Benesse 「よく生きる」

Learners’ Voice 学び続ける大人たち

学びは人生を
豊かにするための投資

西田真帆さん

企画室

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京の人材紹介会社で法人営業として勤務。2020年3月に地元・大分に戻り、父親が代表取締役を務める佐伯海産株式会社に入社。企画室にてSNSを活用した広報活動やホームページ制作などに携わる。現在は、大分県のSTEAM教育事業の一環として、高校の「総合的な探究の時間」のコーディネーターとして地元企業と高校をつなぐ仕事も行っている。
「人生100年時代」と言われる現在、人生を豊かにするためには、大人になってからも学び続けることが欠かせません。本コーナーでは学びにより自己実現を果たした方へのインタビューを通して、学ぶ気持ちの後押しや学び続けるためのヒントを発見し、学習者を応援していきます。

今回登場するのは、東京の人材紹介会社で法人営業として勤務後、地元大分に戻り海産物の卸売や小売を営むお父様の会社で、SNSを中心とした広報活動に従事している西田さんにお話をお聞きしました。

地元や家族、家業のことを
知りたいと
Uターンを決意

旬の魚や果物、魚介類を使ったお惣菜など、食欲を誘う彩り豊かな写真がズラリと並ぶ「さいき海の市場○」のInstagram。それらの記事作成と写真撮影を手がけるのが、佐伯海産株式会社企画室の西田真帆さんです。同社は、大分県随一の水産都市である佐伯市で、海産物の卸売や小売業を営んでおり、西田さんのお父様が3代目の代表取締役を務めています。

西田さんは高校時代まで「家業は弟が継ぐだろうし、地元に自分のやりたい事はない」と考え、東京の大学に進学。地元・大分で働くことは全く考えていなかったといいます。

そんな気持ちに変化が表れたのは、大学の論文作成のために地元に帰った時でした。
「父に紹介され、取引先の干物加工会社の社長さんに話をうかがいに行きました。仕事に誇りを持ち、地元を愛する気持ちが強く伝わってきました。こんなに素敵な方が地元にいるのだと、驚くと同時に、佐伯で100年以上も歴史を持つ父の会社のことや地元の産業について全く知らなかったのだと気づかされました」

そうした思いを抱きつつも、大学卒業後は、東京の人材紹介会社に就職し、法人営業として働くことになった西田さん。企業のトップや採用担当者と話し、採用計画の手伝いをする仕事にやりがいを感じていました。
「様々な業種の代表の方からたくさんのことを勉強させてもらいましたが、次第に、同じように企業のトップとして働く父や父の会社のことをもっと知りたいと思うようになりました。このまま東京で働き、結婚や出産をしたらその機会はないかもしれない。それではこの先、後悔するのではと思い、大分へ戻ろうと決めました」

撮影やデザインスキルを
学び、
SNSで地元海産物の
魅力を発信

突然、西田さんが戻り「会社を手伝いたい」と伝えた時、家族は困惑していたそうです。ただ、お父様からは「誰も手をつけていなかったことをやってくれ」と言われ、西田さんは同社の広報活動から着手しました。
「佐伯海産は卸売だけでなく、道の駅を含む3つの店舗を持ち、小売もしていましたが、広報活動にSNSはほとんど活用できていませんでした。そこで、SΝSを活用した情報発信から始めました」
西田さんは、店舗スタッフや生産者に会いに行き、商品情報に加え、どんな思いで仕事をしているのかを取材し、その内容と商品写真をSΝSに掲載していきました。

ただ、その頃はまだ社内や取引先でもSΝSも使っている人が少なく、その効果に懐疑的な人も多かったと当時を振り返ります。
「周囲から見たら『毎日カメラを持って、何をしているのかな?』という感じだったと思います」

情報発信のための撮影や画像編集などのスキルは、一から学んでいったそうです。
「最初にInstagramでの発信を始めたのですが、魅力のある記事を作ることは想像以上に難しいことがわかりました。まずは写真の見栄えをよくしようと考え、一眼レフカメラでの撮影と写真の加工技術を学ぼうと思いました。ただ、地元にそうした写真撮影やデザインソフトを学べるスクールはありません。そこで出合ったのがオンラインで学べるUdemyです。コンテンツが豊富で、価格も手頃なのが魅力でした。早速、写真撮影とAdobe Photoshopの講座を受講し始めました」

Udemyの講座で特に役立ったのは、料理写真の講座だと話します。
「『美味しく撮れる料理写真!自然光で撮影する基礎テクニック』という講座では、食べ物を美味しく見せる構図など、素人の私でもすぐに実行できる撮影のコツが学べ、とても仕事に役立ちました。写真が好きな方や以前からSΝSを見ていた方に『最近、写真の腕が上がったね』と言われたのは、うれしかったですね」

Udemyで学習することで、少しずつ自分でも納得できる発信ができるようになった西田さん。さらに『【WEBデザイン入門】プログラミング不要!Wixで本格的なWEBサイトを作ろう!サイト作成・公開・SEO対策まで。』という講座でホームページの作成を学び、市から運営を委託されている「道の駅やよい」のホームページを作り変えることにも挑戦しました。
「ホームページの改修にあたっては、デザインコンセプトからすべて自分でやりました。初めてなのでとにかく時間がかかりましたが、20,000枚ほど撮りためていた写真も使い、半年ほどかけて完成させました」

朝5時から7時頃までインプットの時間に充てているという西田さん。Adobe Illustratorも学んで自らチラシやダイレクトメールといった販促物を作成するなど、Udemyでの学習を土台に、業務領域を広げていきました。

そうした努力が功を奏し、徐々にSNSやホームページなどでの情報発信が集客につながっていきました。
「ちりめんじゃこやお寿司などの人気商品を動画で撮影してSNSで発信したところ、10,000回以上も再生される動画もあり、『SΝSを見てきました』という声を多く聞くようになりました。道の駅のホームページも、今では月に3,000~5,000人の閲覧者がいます。生産者や店舗スタッフからも『今度はこの商品を撮影してね』と声をかけてもらえるようになり、取材もスムーズに進むようになりました」

高校生の探究学習を手伝い、
自身の学びのステージアップにも

現在、西田さんは地元の高校の「総合的な探究の時間」のコーディネーターとして地元企業と高校をつなぐ仕事も行っています。
「私が関わっている高校では、STEAM探究プロジェクトという探究学習に取り組んでおり、高校2年生が『佐伯の海の恵みを世界へ届けよう~佐伯の海産物~』というテーマで、海産物を使った商品開発を行っています。私は、コーディネーターとして干物工場の見学をセッティングしたり、企画会議に参加したりするなど、活動のお手伝いをしています」

最初に誘いを受けた時は、高校生に地元産業を伝える立場に自分が選ばれたことに驚いたという西田さん。ただ、学生時代に教師に憧れていたこともあり、すぐに手伝うことを決意したそうです。
「私は大学時代に地元のよさにやっと気づくことができましたが、自分の将来を考える高校時代にこそ地元の素晴らしさを知ってほしいです。たとえ、進学や就職で地元から出ることになっても、いつかまた戻ってこようと思う人も増えるのではないかと思います」

また、探究学習の手伝いをすることで、西田さん自身も学ぶことが大きかったといいます。
「高校生と向き合う中で、私は高校生に何が伝えられるのだろうかと考えるようになりました。そう思った時に、世代が違う人たちとも気持ちを通わせられるようなスキルを学びたいと考え、オンライン講座でNLP(神経言語プログラミング)というコミュニケーションスキルに関わる資格の勉強をしています。受講者の年齢は幅広く、海外から受講している方もいて、社会人になっても学び続ける方と出会い、とても刺激を受けています」

西田さんにとって学びはどのようなものか聞いてみました。
「私にとって学びとは、世界を広げるための手段だと思っています。私もデザインや撮影を学び、地元で新しい仕事にもチャレンジすることができ、人生を豊かにすることができました。インターネットが発達する現在、どこに住んでいても何歳になっても、オンラインで世界基準の学びに触れることができます。自分に投資した分、人生の可能性も無限大に広がっていきます。これからもそうした手段を利用して、自己成長を楽しんでいきたいです」

ますます学びに力を入れる西田さんに、今後の目標を聞いてみました。
「次期社長になる弟の一番の相談相手になりたいです。特に私は会社の組織づくりに関心があり、働く人たちが幸せになる職場を作りたいと考えています。そのためにも学び続け、会社や社会に貢献していきたいと思います」