Benesse 「よく生きる」

EPISODE 人と社会の
「Benesse(よく生きる)」
をめざして

子どもの「やりたいこと」の芽を見つけ、そこから展開する保育をめざす「ベネッセの保育園」
乳幼児社会課題保育
あちこちから聞こえる子どもたちの元気な声。訪れたのは、神奈川県横浜市にある「ベネッセ 保土ヶ谷保育園」です。運営する株式会社ベネッセスタイルケアは、「個性と人格」を尊重しながら、人の生涯に寄りそっていくサービスの一つとして、保育事業を行っています。
保育の実践から生まれた「その子らしく、伸びていく。」という思いを大切にし、「よく生きる(Benesse)」ための基礎を育て、未来を生きる子どもたちの可能性を伸ばそうと取り組むエピソードを、進藤祐理子園長に聞きました。

居心地のよい空間で、「自分のタイミング」で動ける環境をつくる

子どもたちの作品や自然の物を使ったオブジェが飾られて、アットホームな雰囲気ですね。
進藤
「ベネッセの保育園」は、子どもたちにとっても保護者の方にとっても居心地のよい場所になることを大切にしています。園では木目の家具や布を使った空間づくりで、子どもたちが家に居るのと同じような気持ちでいられるよう工夫しています。
子どもたちの過ごす部屋にはソファーも!
進藤
「ベネッセの保育園」のほとんどがそうなのですが、子どもたちが休息できるようにソファーを置いています。大人も、仕事をずっと続けて張り詰めた状態でいるのはきついですよね。子どもも同じで、早い子は朝7時半に登園して夜6時半、もっと遅くまで居る子もいますので、お昼寝以外にもゆっくりできる時間をとれるようにしています。隣には絵本コーナーがあり、横になって、まったりと読んでいたりしますよ。

そうやって自分の中でチャージができたら、復活してまた元気に遊び始めます。同じ場所で長い時間を過ごすのですから、「自分のタイミング」で動ける環境をつくってあげるのは大事なことだと思っています。

夏祭りは、見通しを立てながら
やりたいことを見つける大事なイベント

毎年、保護者をお迎えしての夏祭りが一大イベントだとか。
進藤
はい。以前は園全体で一斉にやっていましたが、今は年齢ごとに時間帯を分けて開催しています。もともとは、コロナ禍の影響で密な状態をつくらないようにするための策でしたが、空間にゆとりができると、子どもと保護者がちゃんとコミュニケーションをとりながら参加できるという発見があり、その方法を続けることにしました。
何といってもこのお祭りの特徴は、5歳児クラスの子どもたちが意見を出し合ってテーマを決めることです。今年は「園全体を海の中にする」ことと、世の中が以前のようにお祭りに行ける雰囲気になったこともあって「お神輿(みこし)と盆踊りをやりたい」という声があがりました。
テーマは毎回違いますから、5歳児クラスになる子どもたちは過去に何をやったのかを、そのプロセスを含めて見ています。ですのでみんな、企画を始めるずっと前から「私は次にこれをやりたい」「5歳になったらこれができる」と考えているんです。見通しを立てながら自分のやりたいことを見つけるという仕組みが、自然にできあがっているようです。
そしてテーマが決まったら、目指すイメージを「設計図」にしてもらい、私たちも一緒になって準備していきます。少しずつ少しずつ部屋の中にカタチができていき本番でドンと披露するという、「自分たちがイメージしたものが形になっていく」わくわくした気持ちを、行事を通して体験してもらっています。
「仕事以外のときも、『これ、保育園で使えるかも!』と思いつくことがしょっちゅうあるんです」という進藤園長。「そばにいる大人が元気でないと子どもも元気になれないから」と、自身の子育て経験を活かしながら保護者の気持ちにも寄りそっている。

「その子らしく、伸びていく。」ために、
「その子の芽の、光と水と土でありたい。」

子どもたちとのコミュニケーションで大切にしていることはありますか。
進藤
まず、子どもたちは保育スタッフのことを「先生」とは言いません。私(園長)のことも普通に「進藤さん」と呼びます。「先生」と呼ばれると何かを教える立場と大人が勘違いしてしまうので、そうではなく「ひとりの人として」接することができるように、そう呼んでもらっています。
「ひとりの人として」接するとは?
たとえば雨が降るといつもの散歩ができないので、屋内で別のことをやりますが、何の説明もないと納得しない子もいるんです。そういうときは、「今日は雨が降っているね。お散歩に行けないよね。だから代わりにこれをやろうね」と、まだ言葉が十分にお話しできない1歳児に対しても、ちゃんと理由を説明するようにしています。

子どもたちは毎日同じ生活リズムで過ごすことで安心感を保っているので、変更がある場合はきちんと伝えることが必要です。それが人として尊重して関わることだと考えています。
そういった姿勢を学ぶ、保育スタッフの勉強の場があるのですか。
自分がされて嫌なことは子どもだって嫌だから…と考えれば、そんなに難しいことではないですよね。大人だって勝手に予定を変えられると戸惑います。実際のところ、つい抱っこして子どもの行動を変えようとすると泣いてしまいますが、ひと声かければちゃんと自分で動いてくれる。そんな経験の積み重ねで、自然に身についていくのではないでしょうか。

ただもちろん、実践知のベースには本部主催の研修などで学ぶ「基本」があります。入社時研修では、ベネッセの保育が大事にする理念を学んだり、自分たちがどういう保育をしたいのかを考えたりします。その後も定期的に研修を受けるので、どの園にも、「保育は、私たちが何をやるかを決めるのではなく、子どもたちがしたいことから展開していくものだ」という考え方が浸透しているのだと思います。
なるほど。とは言え、さまざまなことが起きる日常で、ときには迷うことなどありませんか。
進藤
迷ったときは、「その子らしく、伸びていく。」という保育事業のブランドメッセージや、経験豊かな先輩園長たちが時間をかけてまとめた言葉に立ち返ります。その表現に込められた思いはストンと心に落ちるので、ぶれずにやっていかねばという気持ちになれますね。
書籍『その子の宇宙が拡がり続けるためのことば』より。
保育の実践から生まれた「その子らしく、伸びていく。」を支援するための共通の言葉をまとめた本。保育事業は1994年にスタートし、計65か所(2023年4月時点)の施設を運営している。
進藤
それと、園独自の研修を行うなどみんなで学び合いを続けています。お昼寝の時間には必ず子どもたちの様子を報告し合い、「どうしようかなと思うんだけど…」と話すといろんな意見をもらえ、「じゃあ、こうしてみよう」とすぐに動けます。

子どもたちの様子は毎日違うので、今日うまくいったことが明日もうまくいくとは限りません。日々振り返りをすることが大切ですし、それ無くして次は生まれないのです。その実行のためには、乳児から幼児まで、一人ひとりの子どもの発するものを絶対に聞き逃さないようにしようと話しています。

どんな時代にあっても「なぜ?」と思え、
考えて答えを出し、行動できる人になってほしい

コロナ禍だけでなく、世の中の価値観が多様になりつつある時代ですが、保育の環境にも変化はありますか。
進藤
実は先日、ある男の子がほかの男の子に「なぜピンクで描いているの? それは女の子の色だよ」と言う場面がありました。性別で決まっているわけではなく「好きな色だから使っているんだよ」ということを、腑(ふ)に落ちるように伝えるにはどうすればよいかとスタッフ全員で考え、多様性を題材にしたわかりやすい絵本を使って話したりしました。

日ごろから既成概念で決めつけないようにしていますが、それでも子どもたちの中に生まれる「なぜ?」に対し、どうやって、かつ、タイムリーに応えていくか、その重要性を痛感しました。
これからそういった疑問を持つシーンはさまざまにあると思いますが、子どもたちにはどういうふうに向き合ってほしいですか。
進藤
おそらく私たちが育った頃よりも、今の子どもたちが育つ過程にはいろんな、自由になる部分と自由にならない部分が出てくると思います。そんな環境の中にあっても「なんでだろう? どうしてだろう?」と思うことができ、ちゃんと悩み、考えてから答えを出せる。そしてそれを受け入れ、行動できるような人になってほしいですね。

ただそれを言う前に、私たちが見本になれるよう、日々意識しながら実践していこうと思っています。
進藤祐理子(Yuriko SHINDO)
ベネッセスタイルケアが運営する「ベネッセ 保土ヶ谷保育園」園長。幼稚園勤務を経て入社し、保育の現場で20年余りのキャリアを積む。2019年度から園長職。

撮影:デザインオフィス・キャン ※ご紹介した情報、プロフィールは2023年8月取材時のものです。

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