Benesse 「よく生きる」

Learners’ Voice 学び続ける大人たち

自分の成長を社会貢献に
つなげることが
学びの原動力

鷲見雄馬さん

ソフトウェアエンジニア

東京芸術大学中退。ポルトガルのリスボン国立コンセルヴァトワール・ダンススクール、オランダ国立バレエ学校を経て、ジョージア(旧グルジア)国立バレエ団に入団。プロのバレエダンサーとして、モスクワ・ボリショイ劇場など世界各国で踊る。2018年3月に帰国し、プログラミングを学ぶ。2019年4月からフリーのソフトウェアエンジニアとしてスタートアップで開発に従事し、2021年株式会社ブレインパッドに入社。フリーのダンサーとしても活動中。
「人生100年時代」と言われる現在、人生を豊かにするためには、大人になってからも学び続けることが欠かせません。本コーナーでは学びにより自己実現を果たした方へのインタビューを通して、学ぶ気持ちの後押しや学び続けるためのヒントを発見し、学習者を応援していきます。

今回登場するのは、鷲見雄馬さんです。プロのバレエダンサーでありながら25歳からプログラミングを学び始め、現在はソフトウェアエンジニアとしても活躍しています。デュアルキャリアを構築するために、大人になってからも学びを続ける理由をお聞きました。

バレエダンサーが
ソフトウェアエンジニアを
目指した理由

株式会社ブレインパッドデータエンジニアリング本部アナリティクスアプリケーション開発部で、機械学習を利用したアプリケーションの開発に携わる鷲見雄馬さんは、ソフトウェアエンジニアとバレエダンサーというデュアルキャリアを持つ方です。幼い頃からバレエを習い始め、ヨーロッパでのバレエ留学を経て、海外で活躍するバレエダンサーとなった鷲見さんが、2つ目のキャリアを持ちたいと考えるようになったのは、自身のけががきっかけでした。

「ジョージア国立バレエ団に入団して間もなく、けがをしてしまい、1年ほど思うように踊れない時期がありました。当時は、けがをしたダンサーに対して、治療などのサポートが十分ではありませんでした。自分で病院を探し、治療を受けてけがを克服しなければならず、精神的にもとてもつらかったです。バレエは華やかに見える世界ですが、周囲にも自分と同じように心身の悩みを抱えるダンサーも多く、そうした状況に課題意識を持ちました。また、けがから復帰後も、どのようにキャリアを築いていくべきかを考え始めるようになり、ダンサーとは別の軸も持ちたいと思ったのです」

7年間、海外で活躍後、日本に帰国し、半年間はフリーランスのダンサーやダンス講師として働く傍ら、ライティングやWebデザイン、写真など様々な仕事に挑戦した鷲見さん。その中で自分のやりたい仕事は、ダンサーをサポートするようなサービスを構築することだと気づきます。
「具体的には、けがや病気をしたダンサーが世界中どこにいても、居住地近くで必要な治療を受けられるよう、病院や医師、治療法の情報を入手できるサービスをつくりたいと考えました。それを高校時代からお世話になっている先輩に話したところ、ブートキャンプ式のエンジニア養成スクール『Code Chrysalis (コードクリサリス)』を教えてもらいました。そのスクールでは、英語でプログラミングを学び、3か月で開発の上流から下流まで全てをこなせるフルスタックエンジニアを目指せることを知りました。長く海外生活をしていたため、英語でのコミュニケーションには自信があり、直感的に自分の武器を生かしながら学べると感じたのです」

スクールに入学し、本格的にプログラミングを学び始めた鷲見さん。英語で話すことには慣れていたものの、「ソフトウェア開発は全くバレエと異なる分野。専門用語が並んだ英語のドキュメントを読むのが大変でした」と当時を振り返ります。
「つらい時に支えてくれたのは、クラスの仲間や講師の方々です。チームで開発する課題が多かったため、同じ目標に向かって頑張っている仲間と励まし合いながら学習を進めました。特に講師の方は、一人ひとりの生徒に対して敬意を持って接してくれ、とても感謝しています。私は大学も卒業していませんし、プログラミングにはほとんど触れたことがなかったのですが、『人と比較して焦るのではなく、自分のスタート地点からどう成長したかに目を向けなさい』といつも前向きな声掛けをしてくれ、諦めずに課題に取り組むことができました」

エンジニアとして
学び続けることが大切

スクールを卒業後、鷲見さんは、フリーランスのエンジニアとして、教育やヘルスケア領域のスタートアップで開発に携わりました。
「フルスタックエンジニアを目指して3か月間、勉強していたので、自分の力を試してみたいと考え、工程の一部分だけでなく、最初から最後まで一人で開発に携われるスタートアップでの開発を選びました。そこで経験を積むうちに、プロダクトを作って終りでなく、運用後の検証や改善を行い、プロダクトをスケールアップして社会貢献したいという思いが強くなっていきました」

そこで鷲見さんは、株式会社ブレインパッドに転職。現在は、機械学習を活用したアプリケーションを開発するエンジニアとして働いています。クライアントは日本を代表する大企業です。最近は、大規模業務アプリケーションの開発に携わっており、AIを利用した配送最適化システムのウェブアプリケーションを開発しています。
「お客様の要望を聞き、実際にどのようなデータを集め、どのような分析の仕組みを作り、アプリケーションに落とし込むか、データ分析の川上から川下まで手掛けられるので非常にやりがいが大きいです」

鷲見さんが業務で扱う技術領域は非常に幅広く、クライアントの業種も様々なため常に学び続ける必要があると言います。
「転職前は、JavaScriptを使ってプログラミングをすることが多かったですが、現在はPythonが中心のため新たに勉強を続けています。また、経験を積むにつれて徐々にシステム全体の構成を考える立場になってきたので、どのようなアーキテクチャー(設計思想)にすれば、チームメンバーも動きやすく、クライアントの要望に応えられるのかを勉強中です。関連する書籍を読んだり、Udemyを含め海外の動画教材を見たりして学んでいます」

自らの視野を広げるため
複数のコミュニティに所属

鷲見さんは、平日はエンジニアとして忙しく働く傍ら、週末を中心にバレエダンサーとしての仕事も続けています。デュアルキャリアにこだわる理由を次のように話します。
「バレエダンサーであるということが私のアイデンティティーですし、週末にバレエを踊ることで心身ともにリフレッシュできるため、身体が動く限りは踊り続けたいと考えています。また、複数のコミュニティに所属すると、新しいアイデアが生まれやすいと感じています」

鷲見さんは自らの視野を広げたいと考え、様々な団体にも入り社会課題の解決に取り組んでいます。現在は、世界経済フォーラムにより組織され、多様なバックグラウンドを持つ若者によるコミュニティ『Global Shapers Community(グローバルシェイパーズコミュニティ)福岡ハブ』という団体で、社会問題や環境問題を解決するためのプロジェクトに携わるほか、IT分野のジェンダーギャップ解消に取り組む一般社団法人『Waffle(ワッフル)』という団体で、女子中高生のメンターとして開発の面白さを伝える手伝いもしていました。
「バレエダンサーをサポートするサービスを開発したいと思いエンジニアになりましたが、企業で働くようになり、狭い世界で物事を考えていたことを実感しました。そこで今は、できるだけ自分とは異なる視点を持つ人がいるコミュニティに入り、新たな気づきを得たいと考えています。バレエダンサーに限らず、社会人のキャリアをサポートするなど、より広い視点で社会問題の解決に取り組みたいと考えています」

目標である社会問題を解決するための開発に取り組むために学びを続ける鷲見さん。社会人が学び続けるためのコツを聞いてみました。
「『もっと学びたい』という実感の有無が、自分がやりたい仕事ができているかどうかの指標になっています。バレエダンサーとしても、エンジニアとしても、学びたいことがまだまだ沢山あるからこそ続けられています。それが感じられなくなったときは、もしかするとその仕事への情熱が少なくなっているのかもしれません。そうした時は、視点を変えてみたり、周囲の人と話してみたりすると、挑戦したいことややりたいことに気づくと思います。それが見えてくれば自ずと学びに向かいたくなるはずです」