて事業成長、コスト競争力強化を進める。近年は国や地方自治体におけるアセスメント・検定試験の活用、学校現場における教育データ利活用のための事業基盤の変革をリードしている。
learningBOX社の事業内容について教えてください。
西村氏:当社は「世界の誰もが、いつでも、どこでも、自由に学べる未来を創る」をパーパスとして、より多くの教育機会の創出を目指すEdTech企業です。主力事業の「learningBOX」は、eラーニングに必要な教材の作成、配布、成績管理、自己管理機能まですべて揃ったオンライン学習管理システムで、専門知識がなくても簡単にオンライン学習環境を構築いただけるサービスを提供しています。使いやすさと低価格にこだわり、現在の登録者数は2万人、有料契約数は1,000社を超えています。学校や学習塾、企業の社内研修や認定試験などに広く活用されています。
なぜeラーニングに着目されたのですか?
西村氏:前職を退職して地元である兵庫県たつの市に戻り、個人で「QuizGenerator」というWeb上でクイズ問題が作れるシステムを開発しました。公開したところ「定期的な管理をしたい」「特定のユーザーだけに割り当てたい」といったご意見をいただくようになりました。それって求められているのはLMS(Learning Management System)ということです。でも世の中にちょうど良いものがなかったので、ならば自分で作ろうということになり、そのシステムをeラーニングにも活用できるのではないかと考えて起業し、「learningBOX」の事業を起ち上げました。前職でもeラーニングのシステムを開発していたのですが、そもそもこの分野に関心を持ったのは、自分自身が地方都市で生まれ育ち、高校の選択肢が少なかったり、予備校がなかったりと、地域による教育環境の格差を身をもって感じていたからです。ITを活用して教育機会を増やし、格差をなくしたいという思いが、今の事業につながっています。
ベネッセとlearningBOX の出会いのきっかけは?
久冨氏:私はベネッセで学校関連の模擬試験などを担当しているのですが、5年ほど前から試験のデジタル化に向けた研究開発を進めてきました。我々の模擬試験は今、年間1,000万人近い方々にご利用いただいています。その中の主要商品をデジタル化するにあたって、最初に声をかけたのがlearningBOX です。アセスメントをデジタル化は、単に紙でやっていたものをPCやスマートフォンのような端末でできるように置き換えればいいという話ではありません。手段がデジタルになるのであれば、それに伴う新しい価値も求められます。そういう要求に対してフットワーク軽く、かつ柔軟に応えてくれるパートナーを探す中で西村さんに出会いました。
弊社の岡山本社からも近い兵庫県たつの市に、eラーニングのシステムをやっている会社があるということを同僚から聞きまして、お会いしたのが最初です。当時はまだ事業になるかどうか、収支が見込めるのかどうかもわからない研究開発の段階でしたが、そうしたところからお付き合いいただける、信頼できるパートナーに出会うことができました。
西村氏:初めてお会いしたのは、まだ「learningBOX」を公開する前だったと記憶しています。
久冨氏:確か「QuizGenerator」を見て、選択式の問題がこんなに簡単に作れるのかと、感動したのを覚えています。もちろん汎用的なシステムと我々の要求とでは違うところもあるので、そういったところも1つ1つ対応いただきながら、研究開発を進めてきました。大変なお願いもしてきたかもしれませんが、一緒に試行錯誤する過程でそれが「learningBOX」の血となり肉となって、相互にWin-Winの関係を築ければという思いで取り組んできました。
西村氏:模擬試験と同レベルの出題パターンや、問題数が多くてもわかりやすいナビゲーションなど、試験の運営に必要な機能の要望に応えるのは確かに大変でしたね。でもその結果、我々の「learningBOX」というサービスも、検定試験や文教関係に使っていただけるものになってきたのかなと思っています。
発注関係から資本業務提携へと至った経緯を教えてください。
久冨氏:教育現場は今、デジタル化への変革の中にあります。私たちの主要なお客様である高校領域にも、大きな変化の波が押し寄せています。これまでの研究開発してきたことを、さらにスピードをもって広げていかなければならない。となったときに互いの関係をより深め、今まで以上に良い付き合いをしていくことが重要だと考えました。主要商品は1つではなく複数がありますし、今後はそれらを同時に並行してデジタル化していかなければなりません。その際に汎用の機能だけでは全部をカバーできないし、かといって細かいカスタマイズまでやっていたらスピードが追いつきません。そのバランスをどのようにとっていくのかを考える上でも、もう一歩踏み込んだ関係性になることが重要だと考えました。
西村氏:いろいろ決まってからご相談いただくのではなく、比較検討の段階から一緒に関わっていけたらと思っていて、そうなるための近道が資本業務提携でした。私には子どもがいるのですが、親の目線で見てもベネッセの教材はすごく考えて作り込まれていますし、私自身も高校生の頃には進研ゼミの模擬試験などでお世話になってきました。そういうところからも信頼できる会社だと思いますし、資本業務提携先としてもベネッセを念頭に置いてきたので、ともに歩みを進められることになってうれしく思っています。
冒頭にお話ししたパーパスを目指す上でも、我々はシステムを作ることはできますが、教材コンテンツについては知見がなくて何もできません。プラットフォームの部分はしっかり作り込みつつ、どんな教育を行うかという具体的なところにはまさにベネッセのようなコンテンツを作れる能力のあるところと協力して、学習機会を創出できればと考えています。
提携から1年でどのような変化がありましたか?
西村氏:提携によって、より深い相談ができるようになったと思います。具体的な案件となる前から意見を交換できるようになりましたし、こちらからも公開前の機能などをいち早くお見せして、判断いただくということがやりやすくなりました。一方で教育現場では端末やネットワークといったインフラが整って、デジタル試験の導入に向けた障壁もなくなってきています。ここまで技術調査や、プロトタイピングしてきたものが、ようやく大規模提供ができる。その意味ではすごく良いタイミングで関係性を深めることができ、互いの知見を持ち合えるようになったと思います。
久冨氏:すでにlearningBOXのサポートで作り上げたデジタル試験が通信制高校で採用され、6,500人という大規模な受験やアセスメントを提供する実績も生まれています。これからは今まで模擬試験を紙で受験いただいていた学校にも、デジタルのアセスメントを提供することになっていくでしょうし、私もいいタイミングで資本業務提携ができたと思っています。learningBOXが実現しているデジタルアセスメントを、社内の他部署でも活用したいという声が届いていますし、目に見える成果以外にもこの1年で積み上がってきたものが確実にあると感じています。
西村氏:変化という意味では、我々はこれまで開発だけに集中してきたので、国の政策とか市場動向といったものにあまり接することなくここまで来てしまったのですが、ベネッセを通してそうした一次情報に接する機会が増えたことも、そのひとつですね。開発の方向性を明確化するのにかなり役に立っていると思います。ベネッセの知見に学ぶことで、教育の現場にちゃんとなじむシステム開発に取り組んでいきたいですね。
今後について互いに期待することを教えてください。
久冨氏:我々がこれまで絞った領域で研究開発したり、サービスを展開してきたことも、これからはより大規模に展開していくことになります。使う人も特定の領域に絞られずに幅が広くなってくると、より今の時代に即したユーザー体験を提供することが重要になります。複数のオーダーに今まで以上のスピードで対応していただくことも、必要になってくるでしょう。一方で要求レベルが高まることでlearningBOXの良さが失われるようなことがあってはならないので、両方が成り立つようにしっかり互いの知見をやり取りしていきたい。同時に我々の事業以外のところでの「learningBOX」の活用も広がりつつあるので、事業のさらなる成長にも期待しています。
西村氏:我々はまだ小さな会社なので、組織として成熟していないところもあります。開発には自信を持っていますが、責任を持ってサービスを提供できる体制や、より多くのご要望に応えられる体制を早急に作っていきたいと思っています。その上でベネッセの持つ様々な教育コンテンツに対して、プラットフォームを提供できればというところが、最終的に目指したいところではあります。
久冨氏:実は先日、弊社のインフラのメンバーが訪問させていただき、learningBOXが実践している運用の自動化などを学ぶ機会をいただいたんですね。こんな風にお互いを尋ねて相互に教え合うなど、ビジネスパートナーである以上、両者のいいところから学んでいければと思っています。あとは互いの強みですよね。たとえば弊社であれば、教育現場をとりまく環境の変化や市場動向にも対峙しながら、両者がさらに成長していけるような形を模索していく。そういう関係でありたいなと思っています。
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