CASE STUDY

エンジニア育成を通して、日本を再び技術大国に!ベネッセとプログラミングスクール、コードクリサリス社がタッグを組む。

DIFの第1弾として、ベネッセは、高度IT人材育成ブートキャンプを提供するCode Chrysalis Japan(コードクリサリスジャパン、以下CC社)株式会社と業務提携契約を締結し、約1.6億円を出資した。
今回は、CC社CEOのKani Munidasa(カニ・ムニダサ)氏と、株式会社ベネッセコーポレーション 大学・社会人事業本部 社会人教育事業部 部長 飯田智紀に、両社が提携に至った背景と、今後の共創の方向性について聞いた。

飯田 智紀

株式会社ベネッセコーポレーション 大学・社会人事業本部 社会人教育事業部 部長

ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)とソフトバンクグループ株式会社で経営企画・グループ会社管理、事業再生・国内外投資業務などに従事。2015年9月よりベネッセホールディングスに参画。現在はベネッセコーポレーションでUdemyを中心にリカレント教育・リスキリング事業などの新規事業開発を推進中。

Kani Munidasa

Code Chrysalis Japan 株式会社 CEO

スリランカ人の父、日本人の母を持ち、日本で生まれる。その後、高校まではスリランカで過ごす。東京農工大学工学部機械システム工学科を卒業後、日米の企業で18年間働く。IT企業の戦略サポートや顧客サービスなどに従事するも、43歳の時、米国のコーディングスクールHack Reactor(ハックリアクター)でプログラミングを学ぶ。スクールでの経験を生かしてブートキャンプ式のエンジニア養成校を日本で設立することを決意し、ヨルダンでコーディングスクールを運営していたヤン・ファン氏と2017年にCC社を共同設立。

自身も43歳にブートキャンプ式スクールで学び直し人生を変えたい人を支援する学校を立ち上げた

CC社の事業内容について教えてください。

カニ・ムニダサ氏:⽇本を拠点にブートキャンプ式のエンジニア養成スクールを運営しています。スクールには、主にイマーシブコース(3か月でエンジニアを目指すプログラム)とファウンデーションズコース(初心者向け基礎プログラム)があり、前者の場合、3か月間、週5日、午前9時から午後5時まで英語でみっちりと授業を行います。IT技術に関して未経験で入学する人が約60%ですが、卒業時にはSONYやGoogleなどのグローバルIT企業に就職できるような即戦力が身につくプログラムにしています。
例えば、看護師だった方が医療業界の課題をテクノロジーで解決したいと考え、イマーシブコースに入学しました。彼女は卒業後、看護・介護の現場で役立つソリューションとサービスを提供する企業に就職し、活躍しています。その他にも、大学生や美容師、バレエダンサーなど、様々なバックグラウンドを持つ方が入学し、エンジニアとして巣立っています。

エンジニア養成スクールを立ち上げたのはなぜでしょうか。

ムニダサ氏:私が43歳の時、アメリカのサンフランシスコでブートキャンプ式のエンジニア養成スクールに通ったのがきっかけです。私は長年IT系企業に勤めていましたが、プログラミングのコードすら書けませんでした。40歳を過ぎてそれでは恥ずかしいと思い、意を決して会社を辞め、学び直しをすることにしました。
そのスクールは、軍隊の厳しい訓練を指すブートキャンプ式を謳っているだけあり、想像以上にハードな学校でした。授業に加え、大量の宿題に格闘する日々でしたが、同時に43歳にして、マインドセットが変わる貴重な経験をしました。卒業後、そのスクールの運営に関わる中で、ソフトウェア技術を学び、人生を切り開くことができた経験を、自分も提供する側になりたいと考え、2017年にCC社を立ち上げたのです。

なぜ日本を選ばれたのでしょうか。

ムニダサ氏:私は、父がスリランカ人で、母親が日本人です。高校までスリランカで過ごしましたが、日本の大学で機械システム工学を学びました。当時、ロボット工学や半導体の分野では、日本が世界を牽引していたからです。
しかし、2000年代に入り、テクノロジー業界をリードする立場だった日本が遅れをとっていることに気づきました。グローバル企業で活躍するエンジニアと比較し、日本のエンジニアには、複数の分野の技術・知識に精通しているフルスタックエンジニアが少なく、さらに英語力が不足していたのだと思います。その状況は、私が学校をつくろうと考えた時にも継続していました。そこで、日本でブートキャンプ式のスクールを立ち上げ、グローバルに活躍するエンジニアを育て、日本を再びナンバーワンの技術大国に押し上げたいと考えました。

お互いのビジョンに共鳴し、初めて会った時から何かが起きると予感

CC社とベネッセが提携に至った経緯を聞かせてください。

飯田:CC社が入居しているビルに、弊社が業務提携している株式会社ヒトメディアが入居していました。代表の森田正康さんから「まだ若い会社だけど、君が関心のある大人の学びに関する事業に取り組んでいる会社がある」と紹介され、挨拶に行ったのがきっかけです。

ムニダサ氏:トモ(飯田智紀)と最初に会った時、何かが起きるとビビッときました。ベネッセコーポレーションという会社名は知っていましたし、弊社にはないものをたくさん持ち、きっとポジティブな力になってくれると感じたのです。

飯田:その時は挨拶だけでしたが、翌年CC社の2周年パーティーに招待していただき、カニさんと共同で代表を務めるヤンさんとお話をする機会があり、そこから話が進んでいきました。
CC社に惹かれた理由は4つあります。1つめは、自律的な学習者を育て、「日本を再び技術大国にしたい」という明確なビジョンを持っていたことです。これは、私たちの部が掲げる「最終学歴以上に最新学習歴を誇れる社会の実現」にもつながるビジョンだと感じました。2つめは、技術に加えて、自らの人生を自分で切り開いていけるよう、マインドセットを身につける工夫がされたカリキュラムが構築されていた点です。3つめは、卒業生の多くがグローバル企業に就職しているという実績です。そして、4つめは、多様性と個のよさを引き出す学びを実践しているスクールの雰囲気です。CC社に一歩入るとシリコンバレーのような自由闊達な雰囲気で、学生も先生も楽しく勉強をしている様子が伝わってきました。

ムニダサ氏:弊社は質の高い教育を行うため、イマーシブコースでは入学試験を行っており、その合格率は20%程です。加えて、少人数制授業としているため、3か月間で受け入れられるのは数十人程度です。ただ、それではビジョンを達成できないと感じていました。そこで、トモと出会い、社会へのインパクトを最大化させるためのアイデアを膨らませることができると感じました。

ベネッセと提携するに至って、何が決め手になったのでしょうか?

ムニダサ氏:実は、ベネッセの他に、国内外の様々な企業から業務提携の提案がありました。その中からベネッセを選んだのは、弊社のビジョンに一番共感してくれたからです。ベネッセが取り組む教育事業は実に多岐にわたりますが、すべての事業に共通して最も大切にしているのは「教育後のアウトカム」だと話していました。私のスクールでも、“Re engineering yourself”、つまり自分自身で新しい自分を作ることが最も重要だと考えています。社会へのインパクトを強くしたいのはもちろんですが、学生が卒業後に何ができるようになっているかにはこだわり続けたいと考えています。そうした弊社のビジョンを尊重しつつ、事業拡大のアドバイスをしてくれたのがベネッセでした。

社会へのインパクトを最大化し、日本DX推進に貢献を

ベネッセと業務提携を行ってまだ間もないですが、どのようなシナジーを感じていますか。

ムニダサ氏:まだ構想段階ですが、プライオリティの高いアイデアとして、ベネッセと提携することにより、企業や自治体、学校など、多くの人たちや組織に私たちのカリキュラムを届け、日本のDXの原動力となる新しいプロダクトを生み出す力を持ったエンジニアを育てていきたいです。ベネッセには、Udemy事業や教育事業で培った強力な営業販促の経験があります。そうした力に期待しています。

飯田:弊社が介在することで、CC社の質の高いエンジニア養成のプログラムをより多くの企業や自治体、学校に知ってもらうことができると考えています。社会へのインパクトを最大化するためには、個人ユーザーを増やすことも重要ですが、組織にアプローチするのも一つの方法だと提案させていただきました。CC社のカリキュラムを生かしながら企業向け、自治体向けに、一緒にサービスをつくり、目指すビジョンの実現を加速させたいです。

最後に、今後の展望を教えてください。

ムニダサ氏:企業に加えて、自治体や教育機関にプログラムを提供することは、ベネッセと議論する中で生まれたアイデアです。我々が想定していた以上に業務領域を広げられるのではないかと楽しみにしています。

飯田:企業に出資をすることが、ゴールではありません。出資するまでのプロセスや出資後においても、様々な困難があると思います。そうした局面を乗り越えて、お互いの目的を達成するためには、お互いのビジョンやパーパスにいかに共鳴できるかが重要だと考えます。例えば、CC社とは、「自律的学習者の育成」というビジョンが合致したからこそ、今回の業務提携に至りました。今回はカニさんから私の名前が出てきましたが、ベネッセには人間的にも能力的にも素敵な社員が大勢います。この人とだったら、ベネッセとだったら一緒に仕事をしたいと感じてくださった企業があれば、ぜひお会いして話をしたいと思います。

MORE
CASE STUDIES